長く短い悪夢 ep.2 生物兵器
フォルリンクレー女王クラリア・アナーキーの誕生を祝う生誕祭の場にて、彼女は友好国エルドバとの関係の打ち切り、侵略を宣言する。
困惑する国民に対して、クラリアの腹心である黒の魔女ダスクは、反抗的な国民を一人ずつ衆人環視の下殺していくという暴挙を取った。
国民達は「七色の魔女」によって身動きを封じられ、ダスク、エクサ、シーズの3人は、予定通り獣王国エルドバへと向かおうとしていた……。
「そんな……。この国は、どうなるんだ……?」
広場に取り残されたフォルリンクレーの国民達は皆、絶望の顔を浮かべていた。逃げようと考えても、周囲は七色の魔女によって包囲されている。抵抗すれば、殺される。その現実からか、誰も足を動かすことが出来なかった。
「悪いようにはしねぇさ。ただ、お前らに騒がれると俺たちにとっても迷惑だ。だからここに留まってくれるのが助かるってわけ」
ダスクはそう言うと、黄の魔女エクサと青の魔女シーズを連れて広場を離れていく。
「後のことは任せたぜポルト、それにグリム。必要だったらあれを使っても構わねぇ」
「えぇ、分かったわ。貴方達も持っていくんでしょう?」
「当たり前だ。エルドバを絶望に叩き落とすのに、あんなに便利な道具はねえからな。ま、サクッと終わらせてくるわ」
ダスク達3人はそう言い残して、広場からエルドバへの転送装置がある場所へと向かっていった。
少し移動し、人気の無くなった転送装置の前に立つと、ダスクはエクサとシーズの顔の前に手を突き出し、再び言葉をかけた。
「いいな、手筈通りにやれ。俺達に分があるとは言え、向こうの護衛騎士共は相当な手練れが多い。そのためにグリムとシーズに協力させてあの兵器を準備したんだ。しくじるんじゃねぇぞ……」
「……はい」
「……おう」
2人の魔女は力なく答えた。そして、転送装置に足を踏み出すと、その姿を一瞬で消してしまった。それに続くようにして、ダスクも転送装置に足をかける。
「さあ、始めようぜエルドバ。俺達からのプレゼント、存分に受け取ってくれよ……!」
そう言ってダスクは転送装置に入り、姿を消した。
それは、フォルリンクレーとエルドバにとって長く短い悪夢の始まりを告げるものとなる。しかしその事実に気がついている者はほとんど居なかった。
ーエルドバ国内、転送装置前ー
エルドバでは、フォルリンクレーで起こっている騒動など気付くはずもなく、人々が平凡な暮らしを送っていた。
ブォン
そしてそこに現れる3人の魔女達。黄の魔女エクサと青の魔女シーズを前にして、奥から黒の魔女ダスクが歩いてきた。
「……!これはこれはダスク様……!本日訪国のご予定はありますでしょうか?」
転送装置の警備にあたっていた犬の獣人の騎士は、突如訪れたダスク達に驚きを隠せず、しかし仕事を全うするために尋ねた。
「あー……。説明すんのもめんどくせぇや」
そう言うとダスクはエルドバの騎士の頭を鷲掴みにし、腕から黒いモヤのようなものを出していく。その物体はやがてエルドバ騎士の頭を覆い尽くした。
初めは手足をバタつかせて抵抗していた騎士だったが、しばらくするとぐったりと力なく腕を下ろした。それを見てダスクはモヤを解き、それと同時に騎士の体は地面に叩きつけられた。
「……さあ、俺達のために働いてくれ。エルドバの騎士さんよぉ」
ダスクは胸元から植物の種のようなものを取り出し、意識を失った騎士の口の中へとそれを放り込んだ。
騎士の体は突然暴れ始め、普通なら曲がらない方向に手足が曲がっていく。ひとしきり暴れ回った後に、騎士はゆっくりと立ち上がり、ダスクの前で膝まづいた。
「研究が上手くいってるかどうか確かめなきゃなんねぇからなぁ。おい、とりあえず近くの騎士でも襲ってこいや」
「……」
騎士だったものが成れ果てた生物は、ダスクの言葉を理解したのか、ゆっくりと立ち上がって、とある方向に歩き出し始めた。
「まあ、ここまでは順調だな。あとはグリムの成果がどれだけ発揮出来るか……」
