触れたら呪われる、と陰口をたたかれているクラスの根暗陰キャ目隠れ爆乳女子を罰ゲームで抱きしめたら、思いのほか反応が可愛くてそのまま結婚を前提に付き合っちゃいました!
「ひゅ~♪ 今日の三組恒例放課後罰ゲームは、タクヤに決定しました~!」
「げっ、マジかよ。今週、もう小遣いがねぇからオゴリは勘弁だぜ?」
「ほら、ぶつくさ言ってないで、男なら覚悟を決めてカードを引けって」
俺の名前は小林タクヤ。ちょいワル、ちょいイケメンだ。
最近、クラスの仲の良い男子数人内で流行っている、放課後罰ゲーム。
いつもはジュースをおごったり、ものまねをしたり、変顔をしたりと言った比較的軽いものが多いのだが、今日は致命傷待ったなしだった。
まぁ、その原因は俺が引き当てたカードの内容が問題だったりするんだけど……。
「な、なんだよこれ! 誰が書きやがった、こんな指令!」
「どれどれ……? おほっ♪ これはいい罰ゲーム!」
「マジか。ああ、タクヤ。お前とは今日でお別れだな。まさか、ダサ子を抱きしめるなんて――」
「縁起でもないこと言うんじゃねーよ!」
今日でお別れ。
何やら不穏な会話だが、それはあながち間違いではない。
なぜなら今日の罰ゲームは、触れたら呪われるとクラスの生徒全員から後ろ指を指されている、陰キャ女の久我山定子を抱きしめることなのだから。
「ダサ子が帰っちまう前に早くいけよ」
「ウェーイ♪」
「お、おい。押すなよ! 俺はまだ死にたくない!!」
改めて俺は、椅子に座って身支度を整えている当人を見据える。
(うわっ。何て言うか、あそこだけ何か暗い……)
日が延び始める初夏にもかかわらず、言いようもない負のオーラをまとう彼女に俺は悪寒戦慄!
逃げたい。でも、羽交い絞めにされているためそれは叶わない。
ああ、俺の命はここで尽きるのか。実はまだセックスもしていない童貞だって言うのに――。
◇◆◇
腰まで伸びた濡れ羽色の髪、目まで下ろした前髪からチラリ垣間見える厚ぼったいメガネ。
素顔は見えず、まさに恥ずかしがり屋を二段飛ばしした陰キャ代表格のような女。
親しい友人もいないためいつもぼっちで、クラスの生徒も声すら聴いたこともない始末。
いつの間に登校したのか? そしていつの間に下校したのか? 誰も知らないし、誰も興味がない。
まるで幽霊のようにそこにいて、まるで幽霊のようにその場からいなくなる。そんな存在。
外見のイモっぽさとスカート丈が極端に長い、イマドキ女子とはかけ離れた古風な雰囲気があまりにダサく、名前をもじって周りは皆、ダサ子と呼び後ろ指を指す。
それでも直接的なイジメに発展しないのは、最近流行っているホラー映画の、触れたら呪われ殺される系のヒロインに風貌が似ているから――。
触らぬ陰キャに祟りなし。これがクラスメイト、久我山定子のすべてである。
もちろん俺だってそう思っていた。彼女とは、できるだけ関わり合いにはなりたくない、と。
そう、あの罰ゲームを決行するまでは――。
◇◆◇
「や、やぁ久我山さん」
「……」
悪友のカズヤとタケシが遠巻きでニヤつきながら見守る中、俺は未だ席に留まる定子のところまで行って声をかける。
まさに超接近遭遇。
こんな偉業を成し遂げたのはこのクラスで、いや、この学園で俺が初めてであろう。
「今日も良い天気だね」
「……?」
もう一日の半分以上が過ぎてるってのに、何て会話をしてるんだ。
でも少しばかりホッとしたのは、彼女が声こそ発しないが、俺の声かけに反応しわずかながらに顔を上げてくれたから。
これで、彼女が幽霊ではないことが如実に証明された。
「あ、あの。今、ちょっとだけ時間いいかな。折り入って話したいことがあるんだけど……」
「……っ」
否定とも肯定とも取れる反応を見せる定子。
「いや、ダメなら別にいいんだ」
うん。むしろダメだと断られる方がこっちにとっても都合がいい。
カズヤとタケシには、後で理由をつけてジュースでもおごっとけばごまかせるだろ、あいつら単細胞だし。
「ごめんね、いきなり声をかけて。じゃ、じゃあ俺はこれで」
よし。これで罰ゲームの半分以上は無事消化。
少し晴れやかな気分で踵を返そうとした、その瞬間――。
グッ。
(んっ?)
