5. 殺されかけたけれど、プロポーズされてしまった
よろしくお願いします。
……義姉さん、義姉さん…………
熱い水滴が、顔の上に滴り落ちてきます。エルウッドの哀しげな呟きが聞こえてきました。頭はぼんやりして何も思い浮かびません。首がズキリと痛むし、力が入りません。
「……エルウッド……?」
「義姉さん! よかった……! 気がついたんだね!」
私は、エルウッドに抱きしめられていたことに気づきました。エルウッドは泣いています。それから、意識を失う前にあったことを思い出しました。恐怖で体が震えます。
「……ゲホッゲホッ……で、殿下は……?」
「怖かったよね。もう大丈夫だよ。ローレンス様は乱心されたんだ。僕達で抑え込んだから。もう大丈夫。安心して」
エルウッドが指差した方を見ると、騎士団に押さえ込まれた殿下がいました。口に猿ぐつわをされ、魔力封じの首輪をされていました。
リンデン様は近くに居て、エルウッドに魔法をかけていました。癒しの術のようです。従魔のブラックフェンリルちゃんは、私の手を舐めているのが分かりました。
「エルウッド、動くな。今はお前のほうが重症だ」
「義姉さんの方が大事だよ」
「……えっ……?」
信じられない言葉が聞こえたのです。あのエルウッドが!? 私は耳まで真っ赤になって硬直してしまいました。
「もう誰の婚約者でもない。だから遠慮なんてしない。義姉さんは僕のものだ。初めて会った時から好きだったんだ。婚約者がいると分かった時は絶望したよ。本当は元に戻ってから、申し込むつもりだった。だけどもう待たない!」
「……エルウッド……?」
「義姉さん、僕と結婚してください」
エルウッドは、私の目をじっと見つめました。そしてプロポーズしてきました。記憶の中にある優しく暖かい瞳、それ以上の愛情深さと誠実な想いに満ちた瞳。私は一瞬で理解してしまった。エルウッドが私を大切に思ってくれているのだと。こんな瞳で見られたことがありません。私は涙が溢れてきました。全身が震えるような感動で満たされました。嬉しい……認めてくれてたんだね……!
「……嫌われてるとばっかり……目を合わせてくれなかったから……」
「義姉さんの瞳を見たら、正気でいられる自信がなかった。気持ちを隠せないと思った。義姉さん、僕のプロポーズを受けてくれる……?」
「……はい。こんな私でごめんね……」
「よかった!義姉さんはステキな人だよ……」
エルウッドは、とろけるような甘い笑顔を浮かべました。その時です。エルウッドの胸の辺りから、黒い靄のようなものが出てきて霧散したのです。
金色の羽が降ってきて、祝福の鐘が鳴り響きました。女神さまからの祝福です。そして、聞き覚えのある女性の声が響き渡りました。
『ああー! やっちゃった! 最後の心の闇も昇華されちゃったよ! 困るなー! これじゃあ、お姉さまに遊んでもらえないでしょ!』
「イタズラの女神パック……!」
リンデン様が叫びました。最後の心の闇は、エルウッドだったのですか……。それって私への片想いだったということでは……私はますます顔が赤くなってしまいました。
ダンジョンの上の方から、暖かい黄金の光が降り注ぎました。そして信託の間で聞こえた女神様の声が響き渡りました。
『お疲れ様でした。やっと闇が消えて、パックのいる空間に干渉できました。パック! イタズラもいい加減にして下さい! 2人の魂を元に戻してください。今回のイタズラは失敗したのです』
『お姉さまが、この世界のことばっかりで、全然相手にしてくれないからじゃないですかー!』
『だからって、公爵令嬢を魔王にして世界滅亡とか止めてください! 別世界で、あなたの企みに似たゲームを配信して、クリアできた少女をわざわざ召喚したんですから。大変だったんです』
『失敗してたよね。お姉さまのお気に入りの子を捕まえたら、お姉さまが遊んでくれると思ったんだ。魂のチェンジリングしちゃった!』
『デイジーは……優しい子なんです。誰も傷つかない友情エンドを目指してましたから』
『まあもういいかな。面白かったしね。お姉さま、また遊びましょうね』
『待ちなさい!』
美しい光が消え、女神様達の声も聞こえなくなりました。……姉妹喧嘩だったんですか……今回の大事件は……。私は脱力して、また気を失ってしまったのです。
⭐︎⭐︎⭐︎
「どれもこれも、美味しいねー! やっぱり故郷の味っていい!」
『美味しいでしょー! デイジーちゃんの好きな物、何でも出してあげるよ!』
「やったー! 何か大事なことがあった気がするんだけど、何だったかな」
『ほらほら! デイジーちゃんが読みたがってた漫画の続きも出すよー』
「やったああ! ずっと気になってたんだよね!」
『それ終わったら、一緒にゲームもしよっ!』
「はううっ! ここは天国ですか!」
デイジーこと雛菊みどりは、イタズラの女神パックと、それは楽しい夢の世界を過ごしていたのだった。
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