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暴走聖女と魔術学園  作者: 今晩葉ミチル
魔術学園グローイング
8/112

役立たずのままでいたくない

 フレアはおろおろしていた。

「その……私の魔力がまた溢れちゃって……止まらなくて……」

 フレアが言っているそばで、ビーカーの赤黒い液体から数本の赤い光線が出現した。実習室中が激しく照らされる。

 世界警察ワールド・ガードの警備隊が魔力を放って止めようとする。水の魔力で相殺を狙ったり、より高い火力の玉で制御可能な爆発を生み出して消そうとした。

 しかし、いずれも赤い光線にぶつかると瞬時に消滅した。水は蒸発し、火力の玉は霧散した。

 光線は実習室中を駆け巡り、いくつものテーブルや壁を粉砕していく。

 クロスはそんな大惨事に対処しようと、呪文を唱える。


「カオス・スペル、リターン、リーンフォースメント」


 クロスが両手を広げると、黒い波が実習室を満たす。暗く淀んだ波は赤い光線を徐々に削ると同時に、赤黒い液体の入ったビーカーを黒く染める。

 確実に光が和らいでいる。

 歓声があがる。

 しかし、クロスの表情は苦い。

「この魔術は長く持たない。フレア、急いで制御してくれ」

「ど、どうすればいいの?」

「おまえの魔力特性はバースト・フェニックスで間違いないだろう。それを利用するしかない」

 クロスはかすれた声で語る。

「イメージしろ。魔力特性を完璧に身に着けた自分を。おまえは魔術師だ。魔力に使われる人間でなく、魔力を使う人間になれ」

 クロスの言葉をフレアはあまりよく理解できなかった。

 しかし、何もしなければクロスをいたずらに消耗させるだけだ。

 フレアの胸の内に熱さが生まれる。


「……私は役立たずのままでいたくない」


 フレアは両目をしっかり開けて手のひらを天井に向ける。

 数本の赤い光線が天井に向かう。

 その光線を見つめて、フレアは叫ぶ。


「バースト・フェニックス、今は引っ込んで!」


 光線が曲がり、全部がフレアに向かう。

 一本一本が計り知れない破壊力を持つ。そんなものを一身に受けたらひとたまりもないだろう。

 しかし、フレアにためらいはない。

「私の思うままに動いて!」

 フレアの周囲に光線が着弾する。

 床が音を立てて砕かれる。もうもうとした煙が立ち込めた。

 クロスが声を張り上げる。

「もう少しだ! あとはおまえが本当にやりたかった事を強くイメージしろ!」

 返事はない。

 煙が消えた後に疲れ切った表情のフレアが立っていた。

 クロスが両膝をつく。

 黒い波は消えて、黒く染まっていたビーカーが元通りになる。

 そのビーカーには虹色の液体が入っていた。

 イーグルが驚きのあまり腰を抜かした。

 震える指で虹色の液体を指さす。


「こ、これは……エリクサーだ! ポーションなんて比べ物にならない回復薬だ。その中でも最高級の代物だ!」


 イーグルは立ち上がれない。

 フレアはコクリと頷いた。

「エリクサーが誰かの役に立つといいと思うわ」

「役に立つ立たないのレベルではない! 伝説級のものだ!」

 イーグルは這いずりながらビーカーに近づく。

「生きている間にお目にかかれるなんて……」

「……本当に良かった」

 クロスが微笑む。

 フレアは両手を広げてクロスを抱きしめた。

「本当にありがとう! あなたのおかげよ! あれ、クロス君?」

 クロスは力無くフレアにもたれかかっていた。揺り動かしても両目を閉じたままだ。

 かすかな呼吸をしているが、顔色が悪い。意識を失っていた。

 フレアは悲鳴をあげた。


「クロス君、しっかりして!」


「……昏倒したか」


 苦々しく呟いたのは、イーグルだった。

「魔力の限界を迎えた魔術師は、例外なく昏倒する。しばらく意識を失うだけですめば軽い方だ。意識がないままの状態が続いたり、命を失う人間もいる」

「今まで倒れなかったのに、どうしてですの!?」

 ローズが驚嘆していた。

 イーグルは気まずそうに視線を落とす。

「疲労が重なったうえにカオス・スペルの合わせ技をやったからだろう。本来ならそんな無茶を生徒にやらせてはいけなかったのだが……」

「そんな、クロス君はどうなるのですか!?」

 フレアがイーグルに問い詰める。

 イーグルは首を横に振る。

「分からない」

「イーグル先生、クロス君を助けてください!」

「俺にはどうしようもない。ひとまず保健室に連れて行って神に祈るしかない」

 フレアは言葉を失った。

 涙が込み上げる。

「私はまだ……クロス君に恩を返していないのに」

 バカにされた時に庇ってくれた事、フレアの魔術の制御のために全力を尽くしてくれた事など、記憶が蘇る。

「ねぇクロス君、目を覚まして、お願い!」

「クロスを助けるものならそこにあるだろう」

 優しい声が掛けられた。

 振り向くと、実習室の入り口に十文字槍を背負う金髪の青年が立っていた。

 ブライトだ。

 フレアの両目は輝いた。

「お兄ちゃん!」

「感動の再会は後だ。まずはクロスを助けよう。君が作ったエリクサーを使うんだ」

「私のエリクサーで?」

 フレアの心臓の鼓動が高まる。

 ポーションの材料からエリクサーが出来たと言われたが、本当に成功しているのかは分からない。

 フレアの胸の内は不安でいっぱいであった。

 そんなフレアの頭を、ブライトが撫でる。

「怖いのは分かる。でも、このままでは友達がどうなるのか分からない。何かあれば、僕が対処する。心配はいらない」

「……分かった。やってみる」

 クロスをそっと床に寝かせる。

 フレアはエリクサーの入ったビーカーを手に取り、クロスの口元に注ぐ。

「……こぼれちゃう」

 明らかに飲み込んでいない。

 フレアの頬に涙が伝う。

 そんな時にフレアの耳元で声を荒げる人間がいた。


「しっかりしなさい! 泣くのは早いのではありませんの!? あなたはホーリー家を背負っているのではありませんの!?」


 ローズの両目が吊り上がっていた。厳しくも熱い言葉であった。

 フレアは微笑む。

「ありがとう、頑張る!」

 微笑んだまま、エリクサーを口に含む。

 その口をクロスの口に付けた。

 クロスの頬に血の気が戻る。彼の全身が一瞬だけ淡く光った後で、目を開けた。


「俺は……?」


「フレアに助けられたよ」


 ブライトがイタズラっぽく笑った。

 生徒たちの間に歓声があがる。

 フレアはクロスに抱きついて泣きじゃくっていた。

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