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五大英雄と殺戮の少年  作者: ぜいろ
第4章 獣の王国と魔導王朝編 ー生きとし生けるものの価値ー
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長く短い悪夢 ep.9 一つの決着

フォルリンクレー最強の執政官である黒の魔女ダスクと、現エルドバ騎士最強の男である銀狼のシルバーの戦いは激しさを増していく。


ダスクは持てる力を出し切ってシルバーに総攻撃を仕掛けるが、シルバーはそれを全て避け切り、ダスクに渾身の一撃を叩き込む。











黒の魔女ダスクは、もはや立ち上がることさえ困難であるように見受けられ、シルバーとしても戦いの決着がそう遠くないことを予感していた。


「お前の掲げる正義ってのは残酷なもんだな。そんなになってまで人を傷つけて、自分を傷つけて、そこまでして守りてぇもんってなんなんだよ」


シルバーは最後の力を振り絞ろうとしている相手に対して、そう尋ねた。


「お前たちには分からない、いや、分かるはずもねぇ()()だよ……!」


「そうか」


ダスクは目の色を変えてシルバーに迫ってくる。しかしそこにはもう、先程まで感じていたダスクによる圧や攻撃に対する脅威は感じられなかった。


(……クラリア様。……俺は多分、こいつに負けます。役に立てなくて、申し訳ありません……)


黒の魔女ダスクは、シルバーに接触するまでの数秒のうちに、自身の過去を走馬灯のように思い出していた。










ー 十数年前、とある国 ー


その国はとても貧しく、国民達はいつでも自分たちの暮らしを守るので精一杯だった。国の政府は勝てる見込みの無い戦争に多額の資金を費やし、国民の生活は圧迫される一方だった。


そんな中でも、国に命は生まれる。


今の黒の魔女ダスクがエルギー家にとって待望の第一子としてこの世に生を受けたのは、国内での反乱が勃発した当初。すなわち、国として最も不安定な状況の最中であった。


「生まれた!私の可愛い子……」


まともに子供を産むことが出来る環境すら整っていなかったその国では、家庭内での自然分娩という母子共に危険を伴う方法での出産が慣例化されていた。


ダスクの母親は、ダスクを産んですぐに出血多量によってこの世を去り、父親は国の動乱に巻き込まれて命を落とした。


彼女がその事を知ったのは、国にいくつかある孤児院の一つに引き取られて少し経ってからの事である。


「……ねぇ、シスター。私のパパとママはどこに行ったの?私の事、いつ迎えに来てくれるの?」


「エレアちゃんのパパとママは今、お仕事が忙しいみたい。もう少しかかるって言ってたわ。良い子にしてればきっと迎えに来てくれるかしら」


「……分かった!」


そんな中でも、孤児院のシスター達はみなしごを優しく気遣った。彼女達は、そこに居る子供達一人一人が今後の世界を担う大事な役割を持っていると信じていたからである。






しかし、世界は時に残酷な一面を持っている。


国内の反乱を収めるために、政府はあろうことか国民に向けて火力兵器の利用を開始したのだ。


住民達の住処は一瞬にして焼け野原に変わり、生活が崩壊するまで、そう時間はかからなかった。その毒牙は孤児院にも及び、ダスクにとって二度目の最愛の人物との離別をもたらした。





奇跡的に生き残ったダスクは、街の至る所で空襲の警報が鳴り止まぬ中、焼け焦げた孤児院の跡地で一人隠れるようにして生きていた。


孤児院にかろうじて残されていた食料もそこをつき、耐え難い飢餓と孤独感に彼女は襲われた。死ぬための力も出ない程に憔悴しきった彼女は、自分の運命と最期を悟りかけていた。


「パパ……。ママ……」


手に握られた大事にしていたぬいぐるみ達に囲まれて、ダスクの人生の幕が降ろされようとした時、彼女の運命を変える出会いがある。




「……リア様!……ちらに小……子が倒……ます!」




ダスクは薄れ行く意識の中で、そんな声を聞いた。そこから先の話は意識が飛んで聞こえて来なかった。





エレア・エルギーとして生を受けた女の子を救ったのは、当時各地を転々としながら各国に奇跡をもたらすと言われ、「魔術師」と呼ばれていたクラリア・アナーキーの一行であった。


「クラリア様、正直もう厳しいかと……」


「馬鹿なこと言わないで。この子にはまだ生きる価値がある。私が起こしてきた奇跡を知らない訳じゃないでしょう?」


「ですが……」


「いいからその子を渡して」


「……分かりました」





エレアが目覚めたのは、クラリアの一行によって救われてから一週間以上経過した時の事だった。


「ようやくお目覚めね、寝坊助さん」


「……ここは、どこ?」


「私の部屋よ。随分と長いこと寝ていたの、貴方」


そう言ってクラリアは、エレアに対して湯気が昇る野菜のスープを渡す。


「ごめんなさいね、あまり自炊はしないのだけれど。美味しくなかったら吐き捨てても構わないわ」


クラリアはそう言ったが、エレアはそれを無視するかのような勢いでスープにがっつき始める。時々野菜を喉に詰まらせたり、その熱さに悶絶しながらも、エレアはスープを食べ進めた。


