罠師、職質を受ける
翌日、早速鹿の罠を確認するためにと自転車を走らせる。
確認というか、実はもっと森の奥に移動させようと思ってるんだけどね。
そのために鉈と小型ののこぎりも買ってきた。
鉈はさすがに100均になかったから、680円もするやつ買っちゃったよ。
いつまでも母ちゃんに小遣いせびるだけのニートではないのだよ、ふははは。
お尻のポケットに入ってる財布に手を当て、確認することで温かい気持ちになる。
千円札が3枚も入っているのだよ。
小銭だけではないのだよ。
笑いをこらえつつも顔がにやけてるのはしょうがない。
「は~い、停まってもらっていいですか~」
視界の隅というか、前方にお巡りさんがいたのは知っていた。
別にやましいことはないんだけど、視線を外しながら自転車に乗っており、お巡りさんまで後数メートルというところで声がかかった。
通せんぼとまではいかないが、軽く手を広げ停まるよう指示をだす。
「ご協力感謝します」
「はあ」
なんなんだろうと思ったが説明があった。
「最近自転車の盗難が多いので、自転車の防犯登録の確認をさせていただいております。身分証をお持ちでしたら拝見させてもらえますでしょうか」
「あぁ、はいはい。どうぞ」
ズボンの後ろポケットに入っている財布から免許証を取り出し、お巡りさんへと渡す。
元ニートとはいえ、車の免許だけはとってあったのだ。
昔近所の町工場で働いてたときに、先輩というな名の親よりももっと上の爺さん連中からも勧められ取った免許証は今やペーパードライバーでゴールド免許となっている。
渡した免許証で名前を確認し、自転車についている防犯登録のシールの番号を読んでお巡りさんは無線機で確認をとっている。
「あ~、この自転車って母と一緒に使ってるんで、登録は母になってると思います」
「そうですか。苗字が同じでしたら、特に問題ないですよ。確認に一、二分かかりますので少々お待ちください。その間に失礼ですが、ガチャガチャ音がしている背負ってるリュックの中を軽く拝見してもよろしいでしょうか」
リュックをはずし、中が見えるように開いて自転車の前かごの上にのっける。
「こ、これは!? これからどこに行かれる予定ですか? お仕事ですか?」
「えっ???」
一瞬このお巡りさんが何について問題視してるのかわからなかったが、すぐに思い当たった。
「もしかして、鉈と鋸ですか? これこれこれ。狩猟免許。罠の確認に行くんだけど、藪とか切り払うのに必要だから持って来たの。まだ始めたばかりで、これも新品なんだけどね、あはは」
「あははは、そうですよね。銃刀法違反になるかと思いましたよ。狩猟ってことは猟銃とかも持っているとか?」
「いやいやいや、罠限定の免許です。鉄砲を肩にかついで自転車乗ってたりとか危なすぎでしょ」
そんな話をしているうちに防犯登録の確認が取れて、はれて開放されることができた。
最後に猟に行くとき以外は刃物は持ち歩かないようにとひと言加えられた。
最近はそういうのは厳しいらしいからね。
特にやましいことがあるわけでもないが、お巡りさんに止められて職務質問なんてされてしまって嫌な気分のままいつもの役場までやってきた。
あれ?
おっかし~なぁ。
役場の建物に沿って自転車を押して歩いていく。
しかし、裏にまで周っても、一周しても見覚えのある景色が目に入っては来ない。
罠を仕掛けた翌々日、罠がどうなったか見に来たのだが、森まで歩くのはもう勘弁と自転車で行こうとしたのだがどうにも門番さんのいる村の出入り口の門も見えないし、裏口なのかな?赤毛のおねぇさんがいる窓口のある方の出入り口も見つからない。
狐につままれたという言葉があったが、そんな気分だ。
「あじょした?」
「ん???」
なんかよくわからんけど、自転車を押しながら声のしたほうを振り返ると、腰の曲がったお爺さんがこちらを見ながら微笑んでいたが、すぐに言い直してくれた。
「どうかしたのかい。なにか探しものかね」
「う~ん、この役場の裏口というか、玄関とは別の出入り口を探してるんです。そっちはなんかもっと田舎っぽくって外人さんがたくさん住んでる場所への出入り口です」
「裏口というか非常口のようなものはあるにはあるが、おめぇさんの言うような場所とは違うと思うがな。ここは外人なんぞほとんど住んでおらんしの。まぁ座りな」
花壇ブロックがちょうどいい高さにあり、そこに座ったお爺さんが腰を叩きながら隣に座るよう促してきたので、自転車のスタンドを立てて置き、お爺さんの隣へと腰を下ろした。
「おめぇさんこの近くのものかい?」
「いえ、自転車でここから1時間くらいのとこに住んでます。キョンっていうのの駆除の募集をしているって聞いてしばらく前から通ってるんです」
「そぉか、助かる。何年か前からいっぺぇ増えてしまって、やつらはうるさい声で鳴くしほんと勘弁して欲しいわ」
「残念ながら、モグラ退治しかやってないんですけどね」
「ということは役所の仕事ではなく、農家の方から直接頼まれたのかい」
「直接というか、仲介してもらってですかね。その畑まで結構距離があるから自転車で行きたかったんだけど場所がよくわからなくって。役所の裏口がわかれば、そこからの道ならばなんとかなると思うんですけど」
爺さんは立ち上がったと思ったら、こちらの困ってる様子をみて案内してくれるという。
恐縮していたら、定年後の再雇用でこの役場で働いてるから客の案内をするのも仕事のうちだから気にするなと言ってくれた。
さぼりたいだけなのではと思っても口には出さない。いや、ほんと有難いからね。
とりあえず自転車はその場に置いたまま歩いて役所の周囲を案内してもらったが、どうも記憶にある風景と一致する場所が見当たらない。
確かに周りも田舎なんだけど、もっと田舎というか道路も舗装されてないようなとこだったんだけどなぁ。
納得のいかない様子をみかねて、今度は建物の中から行ってみようと提案してくれたので甘えることにした。
爺さんと連れ立って中に入ると受付の愛想の悪いおばちゃんが頭を軽く下げるのにびっくりしたが、気にせずいつもの廊下へと向かった。
「こっちです……って、いない。はぐれた?ってのも変だな」




