二人の食事
読んで戴きましたら倖せです。
顔面を真っ赤にして額と鼻のてんこつに絆創膏を貼り、鼻血が出たのでティッシュで大きなつっぺをし、背中と首に大きな湿布を貼ってマッパでピラフをがっつく暁人の姿はおおよそホストと云う華麗な業界の男とは思えず、痛々しいほど残念な姿だった。
夕霧は指を指して盛大に笑った。
当然、暁人は面白くない。
丸めていた背中を伸ばし、スプーンを振り回して抗議した。
「笑うな!
誰のせいだよ! 」
「アキト可愛いーーーっ!! 」
「それが可愛いって態度かよ!
それとさあ、これいつも食べてる冷食の味がするんだけど」
夕霧はピタリと笑うのを止め、真顔で答えた。
「気のせいだよ」
「めちゃくちゃ腑に落ちないんですけどお」
「アキト、世の中には知らない方が倖せって事が沢山あるんだよ」
「どーゆう倖せだよ!
ところでさ··········」
暁人は急に真顔になり、テーブルに手を組んで置き言った。
「オレを拉致した目的って何? 」
夕霧は急に確信を突かれドギマギする。
「それはあ·······アタシの個人的事情っていうかあ····」
「オレのスマホと財布、それと服はどうした? 」
暁人は畳み込むように言う。
夕霧は安堵の色を見せて快活に答える。
「大切に大切に保管してあるよ」
暁人は夕霧を睨んで言った。
「せめて服、着させろ! 」
「無理! 」
夕霧は暁人が言い終わる前に言い切った。
暁人はテーブルに手をつき、立ち上がって言った。
「無理ってなんだよ!
なにオレ、ここに居る間中マッパなの?! 」
「ご名答ーーーっ!!
部屋十周の旅、獲得う! 」
夕霧が拍手する。
「ふざけるな!
こんなマッパでいたら風邪ひくだろう! 」
「温度設定には気を使ってるよ
アキト寒い? 」
暁人は眉間に皺を寄せる。
ここで引いたらここに居る間中マッパ決定である。
「寒か無いけど恥ずいだろ!
お前も男なら解るだろ、この股間のスースーしたなんとも頼りない感じ! 」
夕霧が赤くなって俯いてしまったので、暁人は一人気まずくなって二の句が継げなくなったが、ここで負ける訳には行かない。
「······ってお前男だろ、赤くなるなよ! 」
夕霧は舌をペロリと出して、肩を竦めた。
「大丈夫、ここにはアキトとアタシしか居ないから気兼ねはいらないよ」
「そうゆう問題じゃなくてさあ
オレ神経痛持ちなんだよ、冷えて痛くなったらどうする? 」
「あらあ、若いのにお気の毒
湯たんぽとか在った方がいい? 」
「そうじゃなくて·······」
暁人は何を言ってもかわされて、ドッと疲れて力なく椅子に座り込んだ。
「どうしても、オレを解放する気は無いのか? 」
夕霧は目をキラキラさせて、持っていたスプーンを握り頬に寄せて夢見る様に言った。
「そうなの、やっとアタシだけのアキトになったの
アタシ、し・あ・わ・せ」❤
暁人はテーブルに突っ伏した。
「そりゃあ、お前は倖せかもしれないけど、オレはどうなる?
シャンプーコミックの期間限定のコラボキャラ、枝垂れ桜のオバンが当たるガチャができないんだぞお! 」
夕霧は冷めた目で暁人は睨んだ。
「そこ? 」
「そこってなんだよ!
そこ、めっちゃ重要だろ!
オレ、母ちゃんの言い付け守って、ゲームごときに金掛けないで、ずっと無加金で枝垂れ桜のオバン当てる為に、どんだけ必死にイシ溜め捲ったのか解ってんのか?! 」
一晩で何万も稼ぐ男がセコい話である。
やはり暁人は大成しない男に違いない。
「アタシぃ、ヌードのアキトをどうしても完成させたいの」
夕霧か急に真面目な面持ちで言った。
「ヌードのオレって何? 」
夕霧が申し訳なさそうに上目遣いで暁人を見る。
「絵に描き······たくて········」
「ちょっと待ってよ、オレのヌード描く為にオレ、拉致監禁されちゃったの? 」
夕霧は小さく頷く。
「もう、何処から突っ込んでいいのか···········」
暁人は頭を抱え込む。
「あのさあ、解ってる? 」
暁人は少し怒った顔を上げた。
「これって犯罪よ
オレが訴えたら、今度はお前が刑務所に監禁されるんだよ」
夕霧は初めてそれに気付いたようで、驚きに目を見開く。
「もしかして今気が付いた? 」
夕霧は言葉を失い、瞳を震わせている。
「だって···············」
「だって、何? 」
夕霧はそれまで抑えていた想いが破裂するように、急に興奮して言葉が溢れ出した。
「どんなにアキトにつぎ込んでもアキト、ちっとも振り向いてくれないんだもん
アタシのボックスに来ても、ちょっと話しただけで別のお客の処に行っちゃって、その後も中々来てくれなくて!
ほんとはアキトにちゃんと頼もうって思ってた!
でもアタシのこと、きっと好きじゃ無いんだって思ったら言い出せなくて、仕方無かったんだもん! 」
暁人は呆然とし、ただ項垂れることしかできなかった。
それには暁人なりの理由がある。
夕霧の事はいつも気になっていた。
しかし、気になればなるほど傍に居られなかった。
それは本気になりそうだったからである。
そう感じた瞬間から既にかなり本気なのだが、暁人は自分の気持ちを優先させてはいけないと自制させる為に、夕霧を故意に避けていたのだ。
それが夕霧には素っ気ない態度に映ってしまったようだ。
だが、今更それを言った処で、監禁を解く為に合わせているだけだと思われるのは避けられないと思い、暁人は暫く項垂れたまま黙っていた。
それから、ゆっくりと顔を上げ、部屋に飾られた絵を見回した。
「これ全部オレだな··········
そんなにオレの事が好きなの? 」
夕霧は黙ったまま大きく頷いた。
暁人はふとにやけそうになるのを、ぐっと堪えて言った。
「そっか、悪かった
ただ傷付けようとして、そうしていた訳じゃ無いんだ
そこだけは信じて········」
暁人は椅子に力無く座り、真っ直ぐ見詰める夕霧の視線を避けるように横を向いた。
非常にシリアスな展開を見せているが、今暁人は鼻と額に絆創膏を貼り、鼻孔にはつっぺが、そして背中には大きな湿布と、全く締まらない出で立ちだった。
読んで戴き有り難うございます。m(_ _)m
今回、コメディ書いてますが笑いのツボがずれている私としては非常に不安です。
何故ずれていると思うのかと言うと、最近のお笑いで全く笑えないんですよ。
最近のお笑い芸人さんってなんか汚らしい。
お笑いに誇りとか無くて、取り敢えず売れて芸能人として有名になれたらいいって感じがありありとしている気がするんですよね。
私だけの偏見なのかもしれませんが。
私、そもそも芸能人が嫌いなので。
でもチャップリンやドリフターズやクレイジーキャッツ、古すぎて申し訳ないのですが、彼らは笑いに誇りとポリシーがあって、見ていていやらしさが無かったです。
笑いについて、しっかり学んでいたといいますかね。
いまのお笑い芸人さん、なんかうるさいだけです。
ちっとも笑えないんですよね。
私、そうとう感覚が古いんでしょうね。