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罠師、謝罪を受ける

 爺さんとこの土地に罠を仕掛けさせてもらって5日。

 暇だ、獲物がかかる気配はない。

 畑のほうにも来て作物をかじって荒らしていくって言うからそっちにもくくり罠をしかけてるんだけど、餌に食いついた形跡はまったくない。

 まぁ、餌なんてその辺に豊富にあるから、運よく罠に仕掛けてある餌を食べてくれるのを待つしかないんだよな。

 毎日通ってきているが、特にすることもなく待ちだ。

 にしても暇だ。


 ……あっち行くか。


 異世界と知って行くのをしぶっていたけど、懐が寂しくなってきてしまったし、背に腹は代えられないよな。

 この前ネットに書き込んだときにほんとかどうか疑われてしまったし、証拠写真を撮るために携帯持って行くか。

 バッテリーもずいぶんへたってたけど、1日くらいはもつだろう。





 リュックと手提げを持ち、何度も通った廊下を通り過ぎ……


 ーーガツン


「ぐはっ」


 背負ったリュックが何かに引っかかったのか、肩にかけた紐がぐいっと引っ張られ、その場に尻餅をついてしまった。


「いてて」


 リュックの紐を肩から外し引っ張ろうとするが、ある地点からこっちに持ってこれない。

 向きを変えたらなんとかなるか。いや、やっぱなんか引っかかるな。中身かなぁ。

 床にリュックの中身を全部出してみる。


 そして空のリュックを向こうへ軽く放り投げる。

 おっけー。


 あ、手提げも向こうへ。

 問題なし。


 なんか、レンタルビデオ屋とかデパート、スーパーにあった盗難防止のゲートを思い出すな。

 たまに誤作動があって、どの持ち物がブザーを鳴らしたのか店員が来るまでに自分で確認したりしたわ。


 ラップに包んだおにぎりとか、ペットボトルに入った自家製麦茶とかも問題なし。


 ……犯人はお前だー


 携帯だった。


 携帯だけがある場所から廊下の先へ進むことができない。

 そのある場所ってのは特に何もない空間なのだ。

 パントマイムではないけど、床から天井近くまで携帯を滑らせるように上下左右動かしてみたが、見えない壁のようなものがあり、どうやってもそこから先へは持ち込むことができないようだ。

 今までこんなことはなかったはずなのに……


 携帯電話がだめなのか?

 電子機器?

 機械?


 そういや、腕時計もしてないし、スマホも携帯も今まで持ってきてなかったな。

 眼球をぎょろりと上に向け、自分の頭の先から足の先まで身に着けているものを頭の中で思い描いていく。

 うわ~、機械っぽいもの身に着けてもないし、持ってもないわ。


 いやいや、免許証にはICチップが入ってたよな。うん、まだ現代人。

 他にもなんかよくわからんけど、銀行とかお店とかのカードもあるし。


 尻ポケットから抜き出した財布を見えない壁付近で前後に動かしてみるが、特に遮られたりはしない。


 とりあえず異世界へ持ち込み禁止物があると仮定しよう。

 この廊下には人が来ることがないみたいだし、携帯電話(未契約通信不可)は端っこに置いておくか。

 う~ん、やっぱ考えてもわからんものはわからん。




 気を取り直して異世界(仮称)へと渡った。


 今日は受付には用はないので、置かせてもらってるモグラ罠の確認だけしようか。

 そんなことを考えながら建物を出ようとしたところに声がかかった。


「よう、罠使いのにいちゃん。この前は獲物を奪っちまって悪かったな。謝るよ」


 ごつくがたいのいいおっさんが声をかけてきた。

 以前はただ珍しいかっこの外人さんだと思ってたけど、筋骨隆々の体に恐らく皮製だと思われるが色染めもない短パンと同じく皮製だと思われる袖のないチョッキみたいなのを羽織ってるだけの、こんな人が日本にいるわけないよね。

 元ニート、これは関係ないか。一般的な小心者の日本人としてはこんな人に声をかけられるとちょっとびびってしまう。ばりばり威圧感があるよ、これ。


「いや、いいですよ。ここら辺では罠を使う人がいないみたいで、罠にかかった獲物を勝手にもっていったら駄目ってルールもなかったみたいですし」


 なんとか絞り出し、抜けたような声で返事をすることができた。


「許してくれるのか。受付のミールに散々しかられてしまったからな。いや~、助かった。今後は罠にかかった獲物には手をださないようにしようって話になったから、にいちゃんも安心してくれ。いや~、よかったよかった。あっ、すまん」


 機嫌よさそうにこちらの肩をバンバンと叩くものだから、肩にかかる圧力に負けて膝から崩れ落ちてしまった。

 なんつー馬鹿力だよ。


「わざわざありがとうございます。それではこれで失礼します」


 そそくさと退散した。

 ていうか、受付のお姉さんにお礼を言わなきゃいけないかな。

 出口へ向けかけていた足を受付カウンターの方へと変え、赤髪のお姉さんへと近づいていく。


「こんにちは」


「はい、こんにちは。お久しぶりですね、タカシさん」


 数少ない身近な女性ともいえるコンビニのおねえちゃんなんかが自分の名前を呼んでくれることはないけど、この若い美人なお姉さんが名前を呼んでくれるとはと嬉しくなってくる。

 いかん、顔が赤くなってしまってるかも。

 それはいいが、お礼、お礼っと。


「さっき罠にかかった獲物を持って行った人から謝罪を受けました。ミールさんが言ってくれたそうですね。どうもありがとうございました」


「いえいえ、大したことはございません。これもお仕事ですから。それにタカシさんはモグラの被害を減らしたことで農家の人たちから感謝されてて、タカシさんを悪いように扱うとそちらの方々からお叱りを受けてしまいますからね。これからも獲物をバンバン獲ってきて下さいね」


「はひぃ」


 ちょっとあがってしまって変な声がでてしまったので、逃げるようにその場を後にした。


 それにしても、罠にかかった獲物を持っていかれないようになったのはありがたい。

 異世界ものの小説やアニメを参考に、奴隷を買って、奴隷に罠の見張りとかさせるのがいいかもなんて思ったりもしたけどその必要はないみたい。


 その日は予定通り、モグラ罠の確認をおこなった後、受付のお姉さんともう一度話をし、依頼票が貼ってある掲示板に罠を仕掛ける場所の近くに罠注意の絵を書いた立て札を立てるということを説明した紙を貼らせてもらった。

 ちなみに文章は受付のミールさんに書いてもらったよ。

 実を言うと、この世界の文字って読めないし、書けないんだよね。

 笑えることに今まで文字が違うってこと知らなかった。

 依頼票とか読みもしなかったよ。


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