命中特化
「あれは……。剣を横から折った……!?」
俺の隣でリュドさんとシンの戦いを見ているキエルさんは、額から汗を流してそう言った。
あまりの一瞬の出来事に、周囲の人々もまた、ざわついていた。シンを狙い定めて振り下ろされたリュドさんの剣は、シンの拳によって根元から折られてしまったのだ。
「シン……!」
俺の胸の中で、鼓動が高鳴るようだった。精霊の神殿での経験を経て、シンはさらに強くなったのだと、そう実感した。
「命中特化とでも名付けようか。今なら見えるぜ、お前の弱点がな」
シンの目は、リュドの体から僅かな星を辿っていた。そこは気の流れ。全ての攻撃、防御に通じる起点とも言うべき部分を、シンは極限の集中状態によってその目で感じ取っていた。
「剣を折った程度で、勝った気になるんじゃない!」
リュドはシンから距離を取り、四つん這いのように姿勢を低くした。それはまるで、突進するかのような体勢になる。
「『堅角』の名前を、侮らないことだ」
その瞬間、リュドの姿は衆人環視の中忽然とその場を離れた。刹那、10メートルはあろうかというシンとの距離を、リュドは一瞬にして詰めていた。
だがしかし、シンには見えていた。
ゴオオオンッ!
三度の爆風の中、シンはリュドの猛突をかわし、代わりにその頭上から拳を振り下ろしていた。そのままリュドは地面にその頭部をめり込ませることになる。
「ちっとは聞いたか、牛野郎」
「……」
リュドは、あくまでも沈黙をもって応える。そして、シンを薙ぎ払うかのように、その頭を思い切り上へと振り上げた。
拳を乗せていたシンはその場から弾き飛ばされ、距離をとる形になる。
「……侮っていたのは、私のようだな」
リュドはそう言って両手の拳を付き合わせる。その瞬間、ただならぬ殺気がリュドの体をおおっていくのをシンはその肌で感じ取っていた。
「人間にも、強き者は居るらしい」
「俺なんかより強い奴なんか幾らでも居るって言ってるだろうが!」
両雄は、互いに動き出していた。自身の体が傷つくことも厭わず、その身を削って拳のみで応戦する両者の争いは、最早周囲の者達に畏怖すら与えていた。
そこから5分ほど経った時、二人は同時に手を止める。既に全身には血が垂れ、息が上がっている両者だが、その目は好敵手を見つけたかのようなそんな雰囲気に溢れていた。
「はぁっ……、はぁっ……。次で、最後だ……!」
「全力で受けて立とう……!」
命中特化20%
武器特化40%
攻撃特化40%
雄突猛然
その二人の動きを、取り巻きの者達は固唾を飲んで見守る。エルドバの国民たちですら、最早リュドの勝利のみを確信しているわけではなかった。
「おらあああああっ!」
「うおおおおおっ!」
二人の体が衝突する刹那、二人の間に割って入る影が一つ、ダリア達の横をとおりすぎて行った。
ドオオオオンッ!
その場にいる誰もが、目の前の光景に目を疑った。二人の衝突によって巻き上がる砂埃の中に、人影が三つ。そして中央の影は、二人の間に立ち、両手でそれぞれの攻撃を受け止めていた。
「これは一体何の騒ぎだ、リュド」
「……バルダン様っ!」
その人物の正体に気がついたのか、リュドはすぐにその場に片膝をつき、頭を下げる。ダリア達の近くに居たキエルとドーフも、いつの間にかその隣に同じようにして頭を下げていた。
「……話なら後から聞こう。まずは彼の治療と衆人の解散を」
「はっ!」
その人物は、誰よりも荘厳な衣装を身にまとい、溢れ出る厳格さを俺達に伝えていた。虎の姿をしたその人物は、王国の護衛騎士の中でもエリートの3人が即座に膝を着いたことから、その正体を容易に想像することが出来た。
彼の人物は3人に命令を済ませた後、俺とフィスタの方を振り向く。
「話なら聞いている、ダリア・ローレンス。私で良ければ力になろう」
その人は、獣王。数多の獣人を従える、この国エルドバの王だった。
「……はいっ!」
俺は今まで接したことの無い異様な圧に押されていた。強大な圧というだけならば、ハピナスさんやセイバさんも圧倒的だったが、この人の圧は何かが違う。
まるで死線を幾つも乗り越えてきたかのような、そんな重みのある雰囲気だった。
「キエル、ここへ」
「なんなりと」
「彼らを城へ。真っ直ぐ通せ」
「承知致しました」