誰かに袖を引っ張られた。
誰? そんなの、一人しかいないだろう?
まさか、このクラスに幽霊がいるわけでもあるまいし。
「……」
「久我山さん?」
「……っ」
「もしかして、OKってこと?」
「こく……」
「……ゴク」
定子がこくりと頷くタイミングから一拍置いて、俺はゴクリと生唾を飲み込む。
まさかの了承に真っ先に感じたのは、若干の恐怖と一抹の不安。
しかし、健気すぎる彼女の行動に、つい俺のいたいけな男心が揺さぶられて――って、そんなわけないだろ! 気のせいだ、気のせい!
もちろん俺だって、そう信じてやまなかった。
いざ定子と対面し、心を通わすそのときまでは――。
◇◆◇
人気のない校舎裏の一角。
ここなら誰にも見られず噂もされず、罰ゲームを遂行することができる。
ただ、カズヤとタケシは「飽きたから」とか言って俺を置いて先に帰りやがった。クソッ、あの薄情どもめ。もし俺が呪い殺されたら化けて出てやるからな!
「……」
って、いかんいかん。
妙な気配(!)を感じ慌てて我に返ると、目の前には妙な気配(?)を送っていた張本人、久我山定子の姿が。
「あ……っと。ごめんごめん。俺が呼び出したのに」
「……ふるふる」
改めて向かい合うと、彼女は俺より若干背が低くて、華奢。
そのくせ、両手を前で組んでモジモジしているせいか、強調される制服シャツ越しのおっぱいは――。
(でっっっっっっっっっか!!!!!)
特筆に値するほどのダイナミックさ!
例えるなら、バスケットボールをプレーしていたら、いったいどっちがボールか分からなくなるくらい。
もっと分かりやすく言えば、アルファベットを上から数えて七番目くらい。
さらに砕けた感じで言えば――ええい! とにかく制服シャツのボタンが今にも弾け飛んじまうくらいのパッツンパッツンのムッチムチなんだよ!!
(やべぇ……。そこらのクラスの陽キャギャルより……いや、下手なグラビアアイドルよりよっぽどスタイルよくてエロいんだけど……)
今まで、意識的に視界に入れないようにしていたせいでもあるが、まさか俺の近くにこんなドスケベ・ザ・エッチセックスの原石のような女がいたなんて、何たる不覚!
(って、待てよ)
冷静になって考えてみると、彼女はクラス内において、触れたら呪われるなどと陰口を叩かれている存在だ。
これが意味することとはつまり、まだ誰の男の手も介入していない、ピュアな女と言う証明にもなる。
(ああっ。なんだかやけに興奮してきやがった……)
人気のない校舎裏で二人きり。
夏も間近に迫り、高まる期待、開放的な気分で心身ともにフライハイ。
揃ったお膳立てに背中を押され、俺は言葉よりも先にまず行動を開始していた。
「久我山さん! 突然ゴメン!」
「……っ」
ガシッ!
触れたら呪われる? 上等だぜ。そんなくだらねぇオカルト、この俺が捻じ曲げてやる!
そんな気持ちが先走る、ただひたすらに荒っぽく、男の持てる力をこれでもかと発揮したガチでマジの抱擁。
(うっひょぉぉ~ぉ~♪ 柔らけぇっ……! しかも、すげーいい匂いがしやがるっ。クンクンクンッ。思わず鼻の穴が開いちまうぜ!)
こんなん罰ゲームでも何でもない。むしろご褒美!
(ああっ、成り行きとは言え女を抱きしめるのってこんなに気持ちいいことだったのか……!!)
定子の少し汗ばむ身体からダイレクトに伝わる心地よい体温。
まるで心臓の音が聴こえてきそうなほどの密着ハグにしばし酔いしれていると――、
「……ぁっ、ゃっ、そのっ」
程なく聴こえてきたのは心臓の音ではなく、戸惑い混じりの甘い嬌声?
