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罠師、獲物を奪われる

 長年親しんでた2、いや5ちゃんで雑談をしたおかげで、少し気分がよくなった。

 うん、やる気が出たよ。

 明日から頑張る。

 じゃねーよ。


 今日はこれから行く時間ないけど、明日は絶対行くぞ。おー!






 5日ぶりにあの役場へやってきた。

(リアル半年くらい放置してたが久方ぶりに投稿だ)


 駐輪場に自転車を置いてから、建物の周りを少し歩く。

 あー、いたいた。



「この前はすみませんでした。ちょっとショックが大きくて異世界って判明してからあんまし覚えてないんです。気づいたら家にいて布団に包まって寝てたんですよ」


「おう、久しぶりさな。あんときは顔を真っ青にして走って出て行ったから気になってたんだ。もう大丈夫かい?」


「はい、おかげさまでだいぶ落ち着きました。それでもう一度あの廊下の先に行ってみようと思ってきたんです」


「そっか。わしはその廊下の先ってとこには行けないみたいだが、話し相手くらいにはなれるから、なにかあれば遠慮なく言ってくれ」


 この前お邪魔したおじいさんに別れ際粗相がなかったか気になってたんだ。

 だって異世界に行ってたとか頭のキャパオーバーだよ。

 まあ、特に問題はなかったようなのでひと安心。


 自転車をあちらに持ち込むのは諦めて、愛想の悪い受付のおばちゃんの前を通り、廊下を抜け異世界(仮)へと足を踏み込んだ。

 雰囲気というか空気が変わったところで、あらためて周りを見渡してみる。


 まだ廊下だが、確かにさっきまでと床と壁も少し違う。

 確かに木造なんだが、材質は違うし足元はギシギシと鳴っている。

 今までは気にも留めなかったよ。


 そう、ここからもう一歩踏み込むと……そう、ここで周囲の喧騒が耳に一気に入ってくる。


 異世界(仮)かは分からないが、さっきまでの役場とは明らかに違っている。


 周りを見回すが、日本人なんていねーよ。

 外人さんばっか。

 壁には絶対ある丸い掛け時計なんかもどこにもない。

 あのあっちで買取をしてくれていた、ずんぐりむっくりの髭もじゃのおじさんってもしかしてドワーフなんじゃねって考えが浮かんでくる。


 そんなキョロキョロとあたりを見回していたところで自分を呼ぶ声に気がついた。


「タカシさん、待ってましたよ」


 こっちこっちと手招きをしている赤毛のお姉さんが目に入る。


 耳は……尖ってないし普通、髪の中にけも耳も隠れてないっぽい。

 異世界と意識し始めたからか、即座にチェックしてしまう自分が少し嫌になる。


「はいはい、何か御用でしょうか」


 なんか呼ばれるようなことあったっけ?

 小走りに駆け寄って聞いてみる。


「タカシさんでしょ。森の外周部に罠を仕掛けてたの」


「はい、ちょっとショックなことがあってここ数日来れなかったけど、何日か前に鹿用の罠を仕掛けて帰りました。それが何か?」


「昨日なんだけど、ホーンディアを持ち込んだ方がいたんですけど、その方が酒場で話してるのが聞こえちゃったんです。足に紐が絡まってて動けないホーンディアを見つけて儲けたって」


「えっ!? もしかしてそれって……」


「たぶんタカシさんの罠にかかったやつじゃないかと。でもいいかしら。誰かが仕留めた獲物を奪うのは駄目だけど、周りに誰も人がおらず、動けなくなってる獲物を狩るのを咎めるルールはないのよ」


「えーーー」


 ほんとに、うそー、まじかよーって気分だ。


「モ、モグラは?」


「あれは、所有者のある畑に罠を置かせてもらってるから、それを勝手に持っていくのは泥棒と同じだから獲られる心配はあまりないのよ」


 それだけ聞いて話もそこそこに、背中のリュックの荷物をガチャガチャいわせながら小走りで罠を仕掛けた場所まで急いでいった。

 そこには足にかかったという紐がうまく外せなかったのか、壊され切られたくくり罠の残骸が見つかったのだ。


 うそ~ん。

 もう嫌になる。

 この仕事やめよっかな。


 そんな弱気の虫が湧いてくる。

 走ったせいで流れ落ちてくる汗が目に入って染みるせいか、目から涙が流れ出てきた。

 それを服の袖で拭きながら、壊れた罠を検分していく。


「こりゃ、買い替えだな。大損害だよ。くそがーー」


 ぶつぶつ愚痴をこぼしていたが、最後は大声で叫んでしまう。


 獲物を奪うのはしょうがないとして、罠まで壊さないでくれよと泣きたくなった。




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