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暴走聖女と魔術学園  作者: 今晩葉ミチル
様々な思惑
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とんでもない約束

 フレアの身体は赤い燐光を帯び、足元が溶けていく。

 そんな事態を放っておくわけにいかず、クロスはフレアの両肩を掴んだ。

「イメージしろ。おまえの魔力は抑えられる。沸き立つ感情を落ち着けるんだ」

 クロスに優しく言われて、フレアは涙ぐみながら深呼吸を始めた。

 フレアはショックを隠す事ができない。

 シェイドがブレス王家の血筋を継いでいて、実の父親を憎んでいるという話が衝撃的だったのだ。

「……辛かったよね、シェイド」

 フレアが言葉を掛けると、シェイドは首を傾げた。


「人を憎むのになんで辛くなる必要があるんだ?」


「だってお父さんだよ!? 家族を憎むなんて絶対に嫌だよ。私だったら耐えられない」


 フレアの瞳から涙がこぼれる。

 心なしか燐光が強くなる。熱を帯びている。

 フレアの両肩に触れるクロスの手が、赤くなる。火傷しそうである。

 クロスが危ない事は分かっている。しかし、フレアは感情が抑えられない。


「辛かったから憎むんでしょ!?」


 フレアが声を張り上げた時に、赤い光の柱が生まれた。轟音が響き渡り、天井を貫く。柱はこのままでは際限なく広がるだろう。

 世界警察ワールド・ガードの面々が大量の水や氷を召喚して柱にぶつけるが、すぐに消滅する。柱を食い止めようとするが、効果は無かった。

 フレアは力なくうなだれた。

「……私って本当にどうしようもないわ」

 感情と暴走を抑えたいが、胸の内が荒れ狂っている。深呼吸をした程度ではなだめられない。

「本当にごめんなさい」

 フレアは嗚咽をもらした。

 そんなフレアを、クロスは抱きしめた。火傷しそうな熱さを感じているはずなのに、柔らかな表情を浮かべている。


「ごめん。俺は満足だったが、シェイドの素性をおまえの前で暴くべきではなかったな」


 クロスの言葉に、フレアは首を横に振った。

「ううん、ブレス王家の事を知る事ができて良かったわ。すぐには受け入れられないけど」

「受け入れる必要はないだろう。おまえは全く悪くない」

「悪くないかな……?」

 フレアがためらいがちに聞き返すと、クロスは力強く頷いた。

「何でも自分のせいにしたら、周囲の人間も辛くなる。たとえば俺がシェイドの素性を暴いたのに罪悪感を抱いたら、おまえが辛いだろう」

「……そうだね。クロス君が辛かったら、私も辛いわ」

 フレアは涙をぬぐった。

 クロスの率直さに救われる。

 胸の内が穏やかになっていく。

 それを察したのか、クロスが魔術を放つ。


「カオス・スペル、リターン」


 クロスから生まれた黒い波動に溶け込むように、赤い柱も燐光も消えていった。

 フレアは微笑んだ。

「ありがとう。もう少し冷静になろうと思うわ」

「優しいのはおまえのいい所だ。感情が高ぶる事があるが、悪い事じゃないだろう。俺も救われているのを忘れないでほしい」

 クロスはそっとフレアから離れる。

「シェイドにはもう少し話す事がある。フレアには聞かれたくない言葉が混ざる。部屋を出てもらっていいか?」

「分かったわ」

 フレアは頷いて部屋の外へ歩く。聞かれたくないという言葉をわざわざ聞く事はないだろう。

 フレアが世界警察の一員と共に部屋を出たのを確認して、クロスはシェイドに向き直る。

「俺は好奇心でおまえの素性を暴いたわけではない。素性を暴いたうえで、やってほしい事がある」

 先ほどとは打って変わって冷淡な口調になっている。

 シェイドは溜め息を吐いた。

「何を頼むとしても、随分と都合がよすぎるという意識はあるよな?」

