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暴走聖女と魔術学園  作者: 今晩葉ミチル
魔術学園グローイング
19/112

悪夢の魔術師

 ブライトは十文字槍でシェイドに突撃をかける。闇色の異形のものが代わりに突き刺さって消滅し、新たな異形のものが出現する。

 異形のものがブライトに攻撃すれば、魔力のこもった十文字槍が迎撃する。

 互いに一瞬の隙も許されない攻防だ。

 そんな死闘が長引いた。

 ブライトの呼吸はだんだんと荒くなっていく。

「短期決戦に持ちこめなかったか……」

 何度も魔術を放ち、異形のものを消滅させた。

 しかし異形のものたちは次々に召喚されてブライトに襲い掛かる。


「シェイドを仕留めないと、異形のものたちが消えないのは分かるんだけどな……」


 ブライトの表情に焦りが生まれる。

 シェイドは目と鼻の先だと思っていた。しかし、あと一歩のところで異形のものたちに阻まれる。

 ブライトの魔力は削られる。昏倒するのも時間の問題だ。

「ちょっと格好をつけすぎたかな」

 世界警察ワールド・ガードの他のメンバーは置いてきた。シェイドは相手の魔力を奪う。利用されたら厄介だと思って一人で来た。

 しかし、勝ち筋が見えない。

 十文字槍を地面に突き刺す。

「頼む、決まってくれ。セイクレド・ライト、シャイニング・ゴッド」

 祈るような想いで魔術を放つ。勝てるとすれば、シェイドの魔力が尽きている時くらいだ。

 異形のものたちを召喚する余力が無ければ、あとは十文字槍で刺すだけだ。

 槍を中心に神の光が部屋一面に広がり、異形のものたちを消滅させる。

 ブライトの足元はふらついたが、しっかりとシェイドを見据える。


「これで終わりだ! セイクレド・ライト、ブリリアント・スピア」


 魔術により輝き、スピードをあげた十文字槍がシェイドに突撃する。

 異形のものたちはいない。

 これが最後のチャンスだろう。

 ブライトは雄叫びをあげて槍を突きだす。

 しかし、シェイドはほくそ笑んでいた。


「残念だがまだ続くぜ。イービル・ナイト、ロバリィ」


 十文字槍の光が一瞬にして色彩を変える。漆黒の闇に蝕まれていた。

 闇がブライトの両手に届く寸前で、ブライトは魔術を消した。あと少し魔術を消すのが遅れていたら、ブライトの両手は闇に呑まれていただろう。

 この間に異形のものたちが召喚されて、ブライトに襲いかかる。

 ブライトは後方に跳んで避けたが、そこで限界がきた。

 力無く両膝をついた。

「恐ろしいな……まさに悪夢の魔術師といったところか」

「あんたに膝をつかせてせいせいしたぜ」

 シェイドは右腕を抑えてニヤついた。

「借りは返したぜ。あとは死ね」

 異形のものたちが一斉にブライトに襲いかかる。避けようのないほどの無数の刃が振り下ろされる。

 ブライトは十文字槍を掲げるが、受け止めきれないだろう。


 ブライトの視線が一瞬だけフレアに向けられる。


「ごめん、もう守れない」


 悲し気な表情で呟いていた。

 フレアは言葉が出なかった。ただ、嗚咽と涙がこぼれた。

 そんな時に場違いな高笑いが響く。


「諦めてたまるものですか! フラワー・マジック、フォレスト・マーチ」


「カオス・スペル、エンドレス・リターン」


 ローズとクロスが魔術を放つ。

 太い木の根がいくつもの刃を払い、異形のものたちが混沌へ沈められる。

 しかし、シェイドの前では悪あがきにすぎない。

「まだまだだ。イービル・ナイト、ダブル・ロバリィ」

 木の根が黒く染まり、混沌が闇に変わる。二つの魔術がいっぺんに乗っ取られていた。

 ローズの顔色が青くなる。

「そんな事がありえますの!?」

「俺たちの魔術は消すしかない……!」

 クロスは自らの魔術を消しながら、走る。

 シェイドに向かって突進している。

「おまえは一発殴らないと気がすまない!」

「冷静になれよ。イービル・ナイト、シャドウ・バインド」

 クロスの動きが不自然にピタリと止まる。うめき、倒れるのをこらえている。

 しかし、何もできない。

 シェイドはクロスの頭を撫でる。

「いいかげん勝てない事を認めたらどうだ? その方が楽だぜ」

 クロスは苦しそうにうめき、答えを発せられない。

 この間にも異形のものたちはブライトに襲いかかっていた。

 ブライトが血を流して倒れる。

 フレアは叫び声をあげた。

「もうやめて! あなたが許してくれるのなら何でもするから!」

「許すって……いや、もう突っ込まないぜ」

 シェイドは嫌らしい笑みを浮かべる。

「ブレス王家は何度殺しても飽きないくらい憎いが、ドミネーションに敵対しないと誓うなら考えるぜ」

「誓えばいいのね」

 一縷の望みが見えて、フレアの両目が輝く。

 しかし、シェイドは嫌らしい笑みを浮かべたままだ。

「誓いを本当に守るのか、俺が納得するまで調べるぜ。どんな命令も受け入れてもらう」

「例えばどんな命令をするの?」

「あんたには指定した場所で魔術を放ってもらう事になるな」

 フレアは絶句した。

 フレアの魔術であるバースト・フェニックスは、制御を誤ると大陸が消えるというものだ。それほどの魔力を、シェイドに都合よく利用される事を意味する。

 シェイドは笑みを浮かべながら、眼光をギラつかせた。

「月並みだが、あんたがドミネーションに従うのならブライト以外は助けてもいいぜ」

「……お兄ちゃんは助けてくれないの?」

 フレアの声はかすれていた。

 シェイドはひどく優しい笑みを浮かべる。

「お兄ちゃんじゃないだろ。赤の他人だ」

 シェイドは倒れているブライトに近づく。ブライトの意識はない。昏倒しているのだろう。

「こんな誠実を絵にかいたような顔をして、大胆に人をだましてきたんだぜ。ドミネーションのエージェントが何人も仕留められているしな」

 シェイドはしゃがんでナイフを取り出す。

「あんたを尊敬している人間の目の前で、殺してやる。ほんの些細な復讐だ」

 シェイドのナイフがブライトの首筋に当てられる。

 フレアは呆然としていた。

 ローズは悲鳴をあげた。

 クロスはうめいたまま動けないでいる。


 絶望的な状況だ。


 そんな時に、奇跡が起こった。


 何者かがシェイドの横から体当たりして、シェイドを押さえ込んだ。

 今まで意識を失っていた上級科の生徒だった。


「やられっぱなしで帰れるか!」


「ブライトさんを助けるんだ!」


 魔術では足元に及ばないだろう。しかし上級科の生徒たちは誰一人として諦めていない。

 異形のものたちが生徒を蹴り飛ばしても、他の生徒が押さえに掛かろうとする。

 シェイドは舌打ちをして起き上がる。

「諦めの悪さはイーグル先生から学んだか?」

「関係ない!」

「あなたなんか大嫌い!」

 生徒たちが勝てない戦いを続ける。

 フレアの胸は熱くなった。

「私は何をやっているのだろう……」

 このままではいけない。

 胸の内でそう呟いた。

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