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五大英雄と殺戮の少年  作者: ぜいろ
第4章 獣の王国と魔導王朝編 ー生きとし生けるものの価値ー
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囚われの獣人

バルダンさんへの謁見を終えた後、俺達の前に現れたのは、身体中に包帯を巻かれたシンだった。その顔はやり切れないと言った表情だ。


「……」


「……次は、勝てよ」


俺の前で何も言葉を発さないシンの目を見て、俺はそれ以上の言葉をかけるのをやめた。それくらいに、シンの目からは覚悟が伝わってきたのだった。


「もう、シンさんが突っ走ったら私達にも迷惑かけるんですからね!」


そんな重い雰囲気の中であっけらかんとそういう事を言ってしまうフィスタには、少し羨ましいとさえ思ってしまう程だ。



「皆様、準備は出来ましたか?」


俺達の前に、身なりを整えたキエルさんとキャッツさんがやってきた。2人はバルダンさんによって俺達を「魔導王朝フォルリンクレー」へと連れていくように言われているらしい。


「大丈夫です。よろしくお願いし……」






俺が、言葉を発しようとした瞬間だった。突然その場を支配する程の強烈な寒気が俺達を襲った。


「……っ!」


「なんだっ!?」


「ひぃぃぃっ……!」


その状況に困惑する俺達をよそに、キエルさんとキャッツさんは冷静そのものだった。しかしその表情は、余裕といったものでは無いようにも見えた。


「まさか、このタイミングで……」


「あの、()()()……!」


キエルさんは俺達には向けることの無かった、獣のような鋭い眼光を、長い廊下の先に向けたのだった。


そして俺達が瞬きをした一瞬の隙に、とてつもない風圧だけを残して、その場から立ち去ってしまっていた。




キエルさんが居なくなって少ししてから、強烈な寒気の正体はスっと収まった。そしてキャッツさんが、静かに俺達に事情を説明してくれる。


「皆様には馬車の中で話したことですが、この国には凶悪な犯罪者として、一人の獣人が幽閉されています……。今の()()は、その者によって起こされる天災のようなものだと思って下さい」


その説明は、俺達に殺意を浴びせた者の実力を理解させるのに十分すぎるほどだった。


「護衛騎士としての実力はトップクラス。今この国に居る者の中で、彼に比肩出来る騎士は存在しません。バルダン様でさえ手に余る程の実力を持ちながら、その性格の粗暴さが目立ち、遂には皆様にも伝えた事件を起こしてしまったのです」





名前は確か、「銀狼のシルバー」。名前しか知らない、そんな相手にここまで恐怖を覚えたのは五大英雄以来だ。


「そいつの対処をしに行ったってのかよ、キエルって野郎はよ」


「そうです。現在のエルドバにおいてシルバー様を辛うじて抑えることが出来るのは、近衛騎士であるリュド様、キエル様、ドーフ様のみですので……」


シンの質問にキャッツさんは苦い顔をしながら答えた。それは、自身の実力不足を察しているかのような表情にも見えた。









「何のつもりだ、貴様」


キエルは牢の中にいるシルバーを睨みつけてそう言った。


「何って、いつもやってる事じゃねえか。今更何腹立ててんだよ、お前」


シルバーはその四肢を強固な鎖で繋がれながらも、余裕の笑みを浮かべる。口から覗かせる鋭い牙が、キラリと光って見える。


「今はこの国にとって重要な客人を迎えているのだ。貴様に構っている余裕は無い……!」


「客人……?」


そう言ってシルバーは、声を上げて笑った。その声は地下室に響き渡り、鈍く反響していく。


「ハッハッハッ!……やっと来たか」


そう言ってシルバーはキエルを見据える。


「いいぜ。今はお前に従ってやる、キエル。……()()、会おうぜ」


「つまらない冗談だな」


キエルはそう吐き捨てて、シルバーを睨みつけた。どうも思い通りになる気配の無いシルバーを相手に、キエルはうんざりという様子だった。






「客人ねぇ……」


キエルの居なくなった牢獄に一人取り残されたシルバーは、不敵な笑みを浮かべるのだった。全身の毛が逆立つほどの衝動に駆られながらも、今はグッとそれを押し殺す。









「お待たせしてしまい申し訳ありません」


少しだけ息を荒らげたキエルさんは、俺達の待っていた王城の前まで戻ってきた。


「大変ですね、近衛騎士も……」


ダリアは自分の身近に同じ様な人間が居るのをそっと心の胸の内にしまって、キエルさんに同情の表情を見せた。


「全く困ったものです……。ただでさえ王の勅命で日々を追われる中で、あいつに構ってる時間などそんなにありませんから」


キエルさんの話しぶりから、昔は仲が良かったのかと思うほど、心を許しているように思えた。そうでなければ、怒りよりも呆れの方が先に出てくることは無いだろう。


「フォルリンクレーまではここから少しかかりますが、本日中には着くことが出来るでしょう」


「そんなに近いのかよ」


「いえ、地理的な距離では歩けば3日程かかるでしょう」


「馬車でも使うってか」


「いいえ」


シンとキャッツさんはそんなやり取りをする。歩きでも馬車でもないとすれば、恐らくフォルリンクレーの技術によるものだろうか。




キエルさんとキャッツさんに連れられた先には、都市を囲うようにしてそびえる巨大な門と、壁が見えてきた。


「この先です」


キャッツさんが指を指した方向には、見たことも無い巨大な装置が鎮座していた。余りに多くの金属部品、そこら中に散らばる眩い光の球体のようなもの。言葉では説明しきれないほどの神秘さと不思議さを秘めていた。


「フォルリンクレーの技術によって造られた、転送装置(テレポートマシン)です。私達護衛騎士が身につけているフォルリンクレーの襟章を媒介として、装置が作動する仕組みになっています」


キエルさんはそう言って説明してくれたが、恐らく細かい技術についてまでは知らされていないのだろう。


しかし襟章1つで遠くの地へと行き来出来る装置とは、とんでもない技術があったものだ。


「どんな国なんだよ、これを設置できるってのは……」


「凄いですね……!」


シンとフィスタも、目の前の光景に驚きを隠せないようだった。確かに、五大帝国に数えられるサドムでもここまでの装置は見た記憶が無い。


「フォルリンクレーの技術力はそれほど、という事です。転送装置で驚くならば、向こうにはもっと最先端の技術が集まっています。きっと様々な発見があることでしょう」


そう言ってキエルさんは転送装置へと足を踏み入れた。その瞬間に、転送装置が青色の眩い光を発して異空間への扉を開いた。


「行きましょう、フォルリンクレーへ」


そう言って、キエルさんは俺の手を取ったのだった。

ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!作者のぜいろです。


今回のあとがきでは、3人目の古代悪魔、『戦争』を司る悪魔シビルモア・ド・オーネッツについて説明していきたいと思います!


シビルモアはラグドゥル、ハローらと同じ時代に生きた男で、数多の戦争に参加してそれを終結させてまわった英雄とされています。


しかしもちろん、彼と敵対することになる者達にとっては彼の姿はまるで「悪魔」のように見えたことでしょう。戦いの中でしか生きることが出来ないその男は、戦争における神として崇められる一方、悪魔の名前も冠するようになりました。


彼が奪った命は数知れず、それによって生まれた被害の数も尋常ではありません。彼はあくまでも「強さ」を求めて、自身の正義に従って行動していたのみですので、ラグドゥルに近い古代悪魔とも言えるのです。




次回のあとがきでは、最後の古代悪魔について説明をしていきたいと思います!


それでは、感想、評価、いいね、ブックマーク等良ければよろしくお願いします!

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