あいつの隣に立つために
パウエちゃんと別れた俺達は、キャッツさんに貰った魔導具が指し示す方向へと3人で向かっていた。
「にしても、本当に魔導具ってのは国中にあるもんだな」
そう言ってシンは周囲の人を見渡す。その言葉通り、自然に包まれているエルドバには似つかわしくない金属製の道具を、道行く人はほとんど身につけていた。
商人のような人もそれを使って会計の計算をしていたり、井戸のようなところに金属具をかざして自動で水が出てきたりしている。
「キャッツさんが魔導具のおかげで繁栄したって言ってたのは本当のことってことだろうね。サドムよりも便利なんじゃないかな」
「ミスティアにもこれがあったら便利だったんですけどね……」
そんな話をしながら魔導具を覗き込んでいると、俺達はいつの間にか巨大な建物の前へと導かれていたようだった。
サドムで見た西方聖騎士団本部にも見劣りしないその建物には、キャッツさんが見せてくれたエルドバの国旗が大々的に掲げられており、国を象徴する建物なのだと分かる。
その建物の前には、見覚えのある人物が立っていた。
「無事に入国できたようだな、客人の者達。ようこそここへ参った」
そこに立っていたのは、森で俺達の援護をしてくれた黒豹のトルーグさんだった。
「トルーグさん!」
「昨夜の盗賊は既に警備の者に引き渡した。ただ、ここ最近頻発している魔導具を持った盗賊達の件で、すまないがここで協力してもらう」
「それくらいなら別に構わねえけどよ」
そう言ってシンは目をギラつかせる。
「ここにも強いやつはいるんだろ?さっきから気配が溢れ出てるぜ」
シンの見る先は、護衛団の本部にしかないようだった。大事にならないことを祈るばかりだ。
「戦いたいと言うなら私も止めないが、少なくとも中に居る方々は私よりも強いぞ?」
そう言ってトルーグさんは殺気立つシンに余裕の笑みをかましてみせる。
「言うじゃねか……!さっさと中に入ろうぜ、ダリア」
「ちょ、ちょっと待てよシン!」
「シンさんっ!」
一人で勝手に本部へと乗り込もうとするシンを止めるように、俺達は中へと足を踏み入れた。
ドンッ
その瞬間、俺は先に入っていったシンの背中に正面からぶつかってしまう。
「いてっ!」
急に足を止めたシンの方を向くと、そこには既に体から強者のオーラが溢れている3人の獣人が立っていた。
「……なるほど、こいつは強え」
シンの額には冷や汗が走り、相手の強さを理解したように唾を飲み込んでいる。
「貴公らがトルーグの言っていた客人か」
「随分と威勢が良いようですね」
「うほっ」
そこに立っていたのは、バッファロー、ワシ、ゴリラの獣人の3人だった。その誰もがシンより遥かに高い上背と屈強な体格をしていた。
「ここでは話に差し支えるでしょう。奥へ案内します」
そう言ってワシの姿をした獣人の騎士は俺達を案内しようとする。しかし、その言葉を遮るようにしてシンは声をあげていた。
「手合わせしてくれよ……!俺の実力がどこまで通じるのか試してみてぇ」
そう言うシンの目は、もう俺達にも止められないような気配を纏っていた。
シンのその言葉に、3人の騎士は歩みをとめた。その瞬間全身に駆け巡った衝撃は、今まで会ってきた多くの強者とは別の恐怖だった。
「あいにく、無礼な人間に対して振るう剣は持ち合わせていないのだ」
「勇気と虚勢は違いますよ、若い人」
「うほ」
3人の目は、最早獣そのものだった。獲物を狩るかのように冷徹で遠くを見るその目は、俺達をその場から動けなくするには十分すぎた。
「ビビってんのかよ、人間に負けることを」
それでもシンは止まらない。むしろ先程までよりも戦闘に対して前向きになってしまったかのようだ。
「貴公のようなタイプには話をしても通じないだろうな。いいだろう、外へ出ろ。私が直々に相手をしてやる」
そう言ってバッファローの獣人の騎士は