獣の王
世界の最高決定機関、「十帝会議」が今正に始まろうという時、ダリア達はエルドバの王である虎の獣人バルダンに出会い、エルドバ王城まで案内される手筈となっていた。
「皆様、今回は我々が迷惑をかけてしまい申し訳ありません」
シンとリュドさんの戦いを見ていた群衆達は3人の近衛騎士たちによって散り散りとなり、その場にはリュドさん、キエルさん、ドーフさんだけが残っていた。
「バルダン様が居なければ、どちらかが倒れるまで続いてしまっていたことでしょう。深くお詫びをします」
キエルさんはそう丁寧に謝り、頭を下げた。
「いや、うちのシンが突っかからなければこんなことにはなってません……。すみませんでした」
俺もそれに合わせるようにして頭を下げる。今回の件は何もキエルさん達だけに責任がある訳では無いのは俺が一番わかっている。
「まあ皆様にとっては幸か不幸かバルダン様へ謁見する運びとなりましたので、王城の方へと案内しましょう」
キエルさんは、気になる事を呟いた。
「不幸って、なんでですか?」
フィスタもその事は気になっていたのか、キエルさん達にそのことを尋ねた。
「エルドバ国王、バルダン様はかつて外の世界でその首に懸賞金がかけられていたほどの御方ですので。今現在はエルドバとして世界連邦にも所属し安定が訪れていますが、バルダン様の名前を聞いて震える国は多いということです」
目の前でシンとリュドさんの間に入ってその攻撃を受け止めた虎の獣人バルダンさん。その圧は、サドムで出会った西方聖騎士団のボルザークさんにも並ぶ雰囲気だった。キエルさんが言っている事もあながち間違いでは無いのだろう。
「現在バルダン様は一線を退かれ、国王としての職務を全うしてらっしゃいます。前線に立つことはありませんが、私達では歯が立たないのは間違いありませんね」
キエルさんの苦笑いにも近い表情が、その強さを物語っているようだった。
「さあ行きましょう。王城はすぐ近くですので」
そう言ってキエルさん達は護衛団本部の方へと歩き始める。重々しい扉を開き中を通っていくと、そこには一見森しか無いように見える広大な庭のようなものがあった。
「……えっと、ここは?」
「もう、着いていますよ」
そう言ってキエルさんが何も無い空間に手を触れたかと思うと、俺達の目の前には巨大な城が突如として現れることになる。
「えっ……!?」
「驚くのも無理はありませんね。エルドバ王城は普段はその姿を隠すために結界の中に入っています。専用の鍵を持った者が近くに居ないと、認識することすら出来ない場所なのです」
キエルさんは悠々と王城の入口へと向かう階段を登っていく。俺の予想はやはり間違っていなかった。エルドバの技術力は五大帝国のサドムを遥かに凌ぐとも言えるものなのだと……。
豪華な見た目に反して、エルドバ王城の内部はシンプルな造りをしていた。これも、友好国であるフォルリンクレーの技術力が表面的には作用している結果だろうか。
「外見とは随分違うでしょう」
そんな俺の心を読んだかのように、キエルさんはそう聞いた。
「そうですね……。外見を隠す技術に対しては、というのが素直な感想です」
「はははっ。貴方はやはり正直だ」
そう言って含んだ言い方をするキエルさんは、エルドバとフォルリンクレーの関係性を俺達に教えてくれた。
「中の者から聞いたかもしれませんが、我々とフォルリンクレーは友好国。つまり協力関係にあります。我々が彼の国の技術力や財源などの面で援助を受ける代わりに、エルドバ国内での領土の確保と人材派遣をすることで契約がなされています。エルドバ王城を隠す技術は提供されましたが、中についてはそのままのエルドバの姿だと思ってください」
そう言うキエルさんの目は少し悲しげだった。俺はそこに少し引っ掛かりを覚える。
「まあ、気にしないでください。この関係も長年続いてきた事ですから」
キエルさんはそう言って俺達のことを少し遠ざけているようだった。確かに俺達はエルドバに長く滞在するつもりは無いが、この国はどこか似ている。
「この先にバルダン様がいらっしゃいます。くれぐれも無礼の無いようにお願いします。中に入ったあとは、私の真似をしてください」
そう言ってキエルさんは奥に少し入ったところにある大きな扉の前で俺達に言った。
扉の横に立っている騎士にキエルが目配せをして、二人の騎士はゆっくりと重そうな扉を開ける。低い音を立てて扉は開き、やがてその姿が現れる。
「御二方をお連れしました」
「……うむ」
