罠師、鹿を狙う
モグラ退治を始めて2ヶ月が過ぎた。
2ヶ月の間に周りを取り巻く状況はずいぶんと変化があった。
まずモグラ退治の依頼が無くなった。もうほんとに全然だ。
最初は農家が退治の依頼をだしていたのだが、いまでは罠を使ってモグラ退治をしたいと考える人が増えすぎてしまったため、逆に畑に罠を仕掛けさせてくれないかとお願いする始末だ。
かくいう自分も依頼を受けて何件もの農家の畑でモグラの退治をしてきたが、今では最初に依頼をしてくれた二人の畑以外に罠を仕掛けることはない。
ほとんどの農家は罠を買ってきて自分で仕掛けてモグラを獲っている。
モグラの皮や肉が売れるのだから、自分で獲れるなら獲りたいと思うのもしょうがない。
自分は畑仕事だけしたいので、そんなことは専門の人に任せたいと考える人だけが無料で罠をおかせてあげるといった風に落ち着いた。
ちなみにあの二人は面倒だと思ってるのではなく、優しさから仕事をさせてくれてるにすぎない。
あー、何か他に稼ぎ先を考えなきゃなんないなー。
二人の畑はめちゃくちゃ広くて、獲っても獲ってもモグラは尽きないんだけど、最近は大きく育ったのは減ってきて小柄なやつが増えてきた気がする。
それにみんなモグラを獲りすぎて買取価格が下がってるんだよな。
村では頻繁に入荷するんで、この村の特産品にすっぺとかいって頑張って加工してる人たちもいるらしいんだけど、買い取り価格はなかなか上がってくれない。
やっぱ、当初の予定通りキョンの捕獲かな。
「すみません、今更なんですけどここにはキョンが増えすぎて困ってるからって新聞で見て来たんですけど、キョン退治について教えてください」
「キョンってなんですか?」
今では受付の赤毛のお姉さんとも普通に喋ることができるようになったので、さらっと聞いてみたが、キョンなんて知らんって返事が来た。
いやいや、ここで募集してるはずなんだけど。
「えっと、小型の鹿で外来生物で増えすぎて駆除したいって聞いたんですけど」
「う~ん、うちじゃないかな、そんな募集はおこなってないわよ。鹿だったら少し離れた森にホーンディアってのがいて、モグラの何倍も高く買取してるわ」
鹿かぁ。そういや狩猟期間って冬場の3ヶ月か4ヶ月くらいしかなかったはずだけど、そのホーンディアっての獲っていいんだろうか。
ネズミやモグラなんかは狩猟免許もいらずいつでも駆除してよかったけど、その鹿は有害駆除対象になってるんだろうか、聞いてみよう。
「そのホーンディアってのは今狩ってもいいの? 狩猟期間とか大丈夫なんですか?」
「狩猟期間? よくわからないけど、皆普通に狩ってきてるわよ。ほら、ちょうど今入ってきた人もホーンディアを担いでる」
大柄な筋骨隆々とした、どこの野蛮人だよって風体の男達が棒に大きな鹿をくくりつけ二人で運んでいるのが目に入った。
300キロ以上はありそうで、最初牛かと思ったくらいでかかった。
運んでる男たちも体重100キロ以上はありそうな大柄で筋肉ムキムキだが、それでも重そうにしている。
あれを狙うのか? いや、無理だろ!
でも働いて稼ぐって決めたんだし、諦めてたまるか!
その日はモグラの罠の確認をし、かかった獲物の回収、新しく被害のある場所への設置をおこなって家へと戻った。
あ~、ちなみに罠とかいちいち持ち帰ったりするのが大変なんでゴローザさん家の納屋を借りてます。
もちろんレンタル代としてあのコインを使わせてもらいました。
コインの使い道ができてよかったよ。
納屋は三畳くらいの広さの掘っ立て小屋で、ほんとに床と壁と屋根、そして入り口の扉があるだけの木造の簡素なものだ。
鍵とかはついてなかったんで、とりあえず100均で南京錠を買ってつけさせてもらった。
田舎の農具を置いてるところなんか、泥棒なんか入らないだろうって鍵をつけてないとこ多いんだよね。
家で試験を受けた際の教本を読んだり、ネットで調べたりして使う罠を考えた。
お金をかけずに自作でもと思ったけど、やっぱ最初だけはひとつ既製品をかってみることにした。
自作するにしても見本があるほうがやりやすいもんね。
お金はあの質屋さんにコインを持っていって買い取ってもらってる。
なんか銀の含有率とかも調べてくれたみたいで、重さを量って手数料20パー引いたものがこちらの取り分だ。文句はない。
だってネットオークションでコインを出品してみたけど、全然値段があがらなかったんだもん。
コインとしてのプレミア的価値はないものとして銀の素材としての価値で引き取ってくれるならそれでいいよ。
そんなお金で買ったくくり罠を持って教えてもらった森へと足を運ぶ。
あ~、自転車で来ればよかった。1時間くらい歩くとか予想以上に遠いじゃねーか。
村の門をでて少し歩いたら森があるっていうから、10分程度かと思ったのに歩いても歩いても向こうに見えてる木々がいっぱいの森が近づいてこないんだもん。
ブログでいろんな人の記録を見て、いっぱしの猟師気分で森へと足を踏み入れる。
獣道をみつけ、そこに罠をしかければいいんだよな。
じゃねーよ!
森を甘く見てた。木々が鬱蒼と生い茂ってて奥どころか全然入っていくことができない。道どこよ?
茂みや木の枝が邪魔なんだよ。鉈かなんか持ってくるんだった。
しょうがない。
森へは立ち入らず、周囲を移動してよさげな場所を探していく。
獣道とか無理!
わかんねーよ!
どうにか入っていけるような場所をみつけ、そこを入っていく。
ガサガサガサ
落ち葉を踏み、茂みをかき分け何かが走って逃げていくのが一瞬目に入った。
獲物か!?
いや、それより、ていうか鹿だったとして向かってきたらどうしよう。
鹿ならまだしも猪とか怖すぎる。
なんか身を守れるようなもの持ってくるんだった。
急に臆病風に吹かれ、びくびくしながらもその去っていった動物がいた場所へ移動し罠を仕掛けてみる。
ここの鹿は巨大みたいだから、大きな木にワイヤーをかけてっと。
あ、くくり罠ってのは罠を獲物が踏むと作動し、その足をワイヤーが括るって仕掛けだ。
足が輪の中に入った瞬間に輪っかになったロープ引っ張って足を紐で縛るってのをバネとかで自動にしたってイメージかな。
周囲を気にしながら、何か異変はないか耳をすましながらも罠を仕掛け終えた。
コイン精米所から失敬した糠を餌として撒いていく。
ついでに、あらかじめ用意してきた看板を木の枝にぶらさげといた。
罠注意!だ。
人間さんが罠にかかったら大事だからね。
それだけ終えると足早に村へと戻っていくのだった。
あれ?
おっかし~なぁ。
役場の建物に沿って自転車を押して歩いていく。
しかし、裏にまで周っても、一周しても見覚えのある景色が目に入っては来ない。
罠を仕掛けた翌々日、罠がどうなったか見に来たのだが、森まで歩くのはもう勘弁と自転車で行こうとしたのだがどうにも門番さんのいる村の出入り口の門も見えないし、裏口なのかな?赤毛のおねぇさんがいる窓口のある方の出入り口も見つからない。
狐につままれたという言葉があったが、そんな気分だ。
さすがにいつまでも鈍感主人公ではいられない。




