長く短い悪夢 ep.7 最強の騎士
護衛団本部にてダスク達フォルリンクレーの執政官を迎え撃つキエルとドーフだったが、黒の魔女ダスクから衝撃の事実を告げられる。
それはダスクが「洗脳」の能力者では無いこと、そしてシーズ、エクサなどの他の執政官がそもそも人間ではない「人形」だと言うものだった。
ダスクは2人の魔女の力を取り込み、キエルとドーフに対して強力な攻撃を見舞った。
そこに現れたのは、大使殺しの罪によって囚われて居たはずの位階3位の「銀狼のシルバー」であった。
ー数分前、エルドバ王城地下ー
「今日は随分と騒がしいな」
何年も牢獄に居続けると、元から鋭敏な体の感覚が更に研ぎ澄まされていく。より遠くの音が聞こえ、僅かな匂いの違いや空気の流れから、シルバーはエルドバに起きている異変を感じ取っていた。
「まあ、俺には関係ねぇよな」
シルバーは、数年前自分が起こした軽率な事件のことを、既に何度も思い起こしていた。
「何やってるんだ、シルバー!」
「お前、魔導王朝側にどう説明するつもりだ……!」
「お前は、頭を冷やせ。後の事は俺達が処理する」
過去の記憶は、いつまで経っても頭から離れることは無く、何度も何度もフラッシュバックする。自分の直感を信じた、ただそれだけの事によって起きた悲劇は、自分の無力さを痛感するのに十分だった。
「……」
その時、牢獄に1人の獣人が凄まじい慌てようでやってきた。
「シルバー様!」
その青年は、シルバーにとって顔も見た事が無い相手であり、新兵だろうと推測できた。
「……なんだよ」
ぶっきらぼうにシルバーは返す。只事で無いのは彼の様子から見て分かるが、それと自分とを繋ぎ合わせる理由がどこにもなかったからだ。
「現在、フォルリンクレーの執政官による侵攻が行われております!なので、シルバー様にもエルドバの防衛をお願いしたく来ました!」
正直、シルバーは乗り気では無かった。自分の存在を、キエルやドーフは結局疎ましく思うのではないかと考えていたからだ。
「……帰りな。大体お前が俺を解放してどうする?俺は人殺しだぞ。お前の命をここから出てすぐに奪わねぇ保証がどこにある」
シルバーはそう言って目の前に現れた新兵らしき獣人を脅すようにして返した。しかし、目の前の騎士は手足を震わせながらも、シルバーから目を離すことは決してしなかった。
「……私は、強くなってこの国を守るために騎士になりました!でも今の自分では、この国を守れない……!」
新兵はその言葉を発すると、目に涙を浮かべた。それでも彼は、必死に続ける。
「エルドバのためなら、私は誰に何と言われても構いません!国を救うために、罪人に頼る事は、それでも悪ですか……!」
その言葉に、シルバーは自分の心臓が反応しているのを感じた。
(……なんだ、今のは)
目の前で泣き崩れる新兵は、確かに誇りを持っていた。しかし、自分の希望だけでは国を救えないという事実にも恐らく気がついていた。
「……何が、お前をそこまで動かすんだよ」
「……貴方を、信じているからです。シルバー様は覚えていないかもしれませんが、私は幼い頃に虐めにあっており、その時に貴方に救われたのです……!それ以来、シルバー様は私の目指す一番の目標だったんです!」
新兵の言葉は、シルバー自身が考えているよりもずっと真っ直ぐに届いてきた。それが何故なのかは分からない。しかし、シルバーはようやく、自分がここに留まっている場合では無いということを理解した。
「……お前には、ここが開けられんのかよ」
「鍵なら持っています!」
「そうか……」
その反応を見て新兵は笑顔になり、シルバーの居る牢の鍵を直ちに開けた。その後、シルバーの手足を長年繋ぎ留めてきた手錠に鍵を入れて回すと、ガチャりと音を立てて、忌まわしき鎖からシルバーは開放された。