「分かっている。仲間になれと言われて断ったし、俺とフレアの魔術に勝てなかったせいでおまえたちは世界警察ワールド・ガードに捕まる事になった」

「よく分かっているじゃねぇか。あんたの頼み事は、俺にも利益がないと引き受けられないのも分かっているよな?」

 シェイドが念を押す。

 フレアが貫いた天井の穴から、風が吹き込んでくる。その場にいる全員の髪や服をなぶる。

 クロスは一呼吸置いて言葉をつむぐ。


「フレアの暴走を防ぐ手立てを教えろ。彼女は魔術の暴走さえなかったら、犯罪組織ドミネーションを壊滅させるなんてやらないだろう。おまえたちにも利益があるはずだ」


「無茶言うな。あの嬢ちゃんの魔力特性は異常だ。呪文を唱えていないくせに、感情だけで魔術を放ちやがる。暴走をさせないようにするには、感情を抜き去るしか思いつかねぇぜ」


「それはフレアのためにならない。頼み事を変える。おまえが直接フレアの魔術を封印したり、制御の指導をする事はできないか?」


 沈黙がよぎる。

 長いような短いような時間が流れた。驚きのあまり、誰も何も言えないでいた。

 やがて口を開いたのは、シェイドだった。含み笑いを浮かべている。

「世界警察ワールド・ガードに捕まって魔力を封じられた状態で、できるわけねぇな」

 クロスは頷く。

「分かっている。世界警察ワールド・ガードの方々にもお伺いを立てるべきだとは思っている」

「ちょっと待て! この男の魔力を解き放つべきでないぞ!」

 片手で制止のポーズを取ったのは、世界警察の長官グランドだった。

「たとえフレアの魔力が制御されても、どんな害悪がまき散らされるのか分かったものではないぞ!」

「危険なのは重々承知しております。しかし、フレアの魔力が暴走するままでは、いつどんな時に罪のない人たちが巻き込まれるのか分かりません。それこそ大きな害悪だと思います」

 淡々とした口調でクロスは続ける。

「フレアの魔術を制御できる人材は限られています。悔しくて死にたくなるくらい悲しいのですが、俺よりずっと魔力が高いシェイドが向いています」

「死にたくなるとか気になる発言が多いが、あえて放っておいてやる。フレアの魔術制御に成功したら、当然俺に報酬はあるんだな?」

 シェイドが口の端を上げて、右手の人差し指を立てる。


「他人の魔術制御は骨が折れるんだ。ただで引き受けるなんてありえないぜ。一つ、俺の言う事を何でも聞いてもらうぜ」


 クロスは大粒の唾を呑み込んだ。

「おまえの要求は何だ?」

「成功するか分かんねぇし、やってほしい時に言う。タイミングは俺次第にさせてもらうぜ」

「分かった。おまえの魔力解放に関して、世界警察ワールド・ガードの方々も意見があるだろう。この話は立ち消える可能性があると承知しておけ」

 クロスが告げると、シェイドはほくそ笑んだ。

「立ち消える事は無いと思うぜ。フレアの暴走にみんな困っているだろ」

「……俺はフレアが他の人と喜びも悲しみも共有できればいいと思っている」

 クロスの声がかすかに震えた。


「フレアは怒りや悲しみが高ぶると魔力の制御ができなくなる。気を許した家族でさえ感情を共有できない。俺なら耐えられないが、フレアは何年も堪えている。俺のエゴにすぎないが、フレアに幸せになってほしいのは本当だ」


 クロスの感情の高まりを、シェイドは察したのだろう。

 ははっと軽く笑ったが、あざ笑う雰囲気は無い。

「幸せになってほしい人間がいるのは、まあ理解できる。俺の魔力が戻ったら、フレアの魔術が制御できるように最善を尽くすぜ。ただし、俺の言う事を聞くのも忘れるなよ」

「分かった。約束は守る」

 クロスは頷いた。

 とんでもない約束となるかもしれない。しかし、後悔はない。

 正直か嘘か見抜く水晶玉は、白く輝いていた。

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