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暴走聖女と魔術学園  作者: 今晩葉ミチル
ドミネーションの動向
87/112

イクリプスの独白、そして

 ブレス王国の王城には、特殊な一室がある。その場所は、ブレス王家を含めてごく一部の人間しか知らない。

 寝具や飲食物がそろえられ、隣にはシャワー室もあり、生活には困らない。主に避難用に使われる一室だ。

 その一室には大きな特徴がある。

 壁や床に複雑な文様が描かれているのだ。文様には魔力封じの効果がある。魔術による不意打ちを防ぐためのものだ。

 侵入者に備えているのである。

 この部屋の主であるイクリプスは、隅にあるベッドに腰掛けて、苦々しい表情を浮かべていた。

「忌々しい」

 今にも誰かを呪い殺しそうな視線を浮かべている。憤怒と殺意を隠していなかった。


「あの銀髪野郎、いつまで僕を煩わせば気が済むんだ」


 イクリプスは両腕を組んで歯ぎしりして、思案していた。

 銀髪野郎とはシェイドの事だ。とある女奴隷を慰み者にした所、生まれてしまった。そのうえ、女奴隷共々逃げ出したのだ。

 シェイドたちが逃亡に成功した事で、イクリプスが買い取っていた奴隷たちの中で、逃げ出そうとする人間が一気に増加した。その多くは捕らえたり、殺したが、イクリプスはブレス王国内外から非難の的になった。

「僕がどれほど惨めな想いをしたか……」

 ブレス王家から蔑まされ、人前に顔を出せなくなった。

 思い出すだけで、はらわたが煮えくり返る。

 ブレス王家との隔絶は、犯罪組織ドミネーションとあっさり手を組むきっかけとなったのだが、幹部にシェイドがいるとは思っていなかった。

 シェイドが幼い頃は圧倒的な優位を保っていたが、今は危うい。

「魔術学園グローイングで厄介な魔術を身に着けたし、一刻も早く消したいな。エリスに過度な期待はできないし」

 イクリプスの瞳に、暗い感情が宿る。

「セレネ一人を操って倒せる奴じゃないけど、いい手駒はいないかな」

 そこまで口に出して、イクリプスの口の端が上がる。


「手駒を引き寄せればいい」


 イクリプスの魔力なら、たいていの人間を操れる。一定以上の実力の魔術師たちを操り、シェイドを倒させればいい。

 イクリプスは怪しい笑いが止まらなくなった。

「シェイドを捕まえるために、世界警察ワールド・ガードの面々か魔術学園グローイングの誰かが来るだろう。ブレス王家やトワイライト家でなければ操れる。あの強気な女が来てもいい。楽しみだな」


 

 イクリプスが笑いを抑えられなくなった頃に。

 あの強気な女ことローズは、クロスの家でくしゃみをしていた。

「……変ね。風邪はひいていませんし」

 マークとベルの作った料理を口に運びながら、首を傾げる。夕飯を食べているのだ。

 ローズの隣に座るフレアは、心配そうな眼差しを浮かべる。

「風邪は誰でもひくものだから、身体を大切ね」

「分かっておりますわ。美味しいものを食べて元気になりますわ!」

 ローズは得意げに胸を張って、スープを口にする。

 フレアは微笑んだ。

「すぐに元気になりそうで良かったわ」

「元気になるのはいいが、遠慮を覚えてほしい。食材はタダではない」

 フレアの前に座るクロスが、苦言を呈する。

「誘っていないのに来るのはやめてほしい」

「この私が庶民の家で食事をするなんて、特別ですわ。ありがたく思いなさい」

「ありがたく思えないから言っている……!?」

 クロスの表情が変化する。

 両目を見開き、生唾を呑み込んでポケットをまさぐる。

 世界警察ワールド・ガードが連絡に用いる、白い護符を取り出していた。

 護符は光っていた。

 フレアは感心した。

「まだ持っていたのね」

「失くすわけにはいかないからな」

 クロスは護符を手のひらに乗せる。

 すると護符から、十文字槍を背負う、紺色の警備服を着た金髪の半透明の男が現れた。

 ブライトだった。今現在、この場にいるわけではないが、護符の魔力で虚像が浮かび上がっていた。

 マークとベルが物珍しそうに眺める。

「俺ほどじゃないが、なかなかだな」

「素直にイケメンと言ったらどう?」

 二人の会話を聞いて、ブライトは微笑んだ。

「お褒めに預かり光栄だよ。クロスもよくこの護符を持っていたね」

「ブライトさんから預かっている大切な護符ですので。緊急の連絡があればきっと知らせてくれると思いました」

「ありがとう、助かるよ。今回も厄介な事かもしれない」

 ブライトが真剣な顔になる。

 その場にいる全員が押し黙り、耳をすませた。

 ブライトは一呼吸置いて説明を始める。


「シェイドが戻ってこない。捕らえている犯罪組織ドミネーションのエージェントの話では、ブレス王国に行ったようだ」


「ブレス王国……何のためでしょうか?」


 クロスが疑問を呈すると、ブライトは首を横に振った。

「エージェントの話では、シェイドはセレネの様子を見に行ったそうだが、裏は取れていない」

「セレネもブレス王国にいるの!?」

 フレアが両目を丸くした。

 ブライトは苦々しい表情で頷いた。

「セレネは世界警察ワールド・ガードの本拠地を抜け出している。どうやって逃げたのか調査中だ。ブレス王国にはエリスがいるし、嫌な予感がする」

「嫌な予感って?」


 フレアが尋ねると、ブライトは深い溜め息を吐いた。


「犯罪組織ドミネーションの幹部とエージェントが合流したのなら、大きな事ができるだろう。世界警察ワールド・ガードの本拠地はもちろん、魔術学園グローイングが攻め込まれるかもしれない」 

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