誓い 【※】
パウエを連れて奴隷市場を抜け出したダリア達は、フォルリンクレー郊外の街へと移動していた。あそこに留まっていては、問題を聞きつけた者たちがいつやって来るか分からないからだ。
「……落ち着けよ、ダリア。この子のことでキレてんのは分かるけどよ」
シンは俺と交代しながら、パウエを背中に乗せてここまでやってきた。シンは冷静さを欠いている俺を落ち着かせる。
「パウエちゃんの居た奴隷市場は、ダリアさんが壊してきたんですよね……?だったらもう大丈夫なんじゃ……」
フィスタは恐る恐るそう言うが、シンには事態の大きさが分かっていた。
「今までにフォルリンクレーに来たエルドバの奴らがあんな場所で収まるわけないだろ。子供まで攫ってんだ。多分今に始まったことじゃねぇ」
シンの言葉に、フィスタは顔を青くする。彼女は、自分が今直面している問題にようやく気がついたようだった。
「……だから、助けるんだ。パウエちゃんだけじゃない。バルダンさんも、キエルさんも、テトラさんも。平和を願ってる人達のために、俺たちはこれから戦わなくちゃいけないんだ」
前を向いているダリアの顔はシンとフィスタには見えなかったが、既に意志は固まっているように見えた。
街の中でも森が残っている木陰を見つけた俺達は、パウエちゃんを横に寝かせた。そして俺達もその横に腰を下ろす。
「今までやってきた事とはスケールのデカさが違うぞ、ダリア。エルドバとフォルリンクレー、その間に結ばれている友好をお互いに信じてる。少なくともエルドバにはフォルリンクレーに抗う気持ちがねぇ」
これだけの事態になっても、その事実はエルドバ上層部に知られていない。何故そんな事態が起きているのかを考えることも勿論重要だが、フォルリンクレーの技術力を考えれば上手く隠していると判断るのが妥当だろう。
「ザバンの時みたいに簡単にはいかないよな……。少なくとも洗脳みたいなその場しのぎの関係じゃない繋がりが2つの国にはある。あくまでエルドバと俺達の関係性を保ったままで解決しなきゃいけない事だから……」
そう、俺達が直面している問題はフォルリンクレーのトップを倒して解決するものではないのだ。
その後の2国の国交、エルドバとの信頼問題、そして何より、俺達の行動が両国にとって正義といえるものなのか……。
「……んっ」
俺達が決断を迷う中、横にして休ませていたパウエが目を覚ました。
「パウエちゃんっ!」
それに1番最初に気が付いたのはフィスタで、すぐにパウエのもとに近づいた。
「……おねぇちゃん?……ここ、どこ?」
パウエは見覚えのないフォルリンクレーの景色をキョロキョロと見渡し、自分の置かれている状況を理解しようとしているようだった。
「パウエちゃんには、黙っているべきかな……」
この子に全てを話していいのか、そればかりは俺達に簡単に決められるものではない。俺はそう思っていたが、シンの意見は真逆だった。
「……俺は話すべきだと思うぜ。歳なんて関係ねぇ、こいつだって立派なエルドバ国民の一人だ。それに、父親はどうなる」
シンの言葉で、パウエが俺達に父親の事を語ってくれたのを思い出した。フォルリンクレーに一人で働きに行っている父親をエルドバで待っていたはずの少女、最早この問題の当事者の一人であることに違いはないだろう。
「……パウエちゃん、今から俺達が話すことを、信じてくれるかい?」
俺は彼女と目線を合わせ、そう言った。パウエの純粋で、まだ何も穢れを知らない綺麗な瞳に見つめられて、俺は心が痛くなる。
「いいよ!おにいちゃんリンゴかってくれたから!」
無邪気に笑うパウエは、フィスタの手を繋いだまま、俺の話を黙って真剣に聞いていた。
エルドバとフォルリンクレーが友好国であること。しかし、エルドバの民の中には奴隷としてフォルリンクレーに連れてこられる者達が居ること。
そしてその一人がパウエであり、彼女の父親もまた同じような扱いを受けている可能性があること。
それら全ての話をし終わった後、パウエはしばらく放心しているようだった。無理もない。大人であっても受け入れ難い話であることは間違いないのだから。
「おとうさんは……?」
「きっと、この国に居る。でも、今はまだ何処に居るかまで分かってないんだ」
「……。あいたいよぉ……」
パウエは話を理解したのか、それまで流すことの無かった涙を、今までの分全て吐き出した。その間フィスタは自分の胸にパウエを抱き寄せ、頭を撫で続けた。
俺とシンは、ただその光景を黙って見つめることしか出来なかった。
「ダリアさん、シンさん……」
パウエの頭を撫でながら、フィスタは呟いた。
「子供が、こんなに小さい子が泣いてて、悲しんでるんです。まだ親離れも出来てない。この子には愛情が足りてないんです。お父さんから受けるはずだった愛情を、受けきれていないんです。それって、凄く悲しい事じゃないですか?」
そしてフィスタは優しく微笑んで言った。
「……そんな理由じゃ、ダメですかね?」
それに応えるようにして、俺とシンは立ち上がる。そして遙遠くに見える巨大な塔を見つめて志を同じにした。
「ダメな訳ないだろ」
単純な事だった。フィスタの言う通りだった。こんなに小さな子が悲しむ世界を、俺達が作っていいはずがない。存在していいはずがない。だったら……。
「魔導王朝を、滅ぼす。あるべき姿に戻すんだ。俺たちの手で」
ようやく、俺達に足りないピースが埋まったような気がしたのだった。
久方振りの投稿となってしまいました……!
筆者の勉学集中期間の訪れにより、少々小説にかける時間が少なくなってしまいました。という訳で、ここから1週間毎日投稿を行なって行きますので、その最初として今回のお話を読んでいただければと思います。
挿絵を書いていただいたのは
ペンキレビィ様【twitter】@KldlLcZ0XManE4v
です!ありがとうございます!




