私はハクア
私はハクア。
私はハクア以外の何者でもない。
「ハクア~どこにいくの?」
この人はクロテン。
クロテン以外の何者でもない。
その声はどこか懐かしく、温かい。
私はクロテンの質問など気に取らず手を引っ張ったまま、歩き続けた。
道は荒れ狂い、空は赤く、かつて栄えてたであろう街の残骸が続く。
「ねぇ。クロ。ここって何なんだと思う?」
私はクロテンの事をクロと呼んでいる。
猫っぽくてかわいいからだ。
「昔、獣が作ったって聞いてるけど?」
「獣?」
「ハクア、ほんとに覚えてないのか?」
「私は、私じゃないの?」
「あ・・・、いや。お前はお前だ」
クロは少し戸惑っているようだった。
そうなのだ。
私はここ最近いや、生まれてからの私の事を思い出せないのだ。
私はハクアそれ以外の何者でもない。
私たちは歩き続けた。
1日中歩いた。
その間、クロは忙しそうだった。
周りの人たちがどっきりプレゼントをたくさんくれていたからだ。
子供たちからは爆発する弁当箱。
大人たちからは歓声と打ち上げ花火。
こんなに近くで見れる花火は他にはない。
うってつけにはあちらこちらで花火が上がっている。
「たのしそうね」
「お前マジで言いてるのか?」
「え?」
「こいつらが、獣だぞ」
「けもの?人じゃないの?」
「人?もうそんな呼び方してるやついないって」
「どうして?」
「昨日、人は死んだんだよ」」
「意味わかんない」
「昨日、俺たちは殺されかけたんだよ。人に」
「私たちが?どうして?」
「あーーー」
クロは話すのが嫌そうだった。
「俺たちが人じゃないから」
「あ、たしかに。私はハクアだし。あなたはクロテンだもんね」
「違う。そういう意味じゃない」
「じゃあ、どういう意味?」
「お前は…」
「はい!」
「お前は、悪魔なんだよ」
その後も、クロはいろんな事を教えてくれた。
私たちは、人ではないこと。
さっきもらった声援は、怒号や悲鳴と呼ぶこと。
爆発する弁当箱や人の近くで見る花火などないこと。
そして、私は白悪、クロは黒天であること。
意味は白き悪魔、黒き天使どちらも人がつけた名前だということ。
私とクロで世界を滅ぼせるということ。
ほんとにいろんな事を知った。
でも、私はほとんど信じていない。
というより、理解ができない。
「ありがとう。クロ。私を守ってくれてるんだね」
「違うんだ。俺はお前を、殺さないといけなかったんだ。でも、できなかった」
「今ならどう?できるんじゃない?私、いろいろ知ったら自分が怖くなっちゃった。私独りぼっちだし、必要とされてないし、何なら死んだ方がましだと思われてる。そんな自分嫌だ。・・・殺して…」
「無理だ。無抵抗の相手を殺すことなんてできるわけがない」
「じゃあ、あそこの獣ころす!」
落ちている、がれきを手に取り、獣の方へと走った。
すぐにクロが私の前に立ちはだかる。
「やめろ、お前が近づくだけで獣は死んでしまう」
クロの背中の後ろで、また、声援が聞こえた。
「これは、嗚咽だ。お前は、白悪だ。獣におそれられた生き物だ。それにはそれなりの理由がある」
「ころして」
私は、もう、どうでもよくなっていた。
自分が何者であるか。
人とは何なのか。
獣とは何なのか。
滅ぼすとは、悪魔とは、天使とは、白、黒…。
「殺せよ!なんなんだよ!わたしはよ!」
「落ち着け」
クロは私の肩を持った。
「はなせよ!私は一人なんだ。一人ぼっちなんだ。誰からも愛されることもない、それどころか全世界からの嫌われ者だ。なんなんだよ。私が何をしたって言うんだ。存在するだけで、人を殺し、動物を殺し、街が壊れ、木々は焼け落ち、空は濁り、地は荒れ狂う。私がいるだけで世界は終わる。クロ、二人がいたら世界を滅ぼすんじゃないんだろ?お前が、私を…私を止めなければ、殺さなければ世界が滅ぶ、そういう事なんだろ。」
クロは黙ったまま、話そうとはしない
「お前、なんで、黙ってんだよ!」
「白悪、少し、思い出してきただろ?」
「あ?」
「いま、お前は黒く見える」
私の体は白かった。髪も、服もすべてが白かった。
今は、違う。すべてが黒かった。
目の前まで真っ暗で、黒かった。
「ごめん。ハクア。お前のいれる世界を作ってあげたかった。世界が滅べば、二人でいればずっと一緒にいれると思っていた。ごめん。でも、独りぼっちはつらいよな。みんなから嫌われるのはつらいよな。ごめん。最後までお前の事悪者にして。でもありがとう。ハクアといられた日々は楽しかった。」
私はハクア、それ以外の何者でもない。
世界から見た私は、悪魔だった。
それでも、私は私。
私はハクア。
私は私の道を歩く。
死ぬ時も私が決める。
世界には選ばせない。
私が一人だと思ったら一人なんだ。
私が嫌だと思ったら嫌なんだ。
私が幸せだと思えば幸せなんだ。
でも、ほんとはまだ世界を知りたかった。きれいな街を見たかった。
きれいな空を、人を、笑顔を、歓声を、きれいな花火も見たかったなぁ。




