そして始まる負の連鎖
フォルリンクレーにある魔女の塔最上部の部屋に集められた「七色の魔女」達。そこでは今後のフォルリンクレーの情勢を決定する「女王への謁見」という行事が行われようとしていた。
エルドバ支配を目論む「黒の魔女」ダスクと「紫の魔女」ポルト達に反抗するテトラとハクアだったが、突如として凶刃がハクアを襲ってしまう……。
テトラは、目の前で起こった出来事を理解するのに少々時間を要した。
氷の柱によって胸を貫かれたハクア、そして力なくその場に倒れた彼女の体からは、生きていた証でもある血液が床に溢れ出して行く。
「ハ、ハクア……?」
テトラは自分の足がそこにあることを確かめるかのように1歩ずつハクアに近づき、そして彼女の体を揺すった。
「おい、どうしたんだよ……!何が起こったんだ、ダスク!」
そのやり場の無い感情は当然、目の敵である黒の魔女ダスクに向けられることになる。
「……何って?そこまでやられて状況が理解出来ねぇのかよ、お前は」
ダスクがそう言うと、その後ろから3つの影が現れる。それはどれも苦楽を共にした同士であり、フォルリンクレーの繁栄と秩序の維持を誓い合った「七色の魔女」達の成れの果てだった。
「『七色の魔女』は、俺が支配した。後はテトラ、お前だけだが、何故だか俺の能力はお前に通用しねぇ。だったら簡単な話、手の届かねぇ所に連れてくまでだ」
ダスクがその言葉に合わせて首をクイッとテトラの方に振ると、虚ろな目をした3人の魔女達はテトラを捉えにかかろうとする。
「緑の魔女」グリムは懐から試験管のようなものを取りだし、テトラに向かって投げつける。テトラはそれを身のこなしで避けてみせ、試験管が大きな音を立てて割れる。
「何の真似……!」
テトラが最後まで言いかけた時、テトラの足が植物によって強固に地面に固定されてしまう。その出処を見ると、先程投げられた試験管から茎のようなものが伸びてきている。
その隙を見逃すまいと、「黄の魔女」エクサと「青の魔女」シーズは挟み撃ちをするようにテトラに双攻撃を仕掛ける。
帯電の捕縛網
氷の牢獄
二人の魔女はそれぞれにテトラを拘束するための技を行使する。
エクサの放った電気の帯はテトラの身体中を駆け巡り、痺れを与えた。シーズの能力によって作られた手枷と足枷のようなものはテトラの四肢に取り付けられ、テトラは天井を仰いだ状態で拘束されてしまった。
「……くそっ!」
テトラは力を振り絞って拘束を抜け出そうとするが、3人の魔女による完全な捕縛は、既に完成してしまっていた。
「俺達は皆平等な力を持ってるんだ……。1人で3人を相手するのは無理だって最初から分かってただろ?」
ダスクはそう言って、高笑いをして見せた。その声は女王の間に響き渡る。
「これで、俺の目的は達成される……!ここまでのお務めご苦労さん。後は俺達に任せとけ」
ダスクはそう言って女王の間を去っていってしまった。それに従うようにして、言いなりとなってしまった3人の魔女達もそれについて行き、女王の間にはクラリア、テトラ、ポルト、そして動かなくなってしまったハクアだけが残された。
「そういうことなので、これが私達の結論ですわ。クラリア様。魔導王朝の執政官として、私達はエルドバの支配を提案させて頂きます」
ダスクの意思をクラリアに伝える役目として残されたポルトは、確かにその任務を全うした。
「貴方達が決めた事ならば、誤りはないでしょう。手筈は?」
「整っておりますわ。2日後のクラリア様の生誕祭、それをもって我が国は五大帝国にも匹敵する領土と人口、技術力と軍事力を持ち合わせる巨大な王国となるのです」
ポルトはクラリアに対し満面の笑みを浮かべる。クラリアはそれに笑顔で返した。
「分かりました。実行の指揮はダスクに一任します。貴方はそれを彼女に伝えておいてください」
