桶川和樹の最終章
追い詰めなければ。
桶川はそう感じていた。
自分は追い詰められて追い詰められて、そうして最後にあいつに突き落とされたのだから、同じ事をしてやらなければ気が済まない。
ただ刺して終わりなら小学生でも出来る。けれど自分はそうではない。物語を創る人間らしく、きちんとした起承転結でもってあいつの人生の物語を終わらせてやらなければ。
「……ああ久々に、良いのが書けそうだなぁ」
赤く染まった空を見上げて桶川が笑う。
書きたいと思っても、パソコンはもう壊れてしまって使えない。
今時のWeb作家らしくスマホで書くなんていうのには自分は向いていない。
思考のスピードにフリック入力が追いつかないからだ。
両手があって漸く脳内の早さに文章が間に合っていた。
桶川の作り方はそうだった。
だから仕方なく、桶川は頭の中だけでいつものようにストーリーを練り上げていった。
どうやって颯太を追い詰めて、殺すか。
最終章はどうしてやろうか、そんな風に考えて。
「いーつやろうー、あーしたーかー、きょうーかー、きょうはー、いつー?」
不揃いな音階を口ずさみながら、桶川は物語を綴っていく。
脳内でひたすら。
今日が何月何日なのかも、最早彼にはわからない。
正気かと問われれば、やるべきことがわかっている分だけ正気なのだろう。
だって桶川は、
物語を創る楽しさを、
今だけ、
思い出している。
一番楽しかった『あの頃』を。




