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暴走聖女と魔術学園  作者: 今晩葉ミチル
ストリーム村
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怪しい笑み

 陽が傾き、夕暮れ時が近づいていた。

 世界警察ワールド・ガードがシェイドとセレネの行方を捜査している。

 彼らの目を逃れるように、シェイドは生い茂る森の中を、セレネを抱えてひたすら走っていた。

 川下付近の森に罠はなかったし、世界警察による襲撃もない。世界警察が準備していた包囲網を越える事はできたようだ。

 しかし、身体を拭くものが無く、濡れたまま走っているのだ。森の水分で見つけづらいとはいえ、世界警察が痕跡を見落とすとは考えづらい。いずれ追いつかれるだろう。


「どこかにセレネを隠したいが……」


 シェイドは呟いて、舌打ちをする。

 森は隠れる場所を与えてくれるが、グランドのハンマーを喰らって瀕死の状態のセレネの負担にならないようにすると、自由にできるわけではない。身体を広げて楽な姿勢で寝るのには、向かない場所が多い。

 おそらくセレネは複数箇所を骨折している。咄嗟に自ら吹っ飛ぶ事でダメージを軽減したセレネ本人の回避センスの賜物もあるだろうが、生きていたのは奇跡的である。本来なら抱えて走ってはいけないのだろう。

 シェイドの顔面に焦りが浮かぶ。


「無いものねだりをしても仕方ねぇが、治癒をできる連中が羨ましいぜ。フレアもエリクサーを作ったしな」


 シェイドは溜め息を吐いた。

 セレネも治癒の魔術を使えるが、それを自分自身にかける事はできない。治癒の魔術を扱うには精密なコントロールが必要なのだろうが、怪我や病気にかかると、状態を正確に把握できない。

 瀕死の状態で治癒の魔術を扱うのは至難の業だ。

 頼みの綱は、エリクサーだ。ポーションとは比べ物にならないほどの回復薬だ。今のセレネを助けるのに必要だろう。

 エリクサーは小屋に置いたままだ。

 小屋の天井は、フレアの暴走のせいで失われている。そんな目立つものを、世界警察ワールド・ガードが放っておくはずがない。小屋を調査するはずだ。そして、エリクサーを回収するはずだ。

 シェイドの目に、暗い闘志が宿る。残忍な笑みを浮かべていた。


「昔から盗みと殺人は俺の得意技だぜ」


 物も命も、欲しければ奪い取ればいい。

 そう考えて、シェイドは足を止めた。

「さて、取りに行くか」

 セレネが見つからない事を祈って。

 そう呟く前に、セレネが両目を開いた。

「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。死んで詫びます」

 か細い声で言っていた。セレネの本心である。

 世界警察の長官グランドと一対一で戦えば、シェイドが負けるはずは無い。クロスやフレアがいても、圧倒する可能性さえある。

 しかし、セレネが巨大ハンマーを食らって川に落ちた事で、シェイドはセレネを庇いながら罠をかいくぐる必要が生まれた。セレネを助けるのに精一杯になった。

 セレネがいなかったら、シェイドはグランドだけでなく、ストリーム村付近に集まる世界警察ワールド・ガードの面々も倒せたかもしれない。

「足を引っ張った償いをさせてください」

 セレネの声は消え入りそうなほど小さいが、青い瞳はしっかりとシェイドを見つめていた。

 一方でシェイドは全身をワナワナと震わせた。怒りを露わにしている。両目を吊り上げていた。

「簡単に命を投げ出すな。俺の苦労が無駄になる。エリクサーを取りに行くから、待ってろ」

 声を抑えながら、有無も言わさずに命令する。

 セレネは何か言いたげであったが、黙って頷いた。

 本音を語るのをやめたように見える。

 シェイドは嫌な予感がしたが、セレネをなるべく平らな場所に降ろす。


「もし見つかったら、俺に関する情報を全部しゃべっていろ。貴重な情報源として、しばらく生かされるはずだ」


 セレネは黙ったままだ。

 シェイドは言葉を続ける。

「事態がどう転んでも必ず助けるから、信じて待っていろよ。イービル・ナイト、シャドウ・テレポート」

 伝えるべき事は伝えたと考えて、シェイドは自らの影に沈んでいった。

 セレネは痛みにうめく。ずぶ濡れで体温も奪われている。呼吸は細い。

 しかし、頭は恐ろしく冴えていた。状況をしっかりと見据えていた。

「あいつらは、もうすぐ来ますね……」

 世界警察ワールド・ガードの面々と戦闘になったら勝ち目はないだろう。多勢に無勢だし、相手は万全な状態の人間が多いだろう。クロスやフレアだっている。


 しかし、セレネは口の端を上げた。怪しい含み笑いを始めた。


「ドミネーションのエージェントとして、意地を見せつけますよ。わが身可愛さでシェイド様の事をあいつらに教えるなんて、絶対に嫌です」

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