罠師、日本で活動する?
ボロボロに壊れた罠の残骸を持って役場の駐輪場の自転車へと歩いていく。
「にいさん、しょぼくれた顔してどうしたのさ」
声の方向くと、人好きのする優しげな老人の顔が目に入った。
「はあ……聞いてくださいよ。向こうで罠を仕掛けてたんですけど、冒険者……えと猟師とか狩人みたいな人のことかな。その人たちに罠にかかった鹿を持っていかれてたんですよ。罠から鹿を外すためか罠は壊されちゃってたし。もう嫌になりますよ」
「そうなんか。悪いことするやっちゃな」
「そう言いたいとこなんですけど、罠を使う人はいないみたいで罠にかかった獲物を勝手に持っていったらだめってルールや意識自体ないみたいなんですよ」
言葉の後に「はあ」とため息が自然に漏れてしまう。
「そりゃ残念だったな。それよりにいちゃんは元々キョンを捕まえにきてくれたんだよな。なんで向こうで狩してるんだい」
「……」
えっ、なんでだろ。
役場に行って話を聞こうと思ったら、受付のおばちゃんに軽くあしらわれ、役場内の廊下から異世界に迷い込んで、そこでモグラ退治の依頼を受けたんだよな。
それがうまくいって、モグラ退治を繰り返し、ステップアップというかモグラの仕事が少なくなったから鹿を捕まえることにしたんだよな。
そこで今回の失敗と。
「なんとなくというか、成り行きですかね」
「当初の予定通り、この町でキョンを罠で捕まえてみるってのはどうだ? 猟は他人の山でやっても問題ないが、地主にひと言断ってからやるのが無難だな。うちの山なら罠を置いてもええぞ。増えすぎたキョンを捕まえてくれるなら大助かりだ」
「そうですね、いいんだったらそうさせてもらおうかな」
「あと一時間もしたら終業だから、終わったら電話するから番号教えてもらえるかい」
「……。すみません、携帯持ってないんです」
「あら~、珍しいな、にいさん」
ほとんど家に引きこもってニートやってたし、連絡取る友達も特にいなかったから必要なかったんだよ。
家にパソコンあるからメールやほとんど使ってないけど、パソコンでlineもできるしね。もっとも相手はいなかったけど。
それにスマホのゲームだってパソコン使ってエミュレーターでできるしな。
なんて言い訳じみたことを頭の中で考えてしまった。
「それなら5時に待ち合わせはどうだ?」
「う~ん、うちがここから自転車で2時間とかなんでできればもっと早い時間とかだったら助かるんですけど……」
「わかった。土曜日の昼過ぎとかだったらどうだ?」
「お休みの日にすみません、助かります」
数日後の土曜日に約束どおり爺さんの家に直接伺った。
以前業務日誌を見せてもらうのに来たことがあったので、場所は知ってたんだよ。
「こんにちわー」
縁側で新聞を読んでた爺さんに元気よく挨拶をおこなう。
最近あんましこういったことはしなかったけど、以前職場の先輩(お年寄り)に散々言われたんだよ。
とりあえず明るく元気よく挨拶しとけば、向こうさんからの印象はよくなるからやっとけって。
「おー、よく来た。飯は食ってきたのか?」
「はい、家を出る前に食べてきました。それとつまらない物ですがお土産です」
途中で買ってきた大福(6個いり)をそっと手渡す。
「すまねぇな。おーい、婆さん。饅頭もらったから茶をいれてくれ。にいさんも自転車でここまできて疲れただろ」
「えぇ、まあ少し。でも何度も家から通ってるんで大分慣れてきました」
お土産の大福とお茶で少し休んだあと納屋へと案内された。
そこには農機具やらなんやらいろんなものがごっちゃに置かれており、言っては何だが埃も結構つもっている。
「こっちだ」の声に納屋の二階というか、天井の低い屋根裏という場所なのかへ連れられ、頭を少しかがめて奥へと進んでいく。
「おう、これだこれだ」
そこにあったのはギザギザのついた円形をしたものだった。
そう、昔話の鶴の恩返しとかで見た気がするわ。
確かトラバサミ。そう、トラバサミだ。
本にも書いてあったよ。トラバサミは基本的に使用禁止になったって。
それが、ひぃ、ふぅ、みぃのよっつ転がっている。
もちろん錆び錆びのオンボロだ。
「おれの爺さんが獣を獲るのに使ってたやつだ。イノシシとか狼とか捕まえたとか言ってたが、狼は嘘だろうな。たぶん野犬か何かだと思うが、まぁそれはいいとして、後はこっちだ。おっと、ネズミ捕りの罠はここにもあったか。これは使うから出しておくか」
鉄でできた籠状のものを3つ奥から引っ張り出して、通路の端に置くのを少し手伝った。
「いろんなものがあるんですね。あまり目にすることがないというか、見たことのないものがいっぱいです」
ろくに電気もなかった時代のものだとおもわれる木製の器具なんかも結構埃をかぶって置いてある。
あれは葛籠か。開けたら何が入ってるんだろう。
舌切り雀の話を思い出しながらそんなことを少し考えた。
なんか日本昔ばなしとかででてくるようなものが結構目に付く。
田舎の古い農家なんかはどこもこんなのだろうか。
「そっか、珍しいものがいっぱいか。今はそれほどないが、うちは本家で昔は結構畑や田んぼをいっぱい持ってたでっかい農家だったからなぁ。納屋には明治より前のものも結構仕舞いっぱなしになってるのさ。さっき出した罠以外にも何かあったと思ったが、みつからないな。今度みつかったら出しておくから、とりあえずそのギザギザのやつとネズミ捕りをもって出るか。あぶないから気をつけてな」
「はい」
ふたりして罠を納屋から持ち出し、庭へ広げて置いた。
ふわ~。
天井の低い圧迫感のあった場所から出てきて、開放感に包まれる。
「そっちのギザギザのやつ。4つあるけど、それは兄ちゃんにやるよ。錆びてしまってるけど、錆を落とせばまだ使えるんじゃないかな」
「いただけるんですか。ありがとうございます。でも、トラバサミって禁止されて使えないみたいなんですよ。でも向こうだとそんなことないみたいだから、向こうで使わせてもらいます」
「そっか、残念だな。どっちにしても日本で禁止されてるならにいさんにやるのが正解ってことか」
その後、今でも使ってるネズミ捕りの罠を見せてもらったり、お爺さんちの持ち山へと案内してもらったりと楽しく過ごした後おいとました。
「は~い、止まってぇ~」
「あははは」
自転車を止めスタンドをかけると、前かごがガチャガチャと音を鳴らす。
「こ、これは。う~ん、君って前にも止めて話をしなかった?」
「はい、職質というかなんか、自転車の防犯登録を確認されました。そのときに鉈とか持ってて注意を受けました」
「やっぱりか。狩猟免許を見せてくれた君だな。自転車の防犯登録は前に確認したからいいか。それと前かごでガチャガチャいってるそれは駄目ってわけじゃないけど、袋に入れるかどうかしたほうがいいかもしれないな」
「わかりました。もういいですか」
「すまないな。もういっていいよ」
以前にも自転車を乗ってたら止めてきて、職質をしたおまわりさんだった。
この辺りで職質をよくしているのか、それとも自分の身なりがみすぼらしく怪しいのかはしらないが頻繁にこんなのは嫌になってくる。
とりあえず自転車の前かごにそのまま突っ込んであったトラバサミが見えないように、リュックから取り出したスーパーの袋を被せ、家路へと急いだ。
トラバサミは厳密には完全に禁止ってわけじゃないみたいですけどね。