「……ありがとな」
「いえ……!……シルバー様!」
新兵はその場に膝をつくと、シルバーに最大限の敬意を表した。
「エルドバ最強の騎士である貴方に、どうかこの国を、救って頂きたい!」
しかし、シルバーはその言葉に簡単に応えることは出来なかった。
「最強は俺じゃねえよ。今は居ないだけだ、『あの男』がな……。ただ、俺に出来ることはやってやる」
そう言ってシルバーは、数年の時を経て、ようやく牢獄以外の地に足を踏み出したのだった。
ー現在、護衛団本部前ー
「うちの騎士達が随分と世話になったみたいだな」
「あぁ、お前ももう知ってるのか。まるで虜囚のような見た目の割に、情報は入っているらしいな」
「こちとら耳が良いもんでね。散々暴れ回ってたのは全部聞こえてたよ」
「へぇ、じゃあ俺がそこに居る2人をその状態にしたことも分かってる訳だ」
そう言ってダスクは、シルバーとの会話を遮るようにして、一瞬で距離を詰めた。相手の力量を見極めるためでもあった。
「おらぁっ!」
ダスクはシルバーの顔に目掛けて右の拳を振り抜くが、シルバーはそれを避けることもせずに正面から受けた。
ダスクの攻撃は先程までよりも進化し、エクサの能力だった電撃を拳に纏わせていた。電撃による攻撃力、破壊力の増加と、氷を駆使した敵の移動の制限。それに加えてダスクの基本的な身体能力は人間の限界を突破している。普通ならば、獣人でさえ敵う相手では無かったはずであった。
そう、普通ならば。
ダスクの拳はシルバーの顔に触れたまま止まっており、振り抜いたはずの手はそれ以上先に行くことを禁じられているかのようだった。
「……」
その瞬間、ダスクの全身を経験したことも無いほどの寒気が襲う。エルドバに侵攻を開始してから幾らでも強敵とは戦ってきたが、その誰よりも異質で、圧倒的な気配を感じ取っていたのだ。
ダスクはすぐに距離を取り、冷静に自分が殴った相手を見つめる。確かに攻撃したはずのシルバーは、その場を一歩も動くことなく、更には外傷さえ見られないという非現実的な事が起こっていた。
「……お前、只の獣人じゃねえな?」
ダスクがそう言うと、シルバーは静かに言った。
「今の俺の感情、お前は何だと思う?」
「……あ?」
「俺は楽しくなんかねぇよ。自分の棲拠を荒らされて、苦楽を共にした奴らをいたぶられる……。俺の心は最初からずっと、ブチ切れてんだよ」
情動 『怒髪天』
シルバーの全身の毛が、波打つようにして逆だっていく。目は完全に獲物を狩る肉食動物のものになり、爪は鋭利に尖る。口からは蒸気のようなものが吐き出され、シルバーの周りの空気を歪ませる程の蜃気楼を発生させる。
ダスクが気が付いた時には、既にシルバーが顔面を完全に掴みこんでいた。瞬きすら許されないほどのスピードで、シルバーはダスクが辛うじてとった距離を詰めていたのだ。
「……お前も、加護持ちだろ?」
ドガアアアアンッ!
その言葉が聞こえた刹那、ダスクの体は思いっ切り地面に叩きつけられていた。その部分を中心にして地面には亀裂がはしり、轟音と共に細かい礫が宙を舞う。
「……グハッ!」
ダスクは何とか息を吸い込むが、その時には既に、空中に放り投げられていた。それすらも気が付くことが出来ないほどの間、気を失っていたのだ。
狼牙
シルバーはそんな様子のダスクの体を強靭な顎で咥えこんで、そのまま地面へと追突した。その衝撃は、先程の攻撃を優に上回るものだった。
作者のぜいろです!
遂に現れたシルバー。ここぞというタイミングでしたね……!次回からは黒の魔女ダスクと、銀狼シルバーによる本格的なバトルシーンとなります!是非お楽しみに!
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