「あ! ご、ごめん久我山さん! 俺、つい……」
慌てて離れると、彼女もまた少しばかり距離を取る。
でも、心から拒否をしているような距離ではない、そんな微妙な距離感だった。
「い、いえ。私こそ、ヘンな声を出してしまってごめんなさい」
あれ? もしかして俺、あの久我山定子と会話してる?
今まで、クラスの誰も声を聞いたことのなかった彼女とコミュニケーションを取っている?
と言うか、声が凄く可愛いんだが!!!!!!
「あ、あの。いったいどういうつもりですか……」
それでも、集中していないと届かない弱弱しいメープルボイス。ま、そこが相まってさらにプレミア感を醸し出しているんだけど。
だからノリと勢いに任せて、イケるところまでイってみることにした。
もちろん罰ゲームであることは伏せた状態で。
「ええと、実は」
「……」
「ずっと好きだったんだ、キミのこと。俺と付き合ってくれないか」
「ぇっ、ぇぇっ?」
突然の告白に、定子の頬が真っ赤に染まる。
「いきなりのことで戸惑う気持ちも分かる。でも俺はこれ以上、自分の気持ちにウソはつけないんだ」
「で、でも。小林さんのようなカッコイイ方なら、私なんかよりももっとステキな人が――」
「ダメなんだキミじゃなきゃ。俺は久我山さんと付き合いたいんだよ!!」
ああ、なんつーゴリ押しまみれの残念な告白。
こんなんで落ちるチョロい女なんて、せいぜいギャルゲーのヒロインぐらいだよ。
「ぁっ、その、私で良ければ喜んで――」
いや、ここにもいた!
ごり押しまみれの残念な告白で落ちるチョロい女が。
「本当? 久我山さん」
「は、はい。私も、その、恋に憧れていましたから……」
「奇遇だね。実は俺も学園での恋愛に憧れててさ」
「そうなんですか? では私と同じですね。うふふっ」
「……ッ」
お、おいおい。曲げた人差し指を顎に当ててくすくす笑う姿がメチャクチャ可愛いらしいじゃないか!
贅沢を言うなら、もっと見たい。前髪越しの笑顔だけじゃなく、素顔を……彼女のすべてを見たい!
「あの、久我山さん。前髪、上げてくれる?」
「ぇっ! ど、どうしてですか」
「見たいんだ。久我山さんの可愛い素顔を」
「か、可愛いって私、そんな見せるほどの大した顔じゃ……」
「俺たちはもう恋人同士なんだし、いいでしょ?」
「ぁっ……」
ほんの数分前まで他人だった者同士が、数分後には恋人同士。ホント、人生ってのはまるでジェットコースターのようなものだよな。
「そ、そうですよね。私たち、もう恋人同士なんですよね……」
生まれつき素直な性格なのか、それとも単に押しに弱い性格なのか、定子は分厚い前髪に手をやり、おもむろにかきあげる。
(……ッ!?)
