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暴走聖女と魔術学園  作者: 今晩葉ミチル
魔術学園グローイング
3/112

授業前に

 フレアは息せき切って走っていた。

 授業の開始まで時間は随分ある。しかし、一刻も早く会いたい人物がいた。

 その人物を待ち構えるために、上級科の教室に一番に乗り込むつもりでいた。

 教室は数本の長机と長椅子が設置されている。みんなが集まってしまうと、よほど運よく席が近くにならない限り、会いに行くのは億劫である。

 しかし、フレアは一番乗りではなかった。

 黒髪の少年クロスが、最前列の真ん中で腰かけていた。背表紙まで黒い本を読んでいる。まさに会いたい人物であった。

「あ、あの……」

 フレアが頼りない口調で声を掛けると、クロスが本から視線を上げる。

「おはよう」

 クロスから穏やかに挨拶をした。

「お、おはようございます」

 フレアは走って呼吸が乱れていた。うまく挨拶できたのか心配になる。

 そんなフレアに向かって、クロスは微笑んだ。

「俺に敬語はいらない。堅苦しい挨拶は苦手だ」

「そ、そうなの……それじゃあタメ口で話すね。隣に行ってもいい?」

「どうぞ」

 フレアはギクシャクしながらクロスの隣に座った。


「昨日は本当にありがとう。私の暴走を防いでくれて助かったよ」


 クリスタルを壊した後、フレアだけではどうしようもなかった。怪我人がいなかったのはクロスのおかげだろう。

 クロスは両目をパチクリさせた。

「本当に良かったのか? 自分の魔術を消されてお礼を言いに来る人間は初めてだ」

「良かったよ! 私が制御しなくちゃいけないんだけどね」

 フレアが溜め息を吐くと、クロスは首を傾げる。


「落ち込む事か? 俺には魔力の高さが羨ましい」


「魔力は家系のおかげなの。ホーリー家って知ってるかな?」


「ホーリー家!?」


 クロスの両目が見開き、声が裏返っていた。

「神に愛でられた家系だ。魔術師なら誰もが知っている!」

「そ、そんなに驚く事かな……?」

 フレアは照れていいのか分からなかった。

 自分の実力ではないが、ホーリー家を褒められたのは間違いない。

 迷っていると、ツカツカとハイヒールの音が近づいてくる。


「ええ、ええ、お家自慢はその辺にしてくださらない? 聞いていて腹立たしいですわ!」


 高飛車な声が飛んできた。

 金髪のツインテールと勝ち気な瞳が印象的な少女がフレアの前に立った。


「姓はクォーツ、名はローズ。用事がある時には丁寧にローズ様とお呼びなさい」


 ローズは金髪をかきあげて胸を張る。

 フレアは逃げたい気持ちになったが、長椅子を素早く移動する事ができない。

「家名でしたらクォーツ家も負けていませんの。クロス、こんな暴走娘は放っておいて、後でお茶しません? この私とお話できるなんて光栄でしょう?」

「俺は勉強に集中したい」

 クロスはピシャリと断って、黒い本に目を移す。

 ローズは頬を紅潮させて、全身をワナワナと震わせた。

「この私のお誘いを断るなんて、なんて世間知らずなのかしら! どんな本をお読みになっているのか気が知れませんわね」

「おまえに分かる代物ではないだろう」

 クロスが淡々と告げると、ローズは机をバンッと叩いた。

「馬鹿にしないでくださる!? 私は誰にも教わる事なく魔術を習得しましたの。世界最高峰の才能ですわ!」

「では、この内容は分かるか?」

 クロスが本を広げて指し示す。そこには人知を超えた文字が書かれていた。

 ローズは冷や汗をダラダラ流す。

「こ、こんなの簡単ですわ。魔術文字ですわね」

「何が書かれているのかと聞いている」

 ローズは答えに窮して、明後日の方向へ高笑いをあげた。

「こ、こうしてはおれませんわ。私はちょっとお花摘みに行きませんと」

「ハーブの採取か。授業に間に合うように戻ってくる方がいいだろうな」

「うう、分かっておりますわ!」

 ローズが教室の入り口までツカツカと歩き去ろうとした。

 その時にフレアがポツリと呟いた。

「私は分かるかも」

 ローズが足を止めて振り向く。

 口元を引きつらせてありったけの疑いの眼差しを向けていた。

「見栄を張らないでくださる?」

「見栄なんかじゃないよ。とてもすごい魔術について書かれているよ」

「あらあら、本当に分かるのかしら? 試しに言ってみてくださらない?」

「うん、バースト・フェニックス」


 刹那、フレアの全身が赤く光る。光は一瞬にして天井を突き抜けて、音を立てて天に昇る。


 ローズが絶叫した。

「嘘でしょうううぅぅぅうう!?」

「なんでなんでなんで!?」

 フレアも涙声で叫んでいた。

 燃え盛る光は天に続く巨大な柱となり、勢いが止まらない。このままでは辺り一面を焼野原にするだろう。

 クロスがフレアの両肩を抱く。

「まずは落ち着け。魔術を抑えるイメージをしろ」

「う、うん」

 フレアは涙を拭って深呼吸をした。

 クロスが優しくフレアの頭をなでる。


「その調子だ。俺も魔術を抑える努力をする。カオス・スペル、リターン」


 黒い波動と赤い光が混ざる。赤い光は少しずつフレアから切り離される。やがて完全に離れる。

 フレアから離れた後の光はもろかった。キラキラとした残滓が漂い、空気に溶けるように消えていった。

 それを目撃した上級科の生徒たちは唖然としていた。

 気が付けば、授業の開始時間が迫っていた。

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