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罠師、類似品に注意

 貰ったコインの使い道が少しわかって浮かれた頭でふと考えてしまった。

 このコインと交換できるものとして罠とかないかな。

 いや、無理だろうな。そんなことを思いつつ話しやすい赤毛のお姉さんに聞いてみた。


「さっき貰ったコインで罠とかと交換してもらえたりしないかな。もしくはこの壊れた罠を修理してくれるとか……あはは」


 照れ隠しの乾いた笑いが自然と口からこぼれ出る。


「罠ですか? 狩人さんとかが罠で獲物を獲ったりするとは聞いたことがありますが、罠を売ってたりとかするなんて聞いたことないですね。でも、鍛冶屋さんに注文したりするのかな。う~ん……さっきスラッシュモールを売りましたよね、その対応した方のお兄さんが鍛冶屋をやってますので彼に話を聞いてみたらどうですか?」


「ありがとう、そうしてみます」


 直接仕事と関係のない相談にも親身に答えてくれた赤毛のお姉さんにお礼を言い、先ほどの買取カウンター?へと足を運ぶ。

 そこには誰もいなかったので、声をかける。


「すみませ~ん、いらっしゃいませんか~」


「おう、ちょっと待ってくれぃ」


 奥のほうから、いや、建物の外からかな。声が返ってきた。

 しばらく待ってると、前掛けで手を拭きながらさっきの髭もじゃのおじさんが戻ってきた。


「すまなんだな、さっきのスラッシュモールの解体をしておったのよ。して、なんのようだ」


「えと、あちらの赤毛のおねえさんに罠を買えるかどうか、もしくは修理できないかって聞いたら、あなたのお兄さんがどうにかできるんじゃないかって教えてくれたんです。どうでしょうか」


 カウンターの上にボロボロになった罠と、これが持ってるコイン全部ですとさっき貰った銀貨銅貨も一緒にカウンターに乗せる。


「これがスラッシュモールの罠か。ふむふむ……やつが中に入ったら蓋が閉まるようになっているのか。蝶番(ちょうつがい)を使ってのう。ボロボロに裂かれているが、爪の鋭さに耐えられなかったようだの。この柔らかいものはよくわからんが、少し厚みを持たせた鉄で作れば問題なかろう。お前さんが出した金だとひとつ、いや、見本としてこれをくれたらふたつ作ってくれるよう頼んでみるがいかがかな」


「あー、そのべこべこなのは捨てられてたどでかいペットボトルから自分で作った自信作です。子供時代以来ですよ工作みたいなのやったのは。頑丈なのを自分で作るのは材料を買うお金とかないため難しそうなんで、このコインで作ってもらえるのだったらお願いします」


「あいよ。やっこさんも今は仕事があんましなくて暇だとかほざいてたから、3日もあれば仕上げられるだろ」


「お願いします。それでは3日後に取りに来ます。ここでいいんですよね」


「あぁ」


 持っていたコインは全部渡してしまった。

 併設の食堂で軽く食事をする分だけでも残して置けばよかったと思ったが後の祭りだ。

 稼ぎが1円もなく寂しく腹を空かせてひもじい思いをしながら、自転車を飛ばし家へと急いだ。




 3日間は有意義に過ごした。

 撮りためていたアニメをたくさん見なきゃいけなかったし、最近ネットの定期巡回ができていなかったので急いでいつもの場所を見て回ったりもした。

 その合間をぬって壊れた罠を新しく作り直したりもした。

 剣山のような針山が落ちてきて獲物に突き刺さるって感じの罠は今回は持っていくのは見送ろうと思う。

 害獣退治という観点からみると駆除できたのはいいことだけど、買い取り価格がさがるのはいただけない。


 今日は昼からの出勤だ。


「おぅ、やっと来たか。頼まれていたものが出来上がっておるぞ」


 買い取りカウンターの方へ歩いて向かっていると、向こうから声をかけてくれた。

 髭もじゃの顔の中から目と口が微笑んでいるのが見て取れる。


「それはよかった」


「これじゃ」


 ドン、ドンとふたつの円筒状のものがカウンターの上に置かれた。

 直径30センチはあろうかと思われる、鉄の塊。

 いや、中は空洞なのはわかってるんだけど……手にとってみると、めっちゃ重い。

 10キロくらいはあるんじゃないの、これ。

 指でなんとなく叩いてみた。スイカを叩くみたいに。

 これだったらいくらモグラの爪が鋭かろうとも、びくともしないんじゃね。

 蓋を開け閉めしてみて、動作の確認をおこなってみるが問題はないみたい。


「ありがとうございます。少し重そうですけど、これなら逃げることもできないでしょう。でも、こんなにちゃんとしたものだと結構値段かかってしまいそうなんだけど、大丈夫だったんですか?」


