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暴走聖女と魔術学園  作者: 今晩葉ミチル
魔術学園グローイング
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魔術制御の特訓

 フレアの魔術を制御するために特訓してくれる。

 そんなクロスの提案に、フレアは驚きを隠せないでいた。

「さっき昏倒したばかりなのに大丈夫!?」

「安心しろ。身体からエネルギーがみなぎっている」

 クロスはグッと握りこぶしを作った。

「また全力を出したいくらいだ」

「あんまり無茶しないように。君はいつか貴重な戦力になるだろうから」

 ブライトにたしなめられると、クロスは握りこぶしをほどいて歩き出した。

「勿体ないお言葉に感謝しますが、俺は練習場に行きます。決心がついたらフレアも来てほしい」

「私もすぐに行くわ!」

 フレアはスキップをしてついていく。


 魔術学園グローイングの練習場は、学園の敷地内で最も広大だ。

 威力のある魔力を無差別に解き放っても問題とされない。

 そんな練習場を使うのは、魔術学園の生徒の中でもごく一握りに限られる。日頃の授業や実習についていくだけで精一杯の生徒が多いのである。

 必然的に、練習場に集まるのは真面目で優秀な生徒になる。

 そんな真面目で優秀な生徒たちは、フレアを見るだけでそそくさとどこかへ行ってしまった。


「……私の暴走は噂になっているのね」


 フレアが肩を落とす。

 その両肩を、クロスがポンッと軽く叩く。

「これから見返せばいい。そのための特訓だ」

「ありがとう、頑張るわ!」

 フレアは自分を鼓舞するように、努めて明るい声を発した。

「何をすればいいのかな?」

「まずは自分の魔力の限界を知るべきだ」

 クロスはフレアから距離を取る。

「バースト・フェニックスを俺に向かって放ってほしい。ためらいなく、全力で」

「ええ!?」

 フレアの声は裏返った。

「クロス君、また昏倒するつもりなの!?」

「そんなつもりはない。俺も自分の限界を試したいだけだ」

 クロスは自分の両手を見つめる。


「俺の魔術がどの程度通用するのか知りたい。そして、あの人を倒したい」


 クロスの両目にぎらつく光がある。犯罪組織ドミネーションの幹部であるシェイドという男を意識しているのだろう。

 ぎらつく瞳のまま、クロスはフレアをまっすぐに見据える。

「お互いの全力を知り合おう」

「う、うん!」

 フレアは返事こそ上ずったが、覚悟は決めていた。

「それじゃあ行くよ」

 フレアは両手を広げて、クロスに向けた。

 フレアの胸の内が熱くなる。燃え盛る赤い神聖な光が、フレアの脳内を焼き尽くしそうになる。

 フレアの身体から赤い燐光が発せられる。

 行ける。

 フレアはそう思って一気に声を張り上げる。


「バースト・フェニックス!」


 フレアの両手が火傷しそうなほど熱くなり、業火が放たれる。業火は大気中のエネルギーを食らう。このままでは留まることなく膨れ上がるだろう。練習場を燃やし尽くすのは時間の問題だ。

 しかし、フレアは業火をあえて止めようと思わない。

 信頼できる人が止めてくれるはずだから。

 クロスが両腕を広げる。


「カオス・スペル、エンドレス・リターン」


 クロスの全身から黒い波がゆっくりとあふれ出す。それが混沌の波であると気づいた時に、フレアは感無量になる。

「私、クロス君の魔力特性を理解したかも」

「それは良かったが、まだこれからだ」

 クロスが深呼吸をすると、混沌はより濃くなり、フレアの業火を包み込んでいく。

 混沌は、静かにあらゆるものを内包していく。業火は少しずつ赤い光を失い、黒く染まっていく。

「すごい……」

 フレアの胸は感動で沸き立っていた。

 自分の何倍も背丈のある炎が、それ以上に広がる混沌に飲み込まれようとしている。

 魔術同士のせめぎ合いが、苛烈で美しい。

 フレアは安堵の溜め息を吐いた。

「クロス君がいれば安心できるんだね」

 そう呟いた矢先だった。

 炎がバチバチと音を放つ。混沌に反発するように、白いエネルギー波を生じている。

 エネルギー波はどんどん増えて、つながる。

 刹那、轟音が辺りに響き渡る。

 巨大な白い光が混沌を喰らいつくし、無限のエネルギーを得る。

 白い光は留まる事なく、辺りを飲み込もうとする。

 遠巻きに見ていた人間たちから、つんざくような悲鳴があがる。

 フレアも悲痛な叫びをあげた。

「クロス君、大丈夫!? クロス君!」

 巨大な光のせいでクロスが見えない。返事も聞こえない。

 フレアの顔に絶望が浮かぶ。

 そんな時に、場違いな口笛が聞こえた。

「大丈夫だよ、僕がなんとかするから」

 ブライトがフレアの隣に立っていた。

 後ろには世界警察ワールド・ガードの面々が並んでいる。彼らはブライトの魔力を高める呪文を唱えていた。

 ブライトが十文字槍を地面に突き刺す。


「セイクレド・ライト、シャイニング・ゴッド」


 ブライトと十文字槍がまばゆい光を発する。ブライトの金髪と濃紺の警備服が風圧でバタバタとはためく。

 ブライトが上空に向けて雄叫びをあげた。

 見上げると、天空から優しい光が差し込む。

 その光が、混沌を飲み込んだ柱を吸い上げていく。

 やがて巨大な柱は消えて、優しい光は夕暮れへと変わっていった。

「お兄ちゃん、すごい……」

 フレアは呟いて地面にへたり込む。

 ブライトはフレアの頭を撫でて微笑む。

「頑張ったのはフレアとクロスだ。バースト・フェニックスの魔力特性を知らないのに」

「お兄ちゃんは知っているの?」

「バースト・フェニックスは不死の炎を産む魔術だと聞いた事がある。制御を誤るとたぶん大陸が消えると思う」

「え、ええええ!?」

 フレアは両目を丸くした。

「そんなにすごい魔術なの!? なんで私が使えるの!?」

「それは……」

 ブライトはどもって、視線を逸らした。

 答えたくないように見える。

 問い詰めようか迷ったところで、フレアはハッとした。

 クロスが地面に倒れたままうめいている。

「……あの人に対抗するのはまだまだか」

「クロス君、ごめん大丈夫!?」

「意識はある。少し休めば大丈夫だ」

 クロスは辛うじて起き上がった。

「今の限界を知る事ができて良かった」

「無茶しないでと言っただろう」

 ブライトがクロスの左肩を担ぐ。

「保健室に連れて行くから、ゆっくり休みなさい」

「すみません……」

 クロスが気まずそうに謝ると、ブライトは大笑いをした。

「これくらいお安いご用だ!」

 フレアたちは笑いながら歩き去る。

 クレーターのできた練習場を残して。

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