キエルさんにそれだけ言い残し、バルダンと呼ばれた獣王国の王はゆっくりとその場を離れていった。従者のような者達が何人もそれに着いていく。
「参りましょう。バルダン様が客人を招くなどそうそうあることでは無いですから」
そう言って俺達は、獣王国のトップの元へと謁見することになったのだ。
ー炎の帝国、アルカラ王都ー
この世界には強者が存在する。かつてそれぞれに巨大な帝国を築き上げた五人の偉大なる英雄達、「五大英雄」の子孫と、世界で名を馳せる五人の英傑達。それらを纏めて、人々はこう呼ぶ。
曰く、「十帝」と。
「俺が連邦長のタイミングで回ってくるとは……。つくづく不運を実感するや……」
セイバは手元のマイカップにコーヒーを注いでもらいながら、そう呟いた。
「ここ最近はバタバタしてましたからね」
秘書のリッパーは慣れた手つきでコーヒーを注ぎ終わると、自分の分のカップにもそれを入れ始める。
「ザバンの革命の件で後始末に追われ、大罪を犯したの生存確認、そして水帝様がそれを自分の名前で守ったんだからなぁ……」
「バルバリアからの脱獄の件についてもお忘れなきよう。ダリア・ローレンスは今のところ同じような罪を起こしてはいませんが、少なくとももう1人の方は穏やかな報告は受けてませんよ」
リッパーは厳しい目つきでセイバの方を見る。コーヒーを飲んで気を落ち着けようとしているが、セイバの額には汗が垂れていた。
「快楽殺人犯の烙印を押された少年、『ユダ・ノートン』か……。炎帝様のお力添えでようやく拿捕できたと思ったが、まさか脱獄されるとは」
「世界各国で被害報告が相次いでいます。殺された人間の特徴から、まず彼の仕業とみて間違いないかと」
リッパーは自分専用の棚から高級そうなクッキーを取り出し、それを口に運ぶ。咀嚼を繰り返し、コーヒーでそれを流し込んでいく。
「その件に関しては帝下七剣がもう動いてる。それよりもまずは、目下の十帝会議を乗り切らないとな……」
その時、連邦長室へとノックがなされる。リッパーは部屋の外で出ていき、しばらくして戻ってきた。
「セイバ連邦長、炎帝様がお着きです。1時間もすれば、他の方々も集まられることでしょう」
その声に応じて、セイバは立ち上がる。
「めちゃくちゃ気は進まないが、やるしかないよな」
セイバは気を落ち着かせるために服用薬を飲み、コーヒーで流し込んだ。
皆様こんにちは、こんばんは。作者のぜいろです!今回も引き続き、あとがきでキャラについての詳細な説明の方を行って行きたいと思います!
今回もピックアップするのは、霧の王国ミスティアの「龍の巫女」であり、ダリアの仲間でもあるフィスタ・アンドレアです!
フィスタの家系であるアンドレア家は、本編でも書いた通り元々ミスティアに住む人々ではありませんでした。つまりアンドレア家には元々暮らしていた故郷としての国があるわけですね。
アンドレア家はかつてそこで罪を犯し、ミスティアへと逃げ着いた結果、霧龍アルケミオンにその身を保護されたという過去があります。
アンドレア家が龍の巫女として使えている理由はここにあると本編でも語らせて頂きました!
ここからは少し裏話になります。
フィスタについては、物語の根幹に関わる重要設定が2つ隠されています。
一つは現段階ではほとんど分からないようになっていますが、軽く伏線を張っておいたので、探したい人はミスティア編をもう一度ご覧下さい!
もう一つは、物語を読んでいる上で違和感を感じた方も居るかもしれないので、ここでは全ては書きませんが、フィスタの服装に関して物語を見てみると、分かることがあるかもしれません……!
さてさて、物語の少し奥深くまで書いたところで、フィスタの加護について軽く説明してあとがきを終わりたいと思います!
というのも、フィスタの加護については本編でほとんど出てきていないので、説明する部分が少ないんですよね……。
フィスタの加護は「水操の加護」で、その力は先天的な……。
おっと誰かが来たようですね。ここら辺で彼女の紹介は終わりたいと思います(ニヤリ)。
次回から少しだけ、獣の王国と魔導王朝編と同時進行で起こっている「十帝会議」について書きたいと思います!
遂に明らかになる現代の五大英雄達、そしてそれに並ぶ英傑達の姿を是非楽しみにしていてください!
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