長く短い悪夢 ep.4 黒豹のトルーグ vs. 黒の魔女ダスク
護衛団本部にてエクサ、シーズの両名と相対したキエルとドーフは、真獣化と呼ばれる覚醒状態となり、難なく2人を圧倒する。
しかし、トドメを刺す直前に2人には逃げられてしまい、キエルはエルドバ首都の状況把握のためその場を離れることとなった。
一方その頃、護衛団第3支部では、黒の魔女ダスクによる襲撃が行われ、何名かのエルドバ騎士がその毒牙にかかることとなる。
その場に居合わせた位階11位のチーターの獣人デュークは、仲間を人質に取られ身動きが取れなくなってしまう。
そんな時現れたのは、ダリア達をエルドバに迎え入れた位階9位の「黒豹のトルーグ」であった。
護衛団支部を急襲したダスクの前に立ったのは、エルドバを代表する騎士の一人である、黒豹のトルーグだった。
トルーグは剣を構え、デュークに耳打ちする。
「まず俺が戦い方を見せる。お前はそれを見て援護の体制を取れ」
「……分かりました!」
デュークは自分の直感よりも、経験の深いトルーグの言葉を信じた。
「行くぞ」
トルーグはダスクに向かって最短距離で動き出し、目の前にいる同胞達をものともせずに突き進む。
「おいおい、そんな事したらお前の部下はタダじゃすまねぇぜ?」
「……」
ダスクの言う通り、トルーグの周りには既に何人もの操られたエルドバ騎士達が集まっており、最早接触を避けることは不可能だった。
しかし、トルーグはダスクの思惑ごと吹き飛ばすかのように、エルドバ騎士達をその身一つではじき飛ばした。
その攻撃を受けた騎士達は、護衛団支部の壁や天井に打ち付けられ、そのまま動かなくなる。
「おい、お前正気かよ……。味方に対して躊躇なく攻撃するとは、情の欠片もねぇみたいだな!」
ダスクはそう言って笑うが、トルーグは顔色一つ変えずに、ダスクの目を見続けていた。
「強き獣人に生まれ、その身を人々の護衛に捧げると決めた者達が、この程度で屈するわけが無いだろう。騎士ならば、自分の身よりも任務を守れっ!」
その咆哮にも近いトルーグの叫びは、護衛団支部に響き渡った。トルーグに吹き飛ばされてもなお立ち上がろうとする傀儡の兵士達の動きは、その言葉を受けてガタツキ始める。
「……それが、対策かぁ?」
トルーグの圧を前にしても、ダスクは余裕の表情を崩さない。トルーグはそれに多少の違和感を感じていた。
「貴殿の能力は厄介なものだろうが、割れてしまっては手こずることもあるまい。何故それほどまでに危機に頓着が無いのだ」
トルーグの問いかけに、ダスクは答える。
「あぁ……。洗脳っていうもんをあんたら勘違いしてないか?俺が手下を量産するだけの脳しか持ってないと思ったら大間違いだぜ、そりゃ」
そう言うとダスクは両手を自身の頭に付け、黒いモヤを移動させる。それは、ダスクが自身の傀儡を作る時に用いる手法だった。
強制催眠
ダスクの手足に黒いモヤは移り、その目は血走っている。呼吸が荒くなり、汗もかいている。
「……なるほど、自分自身を洗脳するか。それで限界を引き出そうというのだな」
トルーグはあくまで冷静に対応するが、内心穏やかでは無かった。何故フォルリンクレーがここまで身を削ってエルドバに攻め込もうとするのか、理解が追いつかないのだ。
しかし、物思いにふけっている場合では無い。目の前の敵は、恐らく人体の限界を突破した存在なのだから。
「……長くはもたねぇ。さっさと終わらせるぞ」
「いつでも来い」
トルーグは剣を構え、ダスクの動きに細心の注意を払う。一挙一動も見逃さぬよう、トルーグの両目はダスクの体の節々にまで目を光らせていた。
ドンッ!
唸るような音がして、トルーグはそれが地面を蹴った音だと気がつくのに、一瞬を要した。
「おらぁっ!」
ダスクは剣を構えるトルーグの左側に位置して、横側からの攻撃を試みる。トルーグの少ない動作を目にして、彼が右利きである事を察し、左側からの攻撃には対処が遅れることを考えた上での行動だった。
ガンッ!
