長く短い悪夢 ep.3 エルドバ戦線
遂にエルドバに侵攻を開始したフォルリンクレーの執政官「七色の魔女」達。そこで彼女達が用いたのは、仲間同士を狙って感染する生物兵器「屍人」だった。
護衛団本部に駐在していたキエルとドーフは、期せずしてフォルリンクレーの魔女、エクサとシーズと相対することになる。
キエルは目の前の光景を信じることが出来なかった。いや、それも勿論だが、フォルリンクレーの執政官であるはずの七色の魔女の一人が放った一言に、動揺を隠しきれなかったのだ。
「……何の冗談ですか、エクサ殿。我々は友好関係にあるはずだ!」
それを聞いて、青の魔女シーズが口を開く。
「……友好関係だった。クラリア様は決定された。私達は対等ではない、と。エルドバとフォルリンクレーの関係は今日生まれ変わる」
そう言ってシーズは、どこからともなく氷の柱を無数に生み出すと、尖っている方をキエル達の方に向けて打ち込んだ。
氷の柱がキエル達を襲おうと速度を上げて向かってくるが、キエルとドーフはそれを冷静に破壊した。
氷の結晶が舞い落ちる中、キエルは武器を一度鞘に収め、エクサとシーズに意思を問う。
「もう一度だけ、聞かせて頂きます。貴方達は今、この国に害をなそうとしているのですか?」
「……そう、言っている」
「肯定以外の選択肢を持ち合わせていないもの」
それを聞いてキエルは静かに目を閉じ、自身の武器を鞘から抜いた。そして開けられた目は、先程までの穏やかなキエルの目ではない、真に「獣のような」鋭いものだった。
「……そう、ですか。ならば私達も、ただでやられる訳にはいかないですね」
シーズは杖のようなものを取りだし、それを周囲に向かって一振した。その瞬間、シーズの足元の地面が白く広がっていき、氷で出来た花が咲き乱れる。そこから放たれる冷気は、キエルの方まで届くようだった。
「……それが、貴方達の言う『魔法』ですか」
「そう。私達がクラリア様から授かった力。この力で私は、あの人に恩を返す」
氷蓮華
キエルは自分の足元に一瞬届いた冷気を感じ取り、すぐに地面を離れて空中へと飛び立った。自身の体ほどもある大きな翼をはためかせて、先程まで自分が居た地点に、巨大な氷の花が咲いているのを確認する。
「……虚を突いたと思ったのですが」
「獣人を舐めてもらっては困る。我々の感覚器官は人間のそれに比べて発達しているのだから」
そしてキエルは自分の背中に背負っていた弓を取り出し、それに弓を装填してシーズの方へと構えた。
剛弓
キエルの手元から打ち出された強烈な弓の一撃は、目にも止まらぬ早さでシーズの方を目掛けて放たれた。
空気がうねり、鈍く低い音が鳴るほどの矢だったが、それはシーズの元に届く前に、どこからともなく空中に現れたエクサによって叩き落とされた。
その衝撃は地面を揺らし、空気を震わせた。
「あたしが一緒にいる限り、シーズに手は出させねぇよ」
エクサは地面に降りたってそうキエルを挑発したが、突然自分に迫る脅威を肌で感じ取った。
「うほっ」
エクサの背後に回り込んでいたドーフは、一切の躊躇無しにエクサの脇腹に右の拳を叩き込んでいた。
その威力は、大の大人が簡単に吹き飛ばされ、気がついた時には近くの気に打ち付けられるほどのものだった。
「カハっ……!」
エクサの口からは息が漏れだし、その場に倒れ込む。シーズはそんなエクサを守るために、すぐに近くに駆け寄って杖を構えた。
「フォルリンクレーが何を企んでいるのかは分からないが、エルドバに仇なすという事がどういう事なのか教えてやろう」
そう言ってキエルは上空へと向かって2本の矢を放ち、それは数瞬後に爆音と共に炸裂した。エルドバの空に、2つの狼煙が上げられる。
「エルドバ護衛騎士に急事を知らせる音だ。これをもって我々は、フォルリンクレーを完全に敵とみなし、一切の攻撃手段を解禁する」
キエルがそう言って懐から取りだした何かを口に含むと、みるみるうちにキエルの体毛は無くなっていき、やがて人間に翼が生えたような姿になる。しかし、目は鷲であったころの名残が存在していた。
「これは真獣化。これが我々の本来あるべき姿だ」
キエルは弓を再び構え、エクサごとシーズを貫こうと試みる。
「……その程度の弓が効くとでも!」
そう言ってシーズは氷の壁を目の前に作り上げ、弓を受け止める姿勢を取る。
バリィィィンッ!