すると、もう残りが殆どなくなった時に、エレアは突然ポロポロと大粒の涙を流し始める。


「あら……!そんなに不味かったかしら、私のスープ……」


慌ててエレアに近づくクラリアの手を、エレアは強く握りしめた。




「……私、私ね。……こんなに美味しいスープ飲んだの初めてだから……!」


エレアは、口の周りをスープで汚しているのも気が付かない程に、夢中でスープを頬張っていたのだった。


「そう……。誰も取らないから、ゆっくりと食べなさい」


そう言ってクラリアは優しくエレアの頭を撫でた。







「ダスク……?」


「そう。それが貴方の新しい名前よ。不満があったら言って欲しいのだけれど……」


「ううん!すっごく嬉しい!」


「良かったわ」


クラリアは、親の顔すら覚えていないというエレアに、「ダスク」という名前を与えた。ダスクにとって、生みの親以上にクラリアの存在はかけがえのないものになっていたのだった。


「それとね、ダスク。貴方が持っていたお人形さん達に、私の力で魔法をかけたの。お友達になってくれるかしら?」


「うん!」


ダスクはクラリアに連れられて、とある部屋に案内された。クラリアが扉を開けるとそこには、ダスクと歳が変わらない女の子達が遊具で遊んでいる光景が飛び込んできた。


「今日からお友達になってくれるダスクちゃんよ。みんな、仲良くしてくれる?」


「はーい!」


6人の女の子は、それぞれに個性を見せながらも元気よく返事した。




名を、友を、そして拠り所を。ダスクがクラリアから受け取ったものは、彼女にとって世界の全てと成った。


クラリアの行く先が例え茨の道だろうとも、ダスクはそれを疑わない。むしろどれだけ傷ついたとしても、自分が先頭に立ってクラリアを導く者でありたい。


そんな想いを持ち続けた彼女の命が、燃え尽きようとしていた。









ー エルドバ護衛団本部前 ー


シルバーの居る所までようやく辿り着いたダスクだったが、その足取りは重く、最早死んでいるも同然のような動きとなっていた。


力なくシルバーに拳を向けるダスクだったが、彼女の拳がシルバーの肉体を掠めたところで、ダスクはその場に倒れ込む。


「しぶてぇ奴だな」


「俺は……負けた、のか……」


「ああ、そうらしい」


「……クラリア様に、合わせる顔がねぇ」


「来世で謝っとけよ。勿論お前が傷つけたエルドバの騎士たちにもな」


「……約束は、しねぇからな」


「それでいいよ」




その言葉を最後に、ダスクは二度とシルバーに語りかけることは無かった。




その時、ダスクの体からまるで彼女の魂であると言わんばかりの青白い光が飛び出し、そのままどこかの方へと向かって意志を持ったかのようにして消えていってしまった。


「……」


それを黙って見送ったシルバーの元に、ドーフに肩を借りながら近づいてきたキエルの姿があった。


「シルバー、私は……」


「細かい話は後だ。こいつの言い方からするに、エルドバを襲わせた張本人はまだ根城に篭ってるらしい」


そう言ってシルバーは、キエルの言葉を最後まで聞くことなく、フォルリンクレーのある方角へと向かって走り去ってしまった。



「……全く、あいつはいつでも変わらんのぅ」


「あぁ、懐かしい気持ちだ。ああなったシルバーは我々の静止は聞かないだろうな」


キエルとドーフはその背中を見送り、二人目を合わせた。


「俺達はあいつに任せて、国内の掃除でもするかのぅ」


「ああ、そうしよう」


二人の近衛騎士は、ダスクの蒔いた崩壊の種を止めるために歩き出した。




銀狼と黒の魔女、その決闘は一方の死という形で迎えられることになったのだった。










作者のぜいろです!


ここまでの話で暴君のようなイメージを読者の皆様に与えてきたダスクでしたが、過去の回想を見て皆様どんな印象を受けたでしょうか?


ダスクの行動原理は、常にクラリアが第一で、それ以外のことは目に入らないという、言ってしまえば一途な性格であると解釈できるのかもしれませんね……。




今回でエルドバサイドの物語は一旦終わり、フォルリンクレーサイドの話へと移って行きます!主人公であるダリア達の動向に今後はご注目ください!




よろしければ、ブクマ、いいね、評価、感想等お待ちしております!

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