騎士だったものが歩いていく先には、別の騎士の姿があった。彼は目の前にいる元同胞を見て異変を察知したのか、すぐに剣を抜く。
「おい、お前何か様子がおかしいぞ……!何があった!」
しかし、犬の騎士は答えない。そして遠吠えを響かせたかと思うと、仲間であったはずの騎士の首元に噛み付いた。
「っ!止めろっ!」
別の騎士はすぐにそれを振りほどき、犬の騎士を投げ飛ばしたが、自分の首元を抑えて何かを感じ取る。
「なん、だ……?手足が、痺れて……」
そしてそのまま、眠りに落ちたかのようにその場に倒れ込んだ。数秒置いて彼は立ち上がり、犬の騎士と同じようにゆっくりと別の方向へと向かって歩き出す。
それを遠目から見ていたダスクは笑みを浮かべた。
「成功だな。仲間だった人間を襲い合う、死に至る感染症。グリムの最高傑作『屍人』の完成だ……!」
そしてダスクは近くに控えていた2人の魔女に指示を出す。
「俺は獣人の王を討つために待機してる。死なねぇ程度に暴れてきな」
「……分かった」
「……やってやるよ」
エクサとシーズは2人で、転送装置の元からでも見えるエルドバ王城へと向かって行った。
そしてダスクは不敵に笑い、森の中へとその姿を溶け込ませて行った。
ーエルドバ王城付近、護衛団本部ー
「夜の警戒が終わり、朝の部隊が配置につきました。依然として異常ありません」
「分かった、ありがとう」
「うほっ」
「失礼します」
エルドバの護衛団本部に常駐するキエルとドーフは、夜の警戒部隊の報告を受け終わり、気を休ませていた。
「ダリア君たちがエルドバを発ってすぐだというのに、彼らにまた会いたいと思ってしまうな」
「うほうほ」
「フォルリンクレーは今日、生誕祭だったか。あれだけの大きなイベントにちょうどタイミングよく送り出せたのは良かったかもしれないな」
キエルは書類に目を通しながら、ドーフに語りかける。ドーフはいつも通りバナナを頬張りながら、キエルの手伝いをしていた。
しかし、事態は急変する。
「キエル様!」
護衛団本部の正面の扉が大きな音をして開けられ、明らかに異常な事態が起きている事が伝わる様子で、護衛騎士の一人が入ってきた。
「どうした、何の要件だ」
キエルはあくまでも冷静に対処するが、その者の汗のかき方が尋常でないことから、すぐに脳を切り替える。
「エルドバ騎士内で同胞への攻撃をする者が現れています!現在その人数は拡大中で、護衛団本部にも迫ってきているようです!」
「同士討ちだと……?」
キエルはすぐに自分の武器を手に取り、ドーフと報告に来た騎士を連れて護衛団本部を飛び出した。
そこに広がっていた光景は悲惨なものだった。獣人同士が武器を用いて切りつけ合い、あまつさえ肉を食らっている者までいるのだから。
「なんだ、これは……!?」
キエルは目の前の事態に呆気を取られたが、自分がすべき事をすぐに判断する。
「まずは事態の鎮静を!原因が分からないが普通の様子じゃない!お前は一般人の避難を指示してきてくれ。ドーフは私と共に抑えに行くぞ!」
「うほっ」
「承知致しました!」
そう言ってキエルが騎士達の元に駆けつけようとした瞬間、目の前から急に強烈な電撃を浴びることになった。
キエルは後方に飛ばされ、ドーフにその体を支えてもらう形になる。
「……誰だ!」
電撃がはしった地面から立つ砂埃の向こうに、人影が二つ。その姿は王の護衛として働くキエルには見覚えのあるものだった。
「……エルドバを貰い受けに来た。抵抗するな、終われば全て上手くいく」
黄の魔女エクサは、冷静にそう言い放ったのだった。
作者のぜいろです!
遂に本章のメイン部分である「長く短い悪夢」が前回の話から始まったわけではありますが、皆様楽しんでいただけているでしょうか?
随分と前置きが長くなってしまった本章ですが、その分これまでに登場してきたキャラ達の戦闘シーンなどを書いて行く予定ですので、是非お楽しみに!
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