悪夢の魔術師の素性
シェイドの取り調べは、地下の個室で行われる。
壁や床や天井の至る所に文様の描かれた部屋である。もともと描かれていたのか、シェイドの魔力を封じるために後から念入りに書き込まれたのかは分からないが、物々しい雰囲気だ。
そんな部屋の中央で、シェイドは椅子に座っていた。上下の分かれた白い囚人服を着ていて、床から伸びた鎖に右足がつながれている。手枷は付けられたままだ。左膝を曲げて、膝上に両手を乗せている。
シェイドの後ろには、十文字槍を構えたブライトと、剣を構える警備服の女がいる。シェイドが危険な行動をすればすぐに対処するためだろう。
部屋は決して狭くないのだが、世界警察の面々が並ぶせいで圧迫感を覚える。部屋の隅に、水晶玉を持つ女もいる。
フレアもグリームもイーグルも、胸が締め付けられそうなほど緊張していた。
クロスは冷静な眼差しをしていたが、額にじんわりと汗をにじませている。
その場にいる誰もが緊迫していた。
世界警察の長官グランドも例外ではない。
「これより犯罪組織ドミネーションの幹部シェイドの取り調べを行う」
厳かな口調だった。眼光鋭く、シェイドを見据える。
シェイドはほくそ笑むだけだ。
グランドは鼻を鳴らして言葉を続ける。
「まずは簡単な質問に答えてもらう。名を名乗れ」
「シェイド。姓はないぜ」
シェイドが答えると、グランドが部屋の隅に視線を移す。女の持つ水晶玉が白く輝いた。
グランドは頷いて次の言葉を口にする。
「これから三つの質問をする。すべて、はいと答えろ。準備はいいか?」
「はい」
シェイドは素直に従った。水晶玉は白く輝く。
グランドは表情も口調も変えずに、次の質問に移る。
「お主は女か?」
「はい」
水晶玉が黒く染まる。
フレアがクロスに耳打ちする。
「あの水晶玉は正直に言えば白く、嘘を言えば黒くなるのね」
「私語は慎みなさい」
剣を構える女にたしなめられて、フレアは一言謝って黙る事にした。
グランドはフレアに目もくれずに質問を続ける。
「これからは正直に答えてもらう。構わんな?」
「はい」
水晶玉は白く輝く。
グランドは一呼吸置いて、言葉を紡ぐ。
「まずは犯罪組織ドミネーションについてじゃ。誰が何の目的で結成し、どんな能力の人間がいるのか知っているだけ答えろ」
「ジェノが実力通りに評価がされる世界を作るとか言っていたぜ。メンバーは魔術師が中心だが、料理人、大工、収集家、狩人、俺が知っているだけでいろいろだ」
「犯罪組織ドミネーションの魔術師の魔力特性を知っているだけ答えろ」
「ドミネーション、ファントム・ジュエリー、アクア・ウィンド、ダーク・ファイア、ディストラクション、イービル・ナイト。他にもあったと思うが、すぐには思い出せねぇよ」
シェイドはあくびをしていた。思い出そうという気配がない。
しかし、水晶玉は白く輝く。
「あえて忘れているのかもしれません」
水晶玉を持つ女の呟きに、グランドは頷いた。
「舐めた態度を取りおって」
グランドの口調から苛立ちを窺える。犯罪組織ドミネーションの核心に迫る決め手がないのだろう。
そんな時に、クロスが一歩前に出た。
「差し出がましいのは承知しておりますが、俺から聞きたい事があります。よろしいでしょうか?」
グランドは茶色い髭をいじりだした。
「構わぬが……危険を察したらすぐに止めるぞ」
「お気遣いに感謝いたします」
クロスは丁寧に一礼して、シェイドに向き直る。
「おまえの素性は気になる部分が多すぎる。おそらくおまえを不愉快にさせるが、覚悟してほしい」
クロスの瞳に冷酷な光が宿る。
シェイドは含み笑いをした。
「どうせ覚悟ができなくても、根ほり葉ほり聞くんだろ」
「一方的に告げる部分もある。先に結論を言うが、おまえはブレス王家の血筋を継いでいる可能性が高い」
クロスは相変わらず淡々と言っていた。
シェイドは言葉を失い、両目を見開いた。
 




