罠師、異世界に行く
「あ、あの……キョンを……害獣を退治したら報奨金がもらえるということだそうだけど……そういった話を聞きたいんですけど、どこに行けばいいんでしょうか……」
あちゃー、緊張しまくってろくに言葉がでてこなかった。
自分としては社交性はあると思ってたが、あまり人と接することがない期間が何年もあったため、思うように言葉がでてこない。
会話力は使っていないと錆び付いてくるようだ。
とりあえず役場に行って受付っぽいおばちゃんに聞いてみたんだ。
「あん? この前ニュースで出てたから問い合わせの電話とかもあったって聞くけど、あんたもその口かい? 狩猟免許は持ってる? 猟友会には入ってる?」
なんか胡散臭いものを見るような目で、めんどくさそうにおばちゃんが答えてくれた。
「狩猟免許は持ってます……猟友会ってのには入ってません……」
普通の声量で話したいのに、小さな声しか口からは出てこない。
猟友会って講習受けたあれだよな。
入っておかなきゃいけなかったのかな。
「入ってないのかい。猟友会に聞けば害獣退治のことなんか教えてくれるよ。あたしはこれでも忙しいんだよ、帰った帰った」
別に自分の後ろに誰か並んでるわけでもない。というか、この役場の客というか利用者なんかほとんどいねーじゃん。
でも、先に電話で問い合わせするべきだったか。
今日のところは帰るとするか。
おっと、その前にしょんべんだけしていこっと。
辺りを見回し、頭上の案内板でトイレを確認して、そちらへと歩いていく。
おっ、害獣退治、仕事案内って案内表示がある、そっちを覗いてみるか。
案内に従って細い廊下を進んでいく。
この役場はお金が無いのか、管理がずさんなのか天井の蛍光灯がチカチカと点滅しているものがいくつかあり、廊下は薄暗くなってきた。
つーか、どんだけなげーんだよこの廊下。
おっ、扉発見。
ずいぶん歩いた先に木製のドアを見つけ、歩みが速くなる。
ドアを引き開けると目の前が一瞬まばゆく目が眩んだかと思ったが、すぐに目の前が真っ暗になった。
なんなんだ?
目を閉じ手で擦った後、目を開く。
視界が開けると共に、ざわざわとした喧騒も耳に入ってくるようになった。
ここはどこなんだ?
室内にある細い通路を抜ける。
通ってきたのはカウンター脇の通路だったようだ。
受付の人が座ってる後方から歩いてきた感じだ。
ふたつある受付のひとつがちょうど空いたので、そちらへと足を運ぶ。
失敗したかな。
目の前にいるのは外人さん。
それも赤い髪だわ。
赤毛って実際は茶色というかオレンジっぽい感じで、赤ではないんだよね。
でも、ここのお姉さんは真っ赤だわ。
役所でこんな派手な色に染めててもいのかよ。
そんなことを思ってたら、あちらさんから声をかけられた。
「いらっしゃいませ。本日はどの様なご用件でしょうか」
「は、はひ……害獣退治ってのをやってみようと思ってきたんですが……どんなものか教えてもらえたらって……」
「退治のお仕事ですか。失礼ですがギルド証を拝見してもよろしいでしょうか」
「ギルド証? 猟友会のやつ……? 入ってないです……えと、狩猟者登録証は持ってきました、これです」
背負ったリュックを下ろし、中から狩猟者登録証を取り出し赤毛のお姉さんの目の前に置き、狩猟者記章を胸にとりつけた。
なんかこのふたつは猟をするときにもってないといけないらしい。
「それでは拝見いたします。変わった冒険者証のようですね。まだ初心者の方ですか」
透かしたり裏返したりしながら調べて、納得したのか返してくれた。
「はい……猟友会の講習も受けたし免許もとりましたが……まだ初心者です」
「武器は何をお使いになられるのでしょう」
「罠を使います……銃は持ってません」
「初心者ですか……。この街のそばの農家の方からモグラの退治の依頼がございますが、そちらのお仕事はいかがでしょうか」
「やります! やります!」
初めて大きな声がでたが、そんな自分のことをお姉さんはうふふと小さく声をだし微笑んでいる。
キョンを捕まえるつもりだったけど、モグラでもいいや。
何気に今まで登録とかいろんなものに金がかかってしまって、素寒貧なのよ。
ここに自転車で来るのにも途中でジュースを買おうか迷ったけど、公園の水で我慢した。
赤髪のお姉さんから依頼票とかいう用紙をもらったので失くさないようにちゃんとリュックに入れておこう。
お姉さんとの話が終わると言われたとおりに建物から出てすぐの門を抜けていく。
なんか、身分証の提示を求められたみたいだけど、狩猟者登録証出したら通してくれた。
畑を横目に未舗装の土の道路を歩いていく。
おっ、畑仕事してるあの人に聞いてみるか。
「すみませーん」
今日はいろんな人と会話をし、昔の感覚が戻ってきたのか大きな声も出せるようになってた。よかったよ。
この辺りは外人さんが多いのかな。
ぼくの声にこちらを振り向き、返事を返してくれたのは日本人というかアジア系でもなく、ヨーロッパ系のおじさんだった。