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暴走聖女と魔術学園  作者: 今晩葉ミチル
魔術学園グローイング
18/112

迷宮の攻防

「先手必勝ですわ!」

 真っ先に仕掛けたのはローズだった。

 太い木の根や蔦が、一斉にシェイドに襲いかかる。全方位からの攻撃を避けるのは不可能だ。

 そんな状況下で、シェイドはニヤついていた。

「少しはやるじゃねぇか。そのうち俺も本気を出すぜ」

「今まで本気じゃなかったような言い様ですわね。ですが、あなたの魔術はクロスが確実に防ぎますの。私の怒りを食らいなさい!」

 木の根や蔦がシェイドを絡めとる。腕や足の動きを封じられたうえに、蔦が首にも巻き付いていた。

 ローズは両目を吊り上げていた。

「私は本気で怒っていますのよ。友達を泣かされるなんて最悪ですわ!」

「友達を泣かされたのが嫌で、俺を殺すつもりか?」

「あなたには猛省してもらいます。謝るまで、気絶するほど締め上げますわ!」

 蔦がシェイドの首を絞めつける。

 シェイドがせせら笑う。


「俺が謝るなんて本気で考えているのか。大人の汚さを学習させる必要があるな。イービル・ナイト、ロバリィ」


「あなたの魔術はクロスが防ぐと言ったばかりでしょう……!?」


 ローズは両目を見開いた。

 木の根や蔦が真っ黒に染まり、シェイドを離れて、のたうち回る。ローズの制御が利かず、壁や天井に打ち付けられる。

 倒れている上級科の生徒たちをかすめている。当たれば大怪我につながるだろう。

 ローズはおろおろしていた。

「そんな、どうして」

「ローズ、ひとまず魔術を消してくれ。おまえの魔術がシェイドに乗っ取られている」

「なんですって!?」

 ローズは愕然とした。

 クロスは苦々しく呟く。


「これがシェイドの実力だ。魔術を乗っ取られて命を散らした魔術師は数多くいる。悪夢の魔術師といわれて恐れられる理由だ」


「そんな……どうすればいいのです!?」


「ひとまず魔術を引っ込めて、一か八か助けを呼ぶしかない。ブライトさんが来てくれるといいのだが……」


 ローズは歯ぎしりしながら魔術を消す。木の根や蔦が急激に枯れて、その場に崩れ落ちる。やがて地面に溶けるように消えていった。

 クロスはポケットをまさぐる。しかし、救助用アイテムが無い事に気付く。

「スイッチまで奪われたのか!?」

「そんなセコイ事はしないぜ。ローズがあんたを引っ張った弾みで落ちた。スイッチも押されていたから安心しろよ」

 シェイドが救助用アイテムの場所を指さす。

 部屋の隅に転がっていた。

 シェイドは怪しく笑う。


「ブライトが来るかもしれないと思うとゾクゾクするぜ」


「君が僕に会いたがっているなんて意外だよ。セイクレド・ライト、ブリリアント・スピア」


 穏やかな声が聞こえた。

 刹那、稲妻のごとくに十文字槍が走った。

 十文字槍の切っ先がシェイドの右腕を掠める。

 シェイドは左手で右腕を押さえて苦悶の表情を浮かべる。

 十文字槍の光は一瞬にして消えたが、確かなダメージを残したようだ。

 シェイドは額に汗をにじませながら舌打ちした。

「来るのが遅いじゃねぇか、ブライト」

「そうかな? みんな生きているから、間に合ったつもりだったけど」

 ブライトは再び十文字槍を構える。

「そんなに僕に会いたかったのか?」

「ああ、そうだ。あんたを殺したくてうずうずしていたんだ。学生と遊ぶのも飽きてきたところだった」

「遊びはお互いに楽しくないとダメだよ。もっと内容を考えよう。セイクレド・ライト、ブリリアント・スピア」

 再び十文字槍が光を帯びて、ブライトが地面を蹴る。

 今度は避けられたが、ブライトの攻勢は止まらない。

 クロスは確信したように頷いた。

「そうか、その手があったのか」

「どんな手?」

 フレアが尋ねると、クロスは口の端を上げた。

「一瞬だけ魔術を放ち、一瞬にして消す。これならシェイドに魔術を奪われる事がない」

「お兄ちゃんすごい!」

「本当にすごい。魔術を放つだけで膨大なエネルギーを使うのに、それを断続的にやるつもりだろう。普通の魔術師ならすぐに昏倒する。こんな事ができるのは、世界中を探してもそんなにいないだろう」

 クロスはブライトに尊敬の眼差しを向けた。

「援護したいと言いたいが、今の俺に出来る事はないだろうな」

「何も出来ないなんて事はないよ。君の眼差しは僕を勇気づける」

 ブライトはウィンクをして、十文字槍を構える。

「悪夢の魔術師シェイドを倒すのは世界警察ワールド・ガードの悲願の一つだ。逃すつもりはない。セイクレド・ライト、ブリリアント・スピア」

「何度も同じ手が通じると思うなよ。イービル・ナイト、エターナル・ナイトメア」

 シェイドの足元から闇が現れて、渦巻く。

 闇の端々がポコッポコッと泡を作っては弾ける。

 弾けるたびに闇色の異形のものが生まれる。

 所々欠けた鎧を身に着けた首無しの戦士、カラカラと不気味に笑う骸骨、コウモリの翼を生やす人間大の怪物……。それらが次々と出現する。

 ブライトの槍は骸骨の肋骨に挟まれて、動けなくなった。

「もうこれを使う事になるなんて……。セイクレド・ライト、シャイニング・ゴッド」

 十文字槍からまばゆい光が生まれて、異形のものたちを消し去った。しかしすぐにまた出現する。首無し戦士の大剣がブライトの頭に襲いかかる。

 後方に跳んでかわすが、ブライトの表情に焦りが生まれていた。

「決定打が浮かばない。どうしようかな」

「それはお互い様だ。真剣勝負といこうぜ」

 シェイドは両手を広げて、狂ったように笑っていた。

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