すると、そこから現れたのは――小説よりも奇なりの衝撃的な現実。
知的なアンダーリムメガネ越しに、頬を真っ赤に染めてはにかむ彼女の美しい素顔があった。
「ほら見たことか! 可愛いじゃないか!!」
「あうう。あまりジッと見ないでください……恥ずかしいので……」
「ダメだよ目を反らしちゃ。ちゃんとこっちを見て」
「は、はい……ぁっ!」
まさに不意打ち。
と言った形で触れ合った唇は、瞬く間に溶け合い、絡み合い、重なり合う。
「んっ、んんっ、ぁふ……」
柔らかく弾力のあるグミのような感触を夢中になって貪るたび、漏れるのは定子の悩ましくも甘い吐息。
時間にしてはたった数秒の出来事だったかもしれない。それでも、ファーストキスの衝撃は俺の脳内に一生忘れることのできない幸せな記憶として刻まれていった。
「……ふはっ」
やがて唇が離れると、その場に残るのは何とも言えない高揚感と気恥ずかしさ。
その長い長い余韻を経て、ふと我に返る俺たち。
「奪われ、ちゃいました。私の、初めて……」
「ご、ごめん久我山さん! 俺、つい――」
「いえ。いいんです。ふふっ、小林さん。こんなところでシちゃうなんて、見た目同様、大胆なんですね」
「見た目同様? それって、どういう意味?」
「ずっと、見てましたから。あなたのこと。ステキだなって思ってて……」
「俺のことを?」
「ええ。休み時間に校庭で元気にサッカーをしたり、放課後に他の男の子たちと楽しそうにはしゃいでいるのを遠巻きに見ていたんです。気付いていましたか?」
「ごめん。全然気付いていなかった。でもそれならなんで声をかけてくれないんだ」
「……私には、そんな勇気なかったんです。だからせめて、遠くからと思って。でも――」
「え?」
「もう遠くで見つめる必要はないですよね。だって私たち、その……恋人同士なんですから」
「ああ。これからは、一番近くで見つめて欲しい」
「嬉しい。あの、私からひとつお願いしてもいいですか?」
「なんだい?」
「私のこと、名前で呼んで欲しいです。私も、あなたのこと名前で呼びたい……」
「定子」
「タクヤさん」
今度はお互い何の躊躇もなく――。
連呼するファーストネームを合図に、惹かれあうようにして恋人ハグを交わす。
「定子」
「タクヤさん……!」
俺が抱く力を強めれば、一拍遅れて定子が抱きしめ返してくれる。
ああ、こんなラブラブな展開。まさかこの俺が体験する日が来ようとは。
そもそもの発端は単なる罰ゲーム。でも、そんなことはもうどうでもいい。
俺の腕の中で子猫のように甘える彼女のことをもっと知りたい、全力で守りたい。その一心で、俺はよりいっそう腕の力を強めるのであった――。
◇◆◇
「すまんお前ら。俺、定子と結婚を前提に付き合うことになったわ」
「えーーーーーーー!?」
「な、なんだってーーーーー!!!」
ああ、あのときのカズヤとタケシのアホ面ったらなかったぜ。
ま、どっちかと言うと、俺が定子と付き合うことになった事実よりも、彼女が前髪を上げて素顔を晒していると言う現実にビックリしているようだったが。
もちろん、このイメチェンも俺の指示。
定子をより俺好みの女に開発するための序章に過ぎない。
「定子。昼は屋上で一緒にメシを食べよう」
「ハイッ、タクヤさん。私、お弁当を作ってきたんです。こう見えても料理は得意なんですよっ」
「マジ? 楽しみだなぁ」
うん。本当に楽しみだ。
今後は、この厚ぼったいアンダーリムメガネからコンタクトへと切り替えさせ、長すぎる髪もフェミニンなショートボブへと調髪させ、校則通りのスカート丈も校則違反の短い丈に改めさせる。
「じゃ、そろそろ行こうか」
「はい」
最愛の彼女を得たことによって、俺の輝かしくもどこかエッチな青春はこうして始まったのだ――と思いきや。
「な、なぁカズヤ。お前が書いたのか、あのふざけた指令のカード」
「え? んなわけねぇよ。おめーだろ、タケシ」
「俺でもねーーよ。そもそも俺がダサ子と関わり合いになるような内容を仕込むかっつーの」
「おいおい。じゃあ一体誰だよ」
「知らねーよ」
カズヤとタケシが怪訝そうな表情で唸る中――。
「うぐぐ……」
袖口掴みを卒業し、今は仲良く腕を組みながら廊下を歩く俺と定子の背中を、曲がり角の暗がりから見つめる一人の女生徒。
「な、なによタクヤ。あたしと言うものがありながら、そんな暗い子と付き合っちゃうなんて……」
そう。輝かしくもどこかエッチな青春は決して一筋縄ではいかない。
「しかも名前呼びなんて、どんだけオトナの階段駆け上がってるのよ……! 許せない。こんなの絶対に許せないわ……!!」
水面下で確実に進み始める学園恋愛争奪戦争は、今まさに勃発しようとしていたのだ――。
廊下の暗がりから恨めしそうな視線で覗く、タクヤの許嫁。
さらにブラを勝手に借りたタクヤの義理のウザい姉も絡んできたりのハーレムスクールライフの行く末は……?