2. 神殿で女神様にお願いされてしまった
よろしくお願いします。
「無理です。出来ません…! 私にデイジー様の代わりが務まるとは……」
「嫌でもやってもらいます。ああ、可哀想なデイジー! 僕が代わってあげられるなら代わってあげたい」
「義姉さん、僕も手伝うから。早く元に戻ってほしい」
王都随一の大きさと美しさを誇る神殿へと、私達は来ました。元同級生で神官でもあられるリンデン様のおかげで、すぐに女神ヘメレー様の御神託を受けることができました。私達が美しい女神像にひざまずくと、すぐに像から厳かな光があふれ、気高いお声が聞こえてきたのです。まるで待っていたかのようでした。
『我が愛し子デイジーは、失敗しました。彼女は我が与えた試練を突破できた者だったのに。彼女は人々の心の闇を癒やし、王都地下ダンジョンをクリアして浄化しなければならなかったのです。そうしなければ、イタズラの神パックの力が増してしまうからです。彼女はリリー・ブラックベルを闇堕ちさせて魔王に覚醒させ、世界を滅ぼすつもりなのです。もう時間がありません! デイジーの中にいるリリーよ。貴女がデイジーの代わりに世界を救うのです。幸い、我がデイジーに与えた加護がその身に宿っています。それが助けとなるでしょう。それに、リリーの心ならば、妨害もあまり受けないと思われます。まずは神官リンデンの話を聞いてください。我はずっと見守っていますよ』
それにしても、女神様に選ばれたデイジー様の妨害をするなんて。なんて怖ろしい敵なのかしら。私なんかが勝てるのかしら……。とにかくリンデン様にお話を聞かなくては。リンデン様は苦手です。昔からずっと、私を睨みつけてくるのです。いつもブラックフェンリルちゃんが威嚇して、私を助けてくれます。今も私達を睨みつけて、何かブツブツと呟いています。闇の魔獣が嫌がる祈りの言葉でしょうか。闇魔法と神殿は対立しています。嫌われていて哀しい……。
私はふと、女神様の御神託を思い出しました。この体には、女神様の加護が宿っていると。その力を使えば、お話を聞けるかもしれません。私は女神様の加護を感じるように、精神統一しました。何か文字が浮かんできました。
女神の加護:スーパーイヤー
成功したようです。私はその文字に触れてみました。
「モフモフしたい。モフモフしたい。ああなんて可愛いんだろう。真っ黒なツヤツヤした毛並み。ルビーのように輝く瞳。毎日丁寧にブラッシングされているのだろう。触ったらフワフワして気持ちいいだろう。触りたい。モフモフしたい。顔を埋めて匂いを嗅いでみたい。フワフワモフモフフワフワモフモフ……ハアハア……フワモフ……%※⇔〓×」
リンデン様の呟きが聞こえてきました。私のブラックフェンリルちゃんは、嫌がって威嚇しています。この子は人見知りで、私以外には懐かないのです。……申し訳ないけれど、私はブラックフェンリルちゃんにお願いしました。少しの間、リンデン様に撫でられてあげてほしいと。ブラックフェンリルちゃんは、哀しそうにキューンと鳴いて、頷いてくれました。ごめんね、後で大好きなおやつをあげるからね。
私は、リンデン様に近づきました。
「よかったら、この子を撫でてみませんか。優しく撫でれば、大丈夫だと思います」
「……いいのか? いつも威嚇されていたから嫌われていると思っていた」
凝視して口の中でブツブツと呟かれてたら、怖がって威嚇すると思います。そう思いましたが、黙っていました。リンデン様は、優しくブラックフェンリルちゃんを撫でられて、ふわりと柔らかく微笑まれました。日頃無表情な方だけに、整った顔で嬉しそうな笑顔は破壊力抜群です。近くにおられた神官や巫女が、赤面して倒れました。私は、嫌がるブラックフェンリルちゃんの爪が腕に食い込んで、それどころではありませんでした。
リンデン様はお気持ちが癒されたのか、涙を浮かべて言われました。
「デイジー……、いえリリー様。どうか、私の話を聞いてくれませんか? できれば他に人がいないところで」
「はい」
よかった。リンデン様から、お話が聞けそうです。女神様のお願いを果たせそうです。しかし、デイジー様は生徒会のお仕事でリンデン様とお話する機会がたくさんあったはず。生徒会の仲間で、よくお茶会をされていたのです。生徒会に選ばれなかった私は、遠くからそれを何度もお見かけしたものです。
2人で別室に向かおうとすると、殿下が私達の前に立ち塞がりました。
「何を言うのです! 僕のデイジーを他の男と2人っきりにさせるわけにはいきません!」
「殿下、お言葉ですが、これは女神様の御神託です。リンデン様のお話を伺うべきです」
「それはそうなんですが……中身がリリー嬢なら100歩譲って、話をするだけならいいですよ。僕もついていきます!」
……デイジー様の妨害をされていたのは、殿下でしたか。
「話を秘密にしていただけるなら、殿下が居られても構わないですよ」
「……僕も一緒でいいかな。一緒に御信託を聞いたんだ。一刻でも早く義姉さんの体からデイジー嬢を元の体に戻したい」
「分かった。君も他言無用で頼むよ」
義弟のリンデンも一緒に行くことになりました。リンデンもデイジー様と仲がよかったから、彼女のことが心配でしょうね。闇堕ちして魔王になる体になど、彼女には相応しくないから。私の体は、闇の魔力が溢れ続けていた。やがて私の体は、コントロールを失った闇の魔力に蝕まれていくでしょう。その時私の魂はどうなるのでしょう。私は……。
私は考えを振り払うように、頭を振った。どんな不安があろうとも、デイジー様を助けたい。学園で、唯一私に話しかけて、一緒にお菓子を食べ、庇ってくれた方なのだから。
お読みいただきありがとうございます。
少しでも面白いと思っていただけたら、広告の下にある【★★★★★】、いいねやブクマで評価していただけると嬉しいです。
執筆の励みになります。




