長く短い悪夢 ep.6 欺罔
エルドバ護衛団支部の悲惨な状況を知ったキエルは、フォルリンクレーが意図的かつ計画的に侵攻を行っていることを、命からがら脱出した騎士達の証言によって把握した。
一方ドーフは真獣化によって3人の執政官達を護衛団本部前で食い止めており、そこにフォルリンクレーを完全に敵とみなしたキエルが到着する。
防衛に意気込む二人の近衛騎士だったが……
ドーフとキエルの、エルドバを代表する二人の騎士は、フォルリンクレーの3人の執政官の前に立ち塞がった。お互いに、ここが一番の正念場であると確信した事だろう。
「戦う前に聞かせてくれ。貴殿らは何故エルドバを襲う。最初からその気ならば、友好国としての体裁を築くことすら無意味だったはずだ」
既に被害が出ていながらも、キエルはあくまで冷静に質問を投げかける。感情的になるほど戦闘において足元をすくわれやすいことを、キエルは理解していたからだ。
「理由、ねぇ……」
ダスクは一瞬間を置いて答えた。
「最初から、恐怖で支配しても良かったんだ。クラリア様の力があれば、この国を落とす事なんて簡単だったからな。だが、予定が狂ったんだ。全ては3年前、この国に送った使者が殺された時、その時に俺達は今日に向けての計画を準備し続けたんだよ」
その言葉に対して、キエルは思わず動揺を見せる。
「あれが、きっかけだとでも言うのか……」
しかし、それに対するダスクの返答はキエルにとって想定外のものだった。
「いや、あれは正直驚いたね。まさかあの時点で俺達の計画が阻止されるとは思って無かったからな」
「計画、やと……?」
ドーフは眉間にシワを寄せてダスクに問いかける。
「ああ、そうさ。俺達はあのタイミングで既にエルドバに対して攻撃を仕掛ける予定だった。使者の体は俺の洗脳によって操られ、いつでも体内に仕掛けた爆弾を爆発させられたんだよ!……だが、勘のいい騎士の野郎が居た。俺達の計画は失敗し、次こそは成功させられるように、今日の日まで準備を重ねてきたんだからな!」
それを聞いてキエルとドーフは、自分達が長年起こしてきた間違いについて気が付くこととなった。自分達が悪だと断定していたシルバーによる使者殺しは、先見の明があっての事であり、未来に起こる悪夢を防いでいたのだと。
「……そんな、馬鹿な」
「あの馬鹿には一回謝らんといかんのう……」
「その後お前達が、あの騎士の身柄を抑えて牢獄にぶち込んだって聞いた時には笑いそうになったがよ。まあ、敵の戦力が少しでも削れたのは良い事だ」
そう言ってダスクは両手を広げるポーズを取って見せた。
「ああ、話のついでだ。お前らが勘違いしてることをもう一つ教えてやるよ」
ダスクのその言葉に、ドーフとキエルには緊張がはしる。先程の暴露の事もあり、ダスクの言動から目を離せなくなってしまう。
「俺の能力は、『洗脳』じゃねえ」
「は……?」
ドーフとキエルは、自分が目にした情報、そして騎士達から聞いた情報と異なる発言をしたダスクに対して、不思議そうな顔を見せた。
「……いや、でもお前の身体能力は確かに人間のそれを遥かに超えとるぞ」
「それに、各地の騎士からお前の能力の目撃情報があった。その能力に間違いないはずだ……!」
「はあ、ったく獣人ってのは頭が固いねぇ。滅ぼすついでだ。教えといてやるよ」
そう言ってダスクは、自分自身のことを語り始める。
「俺達執政官は、皆小さい時にクラリア様に拾われた。そう教えられて育って来たが、実は違う。俺だけは唯一、先天的に加護を持って産まれてきた。だが、他の奴らは全員そもそも人間ですらねぇ。こいつらは、クラリア様によって命を吹き込まれた『人形』なんだよ!」
その言葉に、キエルとドーフは絶句する。目の前で確かに動き、言葉を発して意思の疎通が出来ているシーズとエクサが人間では無いという事実が、それ程までに重くのしかかった。
「そして俺の生まれ持った加護は『信念の加護』。相手の信じる能力を得るとかいうチートな能力さ。お前達は信じただろ?俺が『洗脳』の力を持っているってさ。それが俺の力になったわけだ、ありがとよ」
キエルは、エルドバ全体がダスク1人の能力によって掻き乱された現実を受け入れるしかなかった。そしてこれから起こる事態を理解するまで時間はかからなかった。