しかし、その壁は一瞬にして打ち砕かれることとなった。
異常に発達した腕部を持ったドーフは、いとも簡単にシーズの企みごと砕いて見せたのだった。
「……お前が、何を守るっちゅうんや」
ドーフの口から放たれた言葉と共に、シーズとエクサを剛弓が襲った。
ドゴォォォンッ!
木々を揺らすほどの風圧と共に、シーズとエクサが居た地点には矢が突き刺さっていた。
「……逃げられたな」
ドーフは2人が居たはずの木の近くに移動するが、そこには既にシーズとエクサの姿は無かった。
「手応えが無かった。ドーフ、私はこのまま王城の付近の状況を調べて回る。本部の護衛を任せてもいいか?」
「……おう、気ぃつけてな」
ドーフに見送られて、キエルはエルドバにもたらされている被害を把握するために、より高く飛び上がった。
ーエルドバ首都中心部、護衛団第3支部ー
「……非道な人間がいるものだ」
「おいおい、お前だって仲間だったはずの奴らを切り伏せてんだろ?文句は言えねぇよな?」
「黙れ……!」
エルドバ護衛団支部を急襲したダスクは、駐在していた騎士の一人、デュークと相対していた。
「奇怪な術を使うものだ……。お前の手に触れられた瞬間、同胞達が俺を攻撃し始めるんだからな」
デュークは位階11位のチーターの獣人であり、騎士団の中では実力者の方である。しかしダスクの能力によって戦況をかき乱され、本来の実力を発揮出来ないでいた。
「ああ、そうだよ。俺がクラリア様から与えられたのは、全てを支配する『洗脳』の力。俺の手に触れた者は誰でも俺の傀儡となって忠実に行動するようになる。……で?それが分かった所でどうする?お前は俺を攻撃出来ねぇよな?」
そう言ってダスクが指を鳴らすと、エルドバの騎士達はダスクの前に無防備に立ち塞がった。
「俺がこいつらに与えてる命令は『仲間を攻撃する』、そして『俺を守る』だ。獣人、お前が俺に攻撃出来るのは、仲間を全て殺した後だ」
「……!」
ダスクの非道な能力に、デュークはその場から動けずにいた。せめてあと一人、仲間が居れば状況を打破することが出来る、とデュークは判断していた。
「さあどうする?お前が死ぬか、部下を見捨てるか、二つに一つだぜ」
そう言って歯を見せながら笑うダスクを前に、デュークは自分の無力さを痛感する。
「……諦めるな。お前は一人では無い」
その時、デュークの後ろから、頼もしい男が一人、颯爽と現れた。
「随分騒ぎを起こしてくれたようだな、フォルリンクレーの者よ。お前が諸悪の根源か?」
デュークの肩を叩いたのは、ダリア達の前に現れた最初の獣人、黒豹のトルーグだった。
「そうって言ったらお前はどうする?」
「……斬る」
トルーグは自身の剣を鞘から抜き、ダスクに向かって構えた。
作者のぜいろです!
獣の王国と魔導王朝編、楽しんでいただけていますでしょうか?
本編で黒の魔女ダスクはかなりの悪役として描かれていますが、彼女には彼女なりの信念があって行動を行なっています。その部分については今後の話で書いていく予定ですので、彼女の背景についても是非考えてみてください!
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