「承りましたわ、クラリア様」
その会話を聞かされたテトラは、拘束される中必死にもがき、かろうじて言葉を発した。
「……クラリア様、何故ダスクの話を受け入れるのですか……!私の知っている貴方は、もっと冷静な方だったはず……!」
それを聞いてクラリアは一瞬キョトンとした顔をするも、次の瞬間にはにっこりと笑ってテトラの方に近づいた。
そしてその耳元で何かを呟く。
テトラは、その言葉に絶句した。そしてそれを境に、3人の魔女から受けた拘束に抵抗する力は無くなっていた。
「ポルト、テトラを地下室に幽閉するのです。統一されていない思想はフォルリンクレーには必要ありませんから」
「はい、クラリア様」
クラリアは絶望に打ちひしがれるテトラと、骸に成り果てたハクアを残し、「女王の間」を去っていってしまった。
「……ここに居たのね、ダスク」
魔女の塔の頂上にある女王の間から一つ下の階に降りた場所には、フォルリンクレーを一望できる展望台のような場所がある。
ダスクは一人になれる空間を求めて時たまここへとやってくるのだ。
そこに現れたのがクラリアであったので、ダスクは驚いて姿勢を正した。
「クラリア様……!」
「そんなに気張らなくても良いわ。私も風に吹かれに来たの」
そう言ってクラリアはダスクの隣に立つと、同じ景色を二人で見渡した。
「ダスク、貴方は『七色の魔女』の中で最も私に近い考えを持っているわ。テトラの勇猛さ、ハクアの冷静さ、ポルトの従順さ、エクサの明るさ、シーズの一途さ、グリムの自己研鑽、どれも私が欲しくて私に無い物……」
「クラリア様なら、どうにかしちまうじゃないですか。あんなに便利な力を持ってるんですから」
「加護は与えられる物。私に元から備わっていたものでは無いわ。貴方達はそれぞれが自分の力を磨き、それぞれの個性を発揮したの。それは、少し予想外だったかしらね」
「……まあ、全員思ってますよ。クラリア様が居なかったら俺達は今頃自分に自信を持って生きるなんてこと出来なかったですからね。そういう意味では、力をくれたこと、感謝してます」
ダスクの言葉に、クラリアは少し照れくさそうに笑った。
「もうじき、真夜中を過ぎる頃ね。明日には全てが変わって見えるわ。ここからの景色も」
「だと良いですね。まあ少なくとも、俺は本気でエルドバの領土を奪いに行きますよ」
「頼もしいわ」
そう言ってクラリアはダスクの頭に手を触れる。クラリアの触れた部分が淡く光り、ダスクの中に数多の情報が流れ込んでくる。
「貴方を信頼しているわ、ダスク。私の夢を叶えて頂戴」
「……必ず」
ダスクは今にでも飛び出しそうな自分の中に溢れる力を抑え込んで、そう返した。
ー魔女の塔、地下室ー
「懐かしいわ……。小さい頃イタズラをするとよくここに閉じ込められてましたわ」
ポルトは檻の向こうのテトラに向かってそう話しかけた。しかし既に返事をする気力もないのか、テトラはそれに反応することすらしない。
「そんなに黙りこくっていても、これから訪れる未来は変えられませんのよ。少なくとも『七色の魔女』の最強と謳われた貴方を捕らえられたのは好都合でしたわ」
ポルトは限界まで檻に近づいて中に幽閉されているテトラを覗いた。
「フォルリンクレーは生まれ変わる。その瞬間に立ち会えて光栄だと思うことですわ」
その言葉を残して、ポルトは地下室から出ていった。彼女がその場に置いていった食料は、もって一日分といったほどしか無かった。
テトラは遠のきそうになる意識の中で、街中で出会った青年を思い出した。数々の国に訪れ変革を担った時代の渦中にいる、彼のことを。
「……この国を、フォルリンクレーを、そしてエルドバを救ってくれ……ダリア・ローレンス」
そこで、何とか保っていたテトラの意識は途絶えた。




