ニート、罠師になる。
「たかしちゃんご飯ここに置いておくわね」
長い廊下を歩きながらぼーっとしていたようだ。
数年前のことを思い出していた。
母一人、子一人の二人生活を送っている。
中学を卒業してすぐ近所の町工場で働き始めたが10年後工場は不況の煽りを受けて倒産してしまった。
それから7年、おいらも今では立派な子供部屋おじさんとして生活している。
いや子供部屋おじさんは働いているけど親と同居して子供の時に与えられた子供部屋を大人になっても使っていると言う意味だったか。
だとするとおいらはニートだ。
それはさておき。昼過ぎに部屋の前にご飯をおいてから母ちゃんはタクシー運転手の仕事にでかけている。
たかしちゃんは若い頃に無理して働いてもらったから今は充電中なのよ、と部屋に籠っているおいらに対し優しくも甘々な言葉をかけてくる。
数年前にこれからはパソコンもできなくちゃねとねだったパソコンのキーをカタカタと打ちながら2ちゃんの、いや今は5ちゃんねるか。5ちゃんねるのスレッドを読んでいく。
定期巡回コースに指定している嫌儲板だ。
カタカタカタ
「はい、送信っと。他に面白そうなニュースないかな」
画面をスクロールさせ目を引く記事を探していく。
おっ、これなんだろっと。
【千葉】キョン大量発生 牛肉に近い味わいだという
スレをクリックして記事を開いてみた。
台風・大雨・停電に悩まされた県民に訪れる新たな問題。狩猟、試食、革工芸で有効活用も
千葉県い○み市の住宅街を歩くとさっそく道路を横断するキョンに遭遇。オスには短い角と牙が生えている
「キョンは朝と夕方に山から下りてきて、稲、大豆、イチゴなどの農作物を食べてしまう。民家の庭にも出没し、植木の草花を食い散らかすので、住民は困っています。それだけじゃない。キョンはどこでもオシッコをするため、雨上がりの日には町中に牧場のようなムッとした臭いが充満する。夜になると首を絞められているかのような声で鳴き気持ち悪い。すばしっこく、罠を仕掛けてもなかなか捕まりません」(千葉県い○み市の住民)
中略
このままでは生態系が攪乱される恐れがあるとして、国は’05年、キョンを特定外来生物に指定した。千葉県はより早い’00年から駆除対策を進めている。
「千葉県は’13年からキョンの『防除実施計画』を実施中です。生息数の多い勝浦市、い○み市、鴨○市など7市町を集中防除区域に定め、県や市町村単位で罠や猟銃を使った捕獲作戦を行っています。
イノシシなどと同様、1頭捕獲してもらうごとに自治体は6000円前後の報奨金を出す。昨年度は捕獲と報奨金のためにおよそ4000万円の県予算を投じ、4111頭のキョンを捕獲しました。
最終目標は県内から野生のキョンを完全排除することです。しかし、人手や予算の関係上、増加数に比べて捕獲が追い付いていないのが現状です」(千葉県環境生活部自然保護課の三○○郎副課長)
増えすぎたキョンを〝有効活用〟する動きもある。前出の石○氏は、キョン肉の試食を含む狩猟体験を主催しているほか、キョンのなめし革を使った工芸品を作る『ハント○○○ス』社を立ち上げた。
「高たんぱくで低脂質なキョン肉は、台湾や中国では高級食材。レストランで1頭食べると約6万円します。春が旬で、刺身で食べると美味しい。私が主催する狩猟体験では、キョン肉のローストを試食してもらっています。牛肉の赤身に近いあっさりとした味わいです」(石○氏)
そこには外来動物のキョンが増えて困っているという内容のニュースが出ていた。
いつも通り眺めているとある文字が目を惹く。
そこの役場がキョンの退治に1匹に対して6000円の褒賞金を支払っているという内容だ。
他の5ちゃん住民の書き込みにもあった。
一日に2匹仕留めれば1万2000円だし、それで生活できるんじゃね。
スレを読んでいくと気になるキーワードが見つかった。
狩猟免許なるものだ。
イメージからすると猟師が鉄砲で狩りをする、だった。
他にも罠で捕まえればいいんじゃね、などの書き込みも気になった。
ま、まじかよ。一日2頭倒せば余裕で生活できるわ、1頭でもいける。
ライフルか?
いや、免許とるのも大変そうだし、銃も高いんだろうな。
他にはっと……
そうだよな! 罠だよ、罠!