獣の王は、そこに座っていた。溢れんばかりの威厳と圧を前に、俺の背筋は意識とは別に正される。
キエルさんは数歩前に進み、バルダンさんの前で左の膝をつき、右の拳を握って自身の目線の前に置いた。
俺とフィスタは同じような姿勢を取り、キエルとバルダンさんの会話を待った。
「君達が、水帝様の言う者達か」
バルダンさんは、なんの前触れもなくそう言った。その発言に驚きはしたが、キエルさんが何も言わないのを見て、俺の言葉が待たれていることを理解した。
「恐らく、それで合っています。俺はダリア・ローレンス。彼女はフィスタ・アンドレアと言います」
その言葉にバルダンさんは反応を見せた。
「……ダリア?君があの、ダリアか」
そう言ってバルダンさんは立ち上がり、俺の前へと歩いてくる。その圧に俺は動くことも出来ず、ただ黙ってその場に居ることしか出来なかった。
「水帝様が仰っていたのは、君のことか」
そう言ってバルダンさんは、何故かその場に膝をついた。突然の出来事に、その場に居る人間は全員騒然となる。
「長らく、お待ち申し上げておりました、ラグドゥル様。貴方の帰りを、エルドバ国王としてこれ程待望していた時は無い」
バルダンさんは、何故かその名前を知っていた。いや、元々俺の中に眠るラグドゥルが支配していたという領域なんだ。知っていてもおかしくはない。でも、なぜバルダンさんが頭を下げるのだろうか……。
俺達は、まだエルドバという国について十分に知らなかったのかもしれない。この国が辿ってきた歴史も、過去の因縁も。
ー魔導王朝フォルリンクレー、魔女の塔ー
「いつになったらお前らは首を縦に振るんだよ、テトラ、ハクア」
一人の黒髪の女がそう呟いて、目の前にあった禍々しい飲み物を一気に飲み干した。
「……その話だけは納得出来ないな。私達には少なくとも住む場所を貰った恩がある。何故エルドバを滅ぼす必要があると言うんだ」
赤髪の女はそう言って机を拳で叩く。その圧で周りにいる女達は口を詰まらせてしまう。
「なんでなんでってガキじゃねえんだからよぉ……。今のエルドバがあるのはクラリア様のおかげだろうが。その土地をどうこうして何が悪いんだよ!貰っちまう時が来ただけさ」
そう言って黒髪の女は片足を机の上に乗せ、赤髪の女を挑発する。赤髪の女の睨みにもひるまず、飄々としているのだ。
「結論は、出させない。この話はクラリア様から私に一任されているのだ。勝手な真似はさせない」
赤髪の女は立ち上がり、黒髪の女の服を掴んだ。
「文句があるなら実力で示せ。私達の関係はそういうものだろう?」
「へぇ……。分かりやすくて助かるぜ、テトラ」
黒髪の女は不敵に笑った。
皆様こんにちは、こんばんは!作者のぜいろです。
今回もあとがき、やっていきますよー!
今回のあとがきでは、この世界に置ける支配構造と言いますか、権力者達の流れについて書いていきたいと思います!なんと書くのが良いのか分からなかったのでこれで行きます……。
まずはタイトルにもなっている五大英雄ですね。これは、今の世界の礎を築いた五人の英雄のことを指していて、今も尚その子孫達が絶大な権力と実力を兼ね備えている、この世界の支配者とも言うべき人物達です。
それぞれの五大英雄の子孫達は、そのまま「十帝」として世襲式にその座に着く訳ですが、彼らが冠している名前は初代の五大英雄の能力によって付けられています。ですが、子孫達は概ね同じような能力を受け継いでいるので、そんなに影響は現れていないです。
次に世界連邦ですね。連邦長のセイバさんは何度か本編に登場していますが、世界連邦としての保有している力として「聖騎士団」が挙げられるでしょう。聖騎士団は世界連邦直轄の組織として五大帝国を中心に各地に派遣されています。サドムに西方聖騎士団本部があったことを思い出して頂けると分かりやすいかと思います。
ちなみに、名前だけの登場となっていますが、「帝下七剣」と呼ばれる精鋭達の存在も確認されているようです。これは以前出てきた「執行人」とは別の存在です。帝下七剣は聖騎士達の中から選ばれた精鋭、執行人は表の顔を別で持っている(アンバーセンが考古学者だったように)と考えていただければと思います。
とりあえず今回はこのくらいですかね……
まだまだこの世界の構造については語れていない部分がありますので、それはまた次回書いて行ければと思います!
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