「おう、ほんとだったらあの金で二つではなく一つくらいだが、スラッシュモール退治をする若者にすでにいくつか売れたからな。その礼みたいなもんだ」


「えっ……」


 いやいやいや、なに勝手に罠を真似してくれてんのよ。

 元は市販のもので、自分のオリジナルじゃないにしても、勝手に類似品を作って売るとか勘弁してよ。

 同じ獲物を狙う同業者を増やしたりとかノーサンキューよ。

 心が狭いと思われようと、こちとらまだろくにお金も稼げてないペーペーよ。


「な、何個くらい売れたんですか?」


「二つのグループにそれぞれ三つずつ、一つのグループに二つ売れたとか言ってたな。二つ買ったのは初心者を脱したばかりの若者で武器を買い換えるつもりのお金で買ったとか。三つずつ買ったのは両方とも中級のやつらでお互い仲がよくて情報交換もよくしているらしい。スラッシュモールはやつらからしてみれば小遣い稼ぎ程度にしかならないだろうが、仕掛けてほっといても獲れるのだったら他の仕事をやってる合間や休んでる合間に仕掛けてみようってことになったらしい」


 熟練の猟師さんだったら、そんな小銭稼ぎみたいなのに手を出さないでよ。

 まだろくに稼げてない初心者がやっと見いだした仕事だというのに。


 はらわたが煮えくり返りそうになり、この買取カウンターのひげもじゃおじさんに一言言ってやろうと思ったときに肩を強い力で叩かれた。


「よぉ、あんちゃん。ええもの教えてくれて助かった。ほれ、これ。モグラが二匹もかかってたぞ」


 なんだとー、こいつか。

 文句を言ってやるべく振り返った。


「き、恐縮です……皆様に喜んでいただけてよかったです」


 口から出た言葉は当初発する予定のものとは真逆のものだった。

 だって、振り返って相手が目に入った瞬間、赤鬼かと思ったんだもん。

 鋭い眼光をした赤い顔にもじゃもじゃ頭、その髪の中から突き出た二本の角。


「ひと仕事終わって酒を飲んでたんじゃが、モグラの罠を仕掛けてたことを思い出して見に行ったのよ。そしたら見事にかかってたんじゃ。おっ、そうそう、解体はおやっさん頼むわ。角だけは取ったものの、面倒になっての」


 口から酒臭い息を吐きつつ、頭の上の角を面白そうに取って手の平の上で転がしてみせている。

 よくよく見れば赤鬼ではなく、赤ら顔の酔っ払いがモグラの角(なんでモグラに角があるのか知らんけど)を頭の上に乗っけて遊んでただけだった。

 それでもこんなごついおっさんに文句を言えるわけもなく、彼がひげもじゃ親父と話をしてる間にそっとその場所を後にした。



 重い罠を両脇に抱えて、赤い髪の受付のお姉さんの下へ。


「こ、こんにちは。モグラ退治のお仕事ってまだあります? 他の人も始めたみたいで仕事がなくなったりしてません?」


「こんにちは、お待ちしておりましたよ。あなたを真似てモグラを獲る方が増えましたけど、今までモグラの被害に頭を悩ませていても、ろくに退治できず諦めていた農家さんがたくさんいたんですけど、その方たちがあなたの仕事の噂を聞いてモグラ退治の仕事の依頼をしていきましたよ。ですから、仕事はなくなっていませんので安心してください」



 よかったー。

 同業他社、競合が増えてどうなるか心配してたけど畑はたくさんあるし、まだ仕事があるようでひと安心。

 ほっとしたよ。


いつまでもモグラじゃなくて、そろそろ別の獲物になる予感。

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