図書室
魔術学園グローイングの図書室は渡り廊下を行った先にあり、階を隔てて何層にも分かれている。
いずれの階の本棚にも、本がびっしりと詰まっている。魔術以外の本も、新しい本から古い本まで取り揃えてある。
知識の宝庫といえる空間だ。
フレアとクロスは歩くほどに圧倒されていた。
「本の数がすごいわね」
「ここの知識を集めるのは一生掛かるかもしれないが、やりがいはありそうだ」
クロスは歩きながら深呼吸をした。
「本特有の香りはいいな。落ち着く」
「クロス君は本が好きなのね」
「俺より本を読む人間はたくさんいる」
クロスの返答に、フレアは思わず吹き出した。
「クロス君は相変わらず謙虚ね」
「俺もまだまだというだけだ」
「そうですわね、私に比べればまだまだですわ」
フレアとクロスの会話を、後ろから聞いていたローズが胸を張る。
いつもより声は小さいが、勝ち気な雰囲気は相変わらずだ。
「姓はクォーツ、名はローズ。この私の読書量はすばらしいものですわ」
「そんなに読んでいるのか。どんな内容だ?」
クロスが尋ねると、ローズは自らの金髪をかきあげた。
「決まっておりますわ。地の魔術に関する専門書に趣味も少々。この図書室の本の量はなかなかですけど、クォーツ家秘蔵の本棚もすごいのですのよ」
「本当に!?」
フレアの両目が見開いた。
「クォーツ家にも、こんなにすごい数の本があるの!?」
「当然ですわ! クォーツ家は地の魔術に長けた超名門貴族ですもの!」
ローズは高笑いをあげる。
フレアは尊敬の眼差しを向けていた。
「すごいなぁ……」
「すごいのは認めるが、ここは図書室だ。静かにした方がいいだろう」
クロスが淡々と告げた。
周囲の視線が冷たい。
ローズは気まずそうに視線をそらしながら、おほ、おほほと小声を発していた。
階段を降りると、魔術関連の本棚が見つかった。
いずれも分厚く、読破するのは苦労するだろう。
フレアは試しに手近にあった本を開くが、細かい文字がびっしりと書かれていて、目が回りそうになった。
「難しくて頭に入らないわ」
「読書に慣れないうちはそうだろう。もっと簡単な本から始めた方がいいと思う」
クロスは辺りを見渡すと、迷う事無く歩みを進める。
フレアとローズがついて行くと、クロスが一冊の本を広げていた。
幼い子供でも読めそうな、絵だらけの本だった。
ローズが鼻で笑う。
「いくらなんでも舐めすぎですわ。フレアだって魔術師を目指しているのですもの。専門書に挑戦するべきですわ」
ローズの言葉に、クロスは首を横に振る。
「絵本とはいえ侮れない。ブレス王家に関する記載がある。フレアの魔力特性の知識につながるかもしれない」
「ブレス王家!?」
ローズの声が裏返る。
フレアも前のめりになる。
「どんな事が書かれているの!?」
「二人とも声が大きい。本の内容を知りたかったら、読んでみるといい」
クロスにたしなめられて、フレアは口を開かないように気を付けながら絵本を受け取った。
改めて読むと、簡易な文字で書かれている。
ブレス王家には光と闇の血筋があり、時々喧嘩をするが、仲良く暮らしているという内容だ。
そんな王家が支配するブレス王国を守るために頑張る人たちもいるという。
フレアは感心した。
「ブレス王家は光と闇に分かれていたんだ」
「所詮は絵本でしょう? どこにでもありそうな内容ですし」
ローズが口を挟むが、フレアは首を横に振る。
「私は絵本の内容すら知らなかったの。ここから始めないと」
フレアは辺りを見渡す。
ブレス王家に関する文献は多い。歴史を辿るだけで何日も掛かりそうだ。
「こんなに勉強する事があるんだ……でも、やらないと」
フレアは決意を新たに本を手に取る。
クロスは頷いた。
「俺もできるだけ手伝う。一緒に勉強したい」
クロスとフレアで本を読み始めると、ローズも本を手に取った。
「私はフレアの魔術制御につながる知識を手に入れてみせますわ」
フレアは感激した。
二人とも、フレアのために調べものをしているのだ。
「ありがとう」
フレアが感謝を告げると、クロスは首を横に振り、ローズは小声でおほほと笑っていた。
二人の労力を無駄にしないために、フレアは本を読む手に力を込めた。