早速目の前にある箱で調べてみたところ、わな猟免許なるものがあることがわかった。
都道府県ごとに試験は別れており、年3回程度あるみたいだ。
ちょうど今試験の申し込みが始まったばかりのようだった。
思い立ったが吉日、少し手間だったが病院で診断書を書いてもらい、5200円の収入証紙を購入し申し込み手続きをおこなった。
収入証紙とは収入印紙とは別物で地方自治体で発行している金券である。
廃止している都道府県もあるが、無駄なものに思えてしょうがない。
収入印紙でいいじゃない。
まぁ、それはさておき勉強だ。
30も半ばということもあり、学生時代から勉強は苦手だったこともありで苦労することが予想されたが早速試験に向けて勉強だ。
ネットで勉強方法を詳しく調べてみた。
試験内容は3つに分かれており知識試験(筆記試験三択(県によって違いあり))、適性試験(視力、聴力、運動能力)、技能試験(実技)だ。
適正試験は健康であればほぼ問題無いようなものだから、筆記と実技だな問題は。
猟友会で予備講習会なるものを有料で開催しているみたいだったが、そんな金ねーよ。
こちとら親のすねかじりのニートだぞ。
それでも色々な人の書いたブログやなんかを読んでいくといきなり受けて玉砕したとかそんな話もよく出てきた。
講習会はほぼ必須って感じだ。
しょうがねーな。
これも必要ないな。これももう読まないし、これももうプレイしない。
部屋の不要な漫画やゲームを中古屋に売りに行ってきた。
漫画なんか古いのは二束三文じゃねーか、丁寧に扱ってて綺麗なもんだぞ。
ゲームソフトも200円とか300円、500円とかだったけど、ひとつだけ4000円で売れたのがあった。助かったよ。
あと、これなんか買い取り値段つかないんだけど、うちで処分しましょうかって言われたものがあったけど、やらねーよ。持って帰ってきたわ。
なんとかお金を工面し、講習会も申し込んだ。
さて、どうするか。
申し込み手続きをひととおり終わったら、またいつものニート生活に戻っていた。
ネットの巡回だ。
そんな日常を送っていたが、やる気の燃料がポストに届いた。
「狩猟読本」「狩猟免許試験例題集」だ。
ふふん、猟友会に苦労して講習のための金を払ったからね。
狩猟読本は結構面白かった。
鉄砲のことも書いてあったが、受けるのは罠猟だからそこは飛ばして読む。
ひと通り読み終わったら、次は例題集だ。
動物の足跡の形なんかも問題にでてた。
そんなこんなするうちに講習会の日も来て、講習受けてきたよ。
なんか試験でどんなとこがでるみたいなのも分かったし、罠の扱いも教わってきた。
この実技が曲者で、普通じゃ教われないもんね。講習会はこのために行って来た様なものだよ。
そして試験。
試験は余裕だったよ。
なんて今だから言えるけど、試験を受けるまではがくぶるだった。
落ちたらどうしようってね。
でも、結構本を読み込んだし、問題集も頑張ったよ。
狩猟免許を取得して都道府県に狩猟者登録を申請。
いざ鎌倉へ、ではなく○○市へ。
当然車なんて持ってない。
近所へ出掛ける際に使ってる母親と共用のママチャリでいくしかない。
幸い千葉県民なおいらは時間さえかければ○○市まで自転車で行けるとふんでいる。
……3時間後
「死ぬー」
時速20キロで1時間半で到着を予定していたが時速計算だと1時間に10キロ程度しか進めていないことがわかった。
信号うざすぎる。
なにはともあれ現地に到着。
なんとなく勢いで来たが、どうすりゃいいんだ。
電話で問い合わせるとかすりゃよかったかもしれんが、スマホとか持ってないしそんな考えさっぱり抜けてた。
昔はガラケーとか持ってたよ。
でも、仕事やめて使うことなくなったし、金払うのもったいないしで解約しちゃったよ。
役所か?
そう思い、街の中に立ってる地図の看板を見て目的地を確認する。
ここに来る前に家で書いてきた手書きの地図はとりあえず役目は終えたな。
数年前に実際にニュースと掲示板のスレを見て書き始めてたはなしです。
害獣駆除で報奨金がもらえるのはその土地に住んでる人に限られる場合が多いですが、この話でそこのとこはスルーさせてもらいます。
この物語はフィクションでありなんとかかんとか。
毎日投稿とかは今回はやりません。
気楽に気が向いたとき投稿になります。