「つまり、お前は洗脳の力に加えて、そちらの2人の信じる『力』まで手に入れる事が出来るということか……!」
「あったり〜!さすが察しがいいな、エルドバ1の頭脳の持ち主はよ。でも1つは既に知ってるはずだ。俺が何故複数の場所を同時に攻撃出来たのかってことを考えるとさ」
「……分身か」
「そういうことだ。つまりお前ら2人は、今から洗脳の力によって強化された俺の分身達を相手にしつつ、俺本体、そしてシーズとエクサとも戦わなきゃいけねぇんだよ!」
ダスクがそういうと、近くの物陰に隠れていたのか、ダスクと全く同じ見た目をした分身と思われる者達がワラワラと姿を現した。
「更にとっておきを見せてやるよ」
ダスクはそう言って突然、シーズとエクサの頭を掴むと、体から黒いモヤを発生させる。そしてその不気味な物体は、2人の体を徐々に侵食していく。
「1つになろうぜ、姉妹達」
ダスクがそう言ったかと思うと、シーズとエクサ両名の体は、力なく地面に打ち付けられた。それはまるで、本当に彼女達が人間では無いことを決定付けるかのような行動だった。
「……まさか、吸収したのか!?」
「とんでもないことしよるのぉ」
エルドバの近衛騎士2人はもはや、目の前で起きている事に絶望を感じることしか出来なかった。
「いや、アイツらが生きてきた証はココにある。これから先もずっとな」
ダスクはそう言って自分の胸の部分を指でトントンと示して見せた。
「……生きてるってなんだろうな。アイツらは自分の意思で動けて、話もできた。自我もあった。でも人間じゃねえ、ただの人形だ。それでも、アイツらは確かに生きてたんだよ」
ダスクは急に二人のことを思いやってか、1人でそう呟いた。そして、吹っ切れてキエルとドーフを見据える。
「受け止めろよ、獣人共。これがアイツらの思いの結晶だ」
その瞬間、ダスクの右手に煌々と輝く光の玉が現れたかと思うと、辺り一帯は昼間であるというのに猛烈な光に照らされた。
ダスクはそのエネルギーが籠った玉を、キエル達の方へと向かって投げつける。キエルとドーフはそれを咄嗟に回避しようとするが、足元が凍りついていることにその瞬間に気が付いた。
「……やられた!」
ピカッ…………ドオオオオオンッ!
キエル達の周辺を巻き込むようにして、光の玉は炸裂した。その余波は投げた本人であるダスクでさえ立ち続けるのが難しいほどの暴風を生んだ。
「お前らにも、これくらい出来たんだよな。……ちくしょう」
ダスクは風が徐々に収まり、静かになっていくのを感じた。二人の執政官の力を得た今の自分に、エルドバを落とす事などもはや造作もないと確信していた。
「おいおい、随分派手な花火じゃねえか」
しかし、煙の中から1つの人影がダスクの方に向かって歩いてくるのに気が付いた。
「……あ?」
その人物は肩に1人を背負い、腕で1人の人間を持っているような姿にも見えた。それを考えると、ダスクには1つの正解が想起された。
「普段からスカしてるから足元すくわれんだよ。後は寝てな、キエル」
「……任せて、いいか。今更謝った所で解決にならないことは、百も承知だ」
「……お前の頼みだからやるんじゃねえよ。ただ、俺はあいつにこの国潰されんのが癪なだけだ」
そう言って人影は二人の人物をその場に下ろし、砂埃の中から姿を現した。
昼の燦燦たる太陽の日差しを受けて妖しく光る銀色の毛並み。薄汚れた肌ながらも、逞しく引き締まった体つき。そして何よりも、目が合ったダスクを今すぐにでも食いちぎろうとするほどの鋭い眼光。
男の名は「銀狼のシルバー」。エルドバ騎士位階3位の、現存する最強の騎士であった。
「さあ、第2ラウンドと行こうや。魔女狩りだ」
シルバーは口元で歯をギラつかせてそう言い放った。
作者のぜいろです!
勘の良い方なら、シルバーがエルドバの窮地で登場する事は既にお分かりだったかも知れませんが、作者としても、ようやくといった感じでしょうか。
シルバーの位階を見て頂いても分かるように、少なくとも現在エルドバに居る現職の騎士達の中では最も高い位階となっております。牢獄に幽閉されていた期間が長いにも関わらずこれが残っていることから、彼の強さを想像してみてほしいです……!
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