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暴走聖女と魔術学園  作者: 今晩葉ミチル
様々な思惑
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世界警察の本拠地

 魔術学園グローイングから西を歩くと、程なくして分厚い岩の防壁が見えてくる。

 防壁は青空のもとに、鮮明に見えていた。

 大きなくぼみや焼け焦げた跡が、襲撃の生々しさを窺わせる。

 世界警察ワールド・ガードの本拠地は、この防壁の内側に位置する。

 鉄でできた堅牢な四角い建物で、防壁と違ってほとんど傷がない。

 鉄壁の守りを感じさせると共に、見るものに威圧感を与える。

 世界最強の要塞となっている。

「すごいね」

 フレアが呟くと、クロスは頷いた。

「そうだな。世界を守る人間たちの決意の塊だ。犯罪組織ドミネーションと戦ってきた数少ない勢力だ」

 クロスは感慨深そうであった。

 ローズは高笑いをあげた。

「そんなに縮こまる事はないでしょう。この私がいるのですから!」

「俺は縮こまっていない。とにかく入ろう」

 クロスは鉄門に向かって歩き出す。

「この私の言葉を軽く流すなんて! 後で見てらっしゃい」

 ローズが続くと、フレアも歩き出した。


 鉄門の前には見張りが二人いた。いずれもいかつい顔をしている男だった。

「許可証を見せろ」

 高圧的に言われて、フレアは肩をすくめたが、クロスは堂々と白い護符を見せた。

「ブライトさんからお借りしたものです。これで良いでしょうか?」

「入れ」

 門の傍にある通用門が開けられた。

「そこの赤髪の娘も入れ」

「え、私もいいの!?」

 驚きのあまり、フレアの声は裏返った。

 見張りは二人で同時に頷いた。

「暴走聖女はクロスとセットにしろと長官から命令が入っている」

「そ、そうなの……」

 フレアは気まずそうに視線をそらしたが、クロスに右手を引っ張られて通用門を通る。

 ローズも続こうとしたら、見張り二人が立ちはだかった。

「許可証を見せろ」

「この私の美しい顔を見なさい」

「帰れ」

 あまりにも速攻に言われて、ローズは両目をパチクリさせた。

「この私に帰れですって?」

 言葉の意味を理解するほどに怒りが込み上げる。

「姓はクォーツ、名はローズ。地の魔術を扱う超名門のこの私に命令なさるの!?」

「許可証がないなら帰れ」

「フレアは入れたでしょう!?」

「あれは特別だ」

「私も特別な存在でしょう!?」

 口論が始まってしまった。

 フレアはオロオロしたが、クロスはフレアを引っ張ってずんずん進む。

「ローズは見張りに任せよう。俺たちは俺たちの目的を果たすべきだ」

「そ、そうね……」

 フレアは曖昧に頷いた。

 二人が世界警察ワールド・ガードの本拠地に来たのは、クロスがブライトに呼び出されたからだ。

 呼び出しの理由は、悪夢の魔術師シェイドの取り調べに立ち会うためだ。


 堅牢な建物に入ると、今度は二人の女が立ちはだかった。

 一方は腰に帯剣して、一方は水晶玉を右手に乗せている。

 帯剣している女が口を開く。

「許可証を見せて名乗りなさい」

「クロスです。姓はありません」

 クロスは白い護符を見せながら名乗っていた。

 水晶玉が白く輝く。

 水晶玉を持つ女が頷く。

「嘘はないようです」

「よし。待合室に連れて行く。しばらく待機しなさい」

 女二人が早足で歩き出す。

 クロスとフレアは慌ててついていく。


 待合室にはふかふかのソファーがいくつか用意されている。天井には魔力による球が浮かんでいて、ほどよく部屋を照らしていた。

 そこには先客がいた。

 魔術学園の学園長グリームと、フレアたちの担任イーグルだった。二人は向かい合うように座っていた。

 最初にイーグルが立ちあがり、口を開いた。

「おまえたちも呼ばれたのか! 学園で凱旋パーティーの準備をしているのに」

「サプライズをバラすでないぞ」

 座ったままのグリームにたしなめられて、イーグルは肩をすくめた。

「申し訳ありません、驚きのあまりに」

「驚くのは無理もないが、上級科の生徒たちの善意を無駄にするでないぞ」

 二人の会話を聞きながら、フレアは両目を見開いた。

「パーティーの用意をしてくれていたのですか!?」

「うむ……サプライズではなくなってしまったが、仕方あるまい。それよりも、儂から礼を言わねばならぬな」

 グリームはゆっくりと立ち上がり、フレアとクロスに向けて深々とお辞儀をした。

「このたびの活躍は実に見事であった。犯罪組織ドミネーションの幹部とエージェントを撃破した事は、世界平和につながる大きな貢献じゃ。魔術学園グローイングの学園長として、敬意を表したい」

 フレアは慌てふためいて、頬を赤らめて両手をパタパタと振った。

「わ、私は大した事をしていません。褒めるならクロス君にしてください。クロス君がいなかったらシェイドたちの魔術を撃破する方法が分かりませんでした」

 グリームは顔をあげて何度か頷いた。

「フレアは仲間想いじゃのぅ。クロス、良い友人に恵まれたな」

「はい。フレアの優しさに何度か救われています」

 クロスは迷わずに答えていた。

 フレアの顔は耳まで赤くなった。

「わ、私は当たり前の事をしているだけだと思うけど……」

「おまえの当たり前に俺は救われている。本当にありがとう」

「お礼を言うべきなのは私なのに……」

 フレアはうつむき、もじもじとした。

 グリームは微笑んだ。

「お主らの友情や絆が、今回の見事な奇跡を引き寄せたのじゃろう」

「本当におまえたちはよくやった。担任として誇らしい!」

 イーグルが満面の笑みを浮かべて、両手を広げた。

「俺の胸に飛び込みたくなったら、いつでもいいぞ」

「それは遠慮します」

 フレアとクロスが断ったのは、同時だった。

 イーグルは床に向かってイジイジして溜め息を吐いた。

「服は洗っているし、風呂には入っているし、何が不満なのか……」

「歓談しているところ失礼します」

 部屋の入り口に、警部服の女が立っていた。世界警察の人間だ。

「悪夢の魔術師シェイドの取り調べをする準備が整いました。至急移動をお願いします」

 グリームもイーグルも、緊張した面持ちになった。

 フレアの心臓も早鐘のように鳴り響く。

 クロスは深い溜め息を吐いた。

「いよいよあの男の素性を暴く時が来たか」

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