トルーグはやや右側に体勢を仰け反らせて、左腕の腕甲でダスクの一撃を辛うじて受け止める。しかし、獣人であることの奢りか誇りか、トルーグはダスクの攻撃力を侮っていた。
「隙作ったら死ぬぞ、お前」
ダスクは一言零すと、まずは体勢の問題で防御が出来ないと判断した左足に蹴りを、攻撃を受けるために空いた左の脇腹のスペースに殴打を、そして体の限界を引き出すことによって人間離れした動作によって、トルーグの顎を蹴りあげた。
ダスクの流れるような、そして一撃一撃に殺意のこもった攻撃を、トルーグは躱す間もなく受け続ける。
トルーグが防御しようと動いた矢先に、ダスクの攻撃がそれを読んでいるかのように命中する。まるで一方的な戦い方となっている。
「ぐっ……!」
息をつく間も与えないダスクの猛攻は、次第にトルーグを後ずさらせ、ジリジリと護衛団支部の壁の方へと追い詰めていく。
「おらおらおらぁっ!」
ダスクはそれでも攻撃をやめようとしない。目元からは限界を超えた代償なのか血が吹き出し、拳の皮はとうにめくれている。それでもダスクは動くことをやめなかった。
ドンッ!
そして決定的な攻撃が命中してしまう。トルーグの持っていた剣を叩き落とすかのように、ダスクは拳でトルーグの前腕部分を殴りつけた。
一瞬手に力が入らなくなったことに気が付いたトルーグは、すぐさま体勢を立て直そうとするが、それよりも早くダスクはトルーグの剣を蹴りあげていた。
カランカランッ……
トルーグの剣は遠くの方へと飛ばされ、お互いに拳1つの状況になる。ダスクの身体強化が一時的なものであるとはいえ、トルーグにとってはあまりにも分が悪い戦いとなることは明白だった。
「隙見せんなって言ったろ、ネコちゃん」
ダスクの渾身の一撃が、トルーグの腹部に突き刺さる。トルーグはそれに悶絶し、息を吸うために大きく口を開いた。
その時だった。
「ご苦労さん、ゆっくり寝てな」
ダスクはエルドバの騎士に使用した生物兵器、「屍人」を取りだして、トルーグの口に放り込んだ。
そして、トルーグは思わず反射的にそれを飲み込んでしまう。
「……貴様、何をっ!」
「悪いがお前はここで退場さ。生きるも死ぬも、お前次第だけどな」
ダスクの言葉を聞くや否や、トルーグは自分自身の体の制御が徐々に効かなくなっていっていることに気が付いた。
「……これ、も……貴様の能力か……!」
「うーん、半分。いや、3分の1くらいは当たりだねネコちゃん」
ダスクはデュークの方へとトルーグを蹴り飛ばし、二人の獣人に対して背中を向ける。
「実力者であろうと生物兵器には抗えないって事が分かっただけでも収穫だ。もうここに用事は無くなった。後はご勝手に」
ダスクは手をヒラヒラさせて護衛団支部を去った。デュークはそれを追おうと心では思っていたが、自分よりも位階が高いトルーグが圧倒されたという現実に目を向けられず、足が止まってしまっていた。
「……デュー、ク。私は恐らく、もう、体を自由に
、動かせない……。そうなる、前に、私をどこかに縛り付けて、くれ……!」
デュークは己の不甲斐なさとトルーグの強さに、ただ従うしか無かった。
彼はトルーグを護衛団支部の柱に厳重に巻き付け、腕や足が簡単には動かないように固定した。
「……助かる」
身を呈して自分を守ってくれたトルーグから言われたその言葉は、罵倒よりも重くデュークの心に突き刺さった。
護衛団支部での戦い
『ダスクの勝利』
作者のぜいろです!
ダスクを巡る胸糞展開が続いておりますが、まだまだこんなものじゃ終わりません。苛烈を極めるエルドバ戦線、そしてフォルリンクレーでのダリア達の動きは……?
今後も是非楽しみにお待ちください!
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