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暴走聖女と魔術学園  作者: 今晩葉ミチル
様々な思惑
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クロスの詰問

 シェイドがブレス王家の血筋を引いている可能性が高い。

 そんなクロスの言葉に、世界警察ワールド・ガードの面々でどよめきが起こる。グリームとイーグルが顔を見合わせて、互いに首を横に振る。

 フレアも何も言えずにいた。

 グランドが眉をひそめる。

「……シェイドに姓はないはずじゃ」

 シェイドが自らに姓はないと言った時に、水晶玉は白く輝いた。その時にシェイドは本当の事を言っている事になる。

 グランドは首を傾げた。

「貴族以上の身分があれば、姓はあるはず。ブレス王家の血筋を継いでいれば、当然姓があるはずじゃが……」

「例外があります。ブレス王家の血筋を継いでいながら、王家の人間と認められない場合です」

 クロスの言葉に、その場にいる全員が両目を白黒させた。

 クロスは続ける。


「ブレス王国の人々は平和に暮らしていました。しかし、王侯貴族の全員が必ずしも品行方正ではなかった可能性があるのです。ここからは残酷な暴きになります。気をしっかり持ってください」


 クロスが忠告すると、シェイドが椅子に座り直し、両手で制止のポーズを取る。

「……少し時間が欲しい。吐き気がするんだ」

「おまえに配慮するつもりはない。吐きたければ吐けばいいだろう」

「俺だけに厳しすぎるだろ」

「胸に手を当てて日頃の行いを考えろ」

 クロスの冷淡な態度に、シェイドは乾いた笑いを浮かべる。

「ろくでもない行動ならいくらでも思い当たるぜ」

「……まあ、そうだろうな」

 クロスは間をおいて、頷いた。

 イーグルが両目をパチクリさせる。


「さっぱり分からん。俺たちにも分かるように話してくれ」


「平たく言えば、ブレス王家にも悪逆非道な人間がいたという事です。シェイドは、女性に無理やり子供を産ませるブレス王家の人間に、心当たりがあるのでしょう」


 クロスが淡々と告げる。

「もっと言えば、その女性から生まれたのがシェイドなのでしょう」

 その場にいる全員が唖然とした。

 クロスはさらに続ける。


「おそらくその女性は、奴隷だったのでしょう。ブレス王家に逆らえないし、我が子を守る力も無かったのでしょう。シェイドは小さい頃に痺れ薬に慣らされたと言っていました。訓練でなく、虐待だったのでしょう」


 フレアはハッとした。

 ストリーム村でシェイドやセレネと戦った時に、ローズが魔術で痺れる効果のある花粉をまき散らしたが、シェイドには全く効果が無かった。

 フレアは唾を呑み込んだ。


「あの経験が役に立つなんて、世の中分からないとも言っていたわ」


 沈黙が流れる。

 フレアにとって重苦しい時間となった。気まずさを感じていた。しかし、間違った事は言っていないはずだ。

 やがてシェイドは溜め息を吐いた。

「……俺が奴隷だったのは事実だが、今までの話だとブレス王家の血を引いているとは限らねぇな」

「別の人間が父親である可能性があると言いたいのか? その線は薄い。おまえの膨大な魔力の説明がつかない」

 クロスは口調も表情も変えずに言っていた。


「おまえの魔術に対する執念はすごかった。よく勉強もしたのだろう。だが、それだけでは迷宮で本気を出したフレアと魔術でやり合える理由にならない」


 フレアは迷宮の戦いを思い出していた。

 シェイドの前にブライトが倒れて、大ピンチに陥っていた。

 みんなを守りたくて、バースト・フェニックスの制御を考えずに魔術を放った。シェイドはその魔術に対抗してみせた。

「フレア自身が魔術を抑えるイメージをしてくれないと、俺は対応できなかった。ブライトさんも、世界警察ワールド・ガードの補助がなければ、フレアの全力を抑えるのは厳しかったはずです」

 クロスの言葉に、ブライトは頷いた。

 魔術学園グローイングの練習場で行った特訓を思い出しているのだろう。

「言われてみると、フレアもシェイドも、僕たちホーリー家の魔力を凌駕しているね。ブレス王家の血筋を引くのなら、そんな圧倒的な魔力を持つのも分かるよ」

 シェイドが歯を食いしばり、両の拳を握る。拳から血がにじんでいる。

 ブライトはシェイドの首筋に槍を突きつけた。

「暴れるのなら刺すよ」

「……あんたらに何かするつもりはねぇよ。ただ、愚痴くらいこぼしたいぜ」

 シェイドの表情は苦々しく、口調は重い。

「勘づいていたが、改めて言われると腹が立つ。あんな男と同じ血が流れているなんてな」

「誰と同じ血が?」

 ブライトが尋ねると、シェイドは一呼吸置いた。


「イクリプス。俺も母さんも、あいつにいい様にされた。ブレス王家は黙認していたな。ブレス王国を襲撃した時には、イクリプスは身代わりを置いて逃げやがったが」


 シェイドの瞳に殺意が宿る。

「俺がここで殺されても、化けて出て、あの野郎を呪ってやる」

「……本気で言っているの?」

 フレアが口を開いた。

「自分のお父さんが憎いなんて、本気なの?」

「俺とあんたじゃ育った環境が違うんだ。憎いものは憎いぜ」

 水晶玉は白く輝く。シェイドの正直な気持ちなのだろう。

 フレアは皮肉に感じた。フレアは実の父親を知らない。しかし、ホーリー家に父親代わりの人間ならいる。優しくて、フレアを大事にしてくれた。

 シェイドの言い分は分かるが、ひどく悲しくなった。

 胸の内が激しく波打つ。

 その波打ちに呼応するように、フレアの足元が溶けだした。

 気づけば、フレアは赤い燐光を帯びていた。

「……ごめんなさい。また暴走しているみたい」

「俺に謝るな。クロス、あんたが俺の素性を暴いたせいだ。責任取れよ」

 シェイドは憔悴した顔で溜め息を吐いていた。

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