罠師、二度目の仕事を請ける
う~ん、高いな。
罠っていったら、箱罠だと思うんだ。
檻みたいな四角い箱型で中に獲物が入ったら入り口が閉まるやつ。
一桁違うわ。そして所持金を10倍してもまだ足りん。
イケおじ農家さんに頼まれてるし、モグラ退治で稼いでいくのが無難かな。
ネットで見たけど、竹を使って罠を作れるってあったけど、あそこの畑のモグラはでかいみたいで無理だろうな。
何か使えるものないかな。
とりあえず100均行ってみるか。
おっ、これいけるんじゃねーのか。
右見て左見て、よしっ、誰もいない。
捨ててあったペットボトル、それも焼酎の4リットルのどでかいやつをふたつ自転車のカゴに放り込んでスタコラサ。(資源ゴミの持ち去りは犯罪です)
一度家に持ち帰った後、当初の予定通り100均へ。
なにー、モグラ、ヘビ、ムカデ用の忌避剤ってのがあるのか。
臭いで寄せ付けなくするって、退治しなきゃいけないからこれじゃ駄目だな。
この前の罠はボロボロになってたから、このブリキのバケツを使って罠を作れば強度アップでいいかも。
頭の中にはバケツをふたつ繋げてガムテープで固定、底をくり貫いて出入り口にして、そこに蓋を取り付け、中にモグラが入ると蓋が閉じるという形が浮かんでいる。
待てよ、あそこのモグラはでかいってことは力が強いってことだよな。
木の箱と長い釘を手に取り、罠の仕組みと妄想する。
他にはホームセンターでこの前のと同じのを買っておくか。
小型のモグラもいて、それを捕らえることが出来てたらしいしな。
罠作りに二日かけ、その次の日にあの役場へと自転車を走らせた。
荷台付のママチャリでよかったよ。
後ろの荷台にダンボール括りつけ、背負ったリュックにも前カゴにもたんまりと荷物を積んでいる。
何度か通えば慣れたもの。役場の人気のない廊下を通っていくのにも緊張することはない。
嘘、嘘、まだちょっと緊張します。
ドアを抜け赤毛のお姉さんがいる方へ。
別館とかなのかな、こっち来ると結構雰囲気が違ってくるんだよね。
お知らせかなんかの張り紙を見ているのか、壁際にマタギみたいな服装の人たちが数人目に入った。
あ、マタギってのは昔の猟師さんのことね。
東北とかの山の中で毛皮を纏って猟をするってイメージがある。
それは置いといて、受け付けにいる赤毛のお姉さんのところに直行だ。
「こんにちは、またモグラの駆除の仕事を請けたいんですけど、ありますか?」
「はい、お待ちしておりました。お仕事の依頼は来ておりますよ。指定依頼という訳ではございませんが、できればあなたに受けていただきたいと言われておりまして、依頼は貼り出さずにこちらに取ってあります」
「そうなんですか、ありがとうございます。ぜひ受けたいです。まずはこの前の農家さんの隣の方ですよね」
「はい、ガジール様からモグラ退治の依頼が来ております。モグラ1匹につき銀貨1枚。退治したモグラはあちらに見えますカウンターまでお持ちいただけましたら買取いたします」
そうそう、聞いておかなきゃいけないことがあったんだ。
「報酬が銀貨1枚ってことだけど、どこで換金するのが正しいんですか? 質屋さんに持っていったら、初めてだったみたいで……」
「換金? 質屋? そのままどこででもお使いいただけますけど」
「そうですか、そうですよね~。いや~、変なこと聞いてごめんなさい。それじゃあ、ガジールさんのとこ行きますね」
あちらが当然のように言ってることに対して反論とか再度説明を求める勇気はない。
はいはい、そうですね~って当然のように流すのが精一杯。
頑張ってくださいねって声を背に受け、そそくさと建物を出る。
受付のおばちゃんもこのくらい愛想がよければいいのに。
建物を出てすぐの門へと足を進める。
周囲を見渡すと田舎の建物っていうより、日光江戸村とか長崎オランダ村とかふた昔前というか、違う土地の昔ながらの建物って感じがする。
もらった銀貨や銅貨とかって、この周辺の施設でだけ使えるコインみたいなものかもしれないね。
今度報酬もらったら、お店とか見てみよう。
門を抜け、畑の中で作業している人の方へ歩いていくと、この前道を尋ねた相手。ガジールさんだった。
満面の笑みでの歓迎を受け、モグラの被害の大きい場所へと案内され、罠をセットしていく。
2度目ということで、さくさくとセットし、勝手に罠を掘り出したりしないよう注意して、翌日来ることを伝えて家へと帰った。
この前は捕らえたモグラを見ることができなかったけど、今回は勝手に掘り出さないようお願いしたから見ることができるよね。
期待を胸に翌日罠の確認にやってきた。
「ビギナーズラックだったか」
口からそんな言葉が漏れる。
昨日仕掛けた罠はまだ地中にあり、中に獲物がかかると外からでも分かるようになっている目印はそのまま変化がない。
つまり、モグラが仕掛けにかかっていないということだ。
いや、1箇所だけ様相が異なっている場所があった。
そこは罠を埋めた場所とその周りが大きく盛り上がっているのが見て取れる。
これは獲物がかかってるのか!?
手にした小さなスコップで地面を掘り返し、罠を確認する。
「ひでぇ」
ブリキのバケツで作った罠は壊れ、引き裂かれていた。
「あ~、逃げられただな。昨夜見回りに来たときにゴソゴソ音がしてただが、そのままにしておくようにと言われてただでそのままにしただが、逃げられてしまったみたいだよ」
「すみません、とどめを刺すようお願いしておいたほうがよかったかもしれませんでした。それにしてもモグラってこのバケツを壊すことができるくらい凶暴なんですね」
バケツの接合部分なんかは布テープを使ったりしたし、他の改造箇所も強度は弱かったかもしれないけど、バケツの壁部分なんかは切り裂かれてるようにもみえるし、いったいどうしたことなんだろう。
「モグラも向こうから襲ってはこないだが、偶然畑を耕すときに掘り返したときなんかはとても強暴だで注意しないと危ないだでよ。それと作物の根を食べるなんてことはないだが、穴を掘るときに根を傷つけたりするのが困るだよ」
そうなんだ。モグラこえぇな。
「普通はモグラの通り道を調べてから罠を仕掛けるんですけど、昨日は調べもしないで罠だけ仕掛けたのでうまくいかなかったみたいです。次はちゃんと調べた場所に仕掛けます。明日仕掛けて、明日の夜は泊まりで見張る予定ですので、よろしくお願いします」
モグラはいつも通る道と、掘って一度通ったら後は通らないような道がある。
穴を崩しておいて、そこがまた掘り返され穴が開通していたら、よく通る本道であると考えることができる。
昨日は適当な場所に罠を仕掛けたが、他の場所でいくつか穴を崩してある。
そこで本道を確認し、罠を仕掛けなおすつもりだ。
今日は泊まりの容易はしてないので、明日仕掛けて泊り込みで確認をしてやろう。
地球のモグラは恐ろしい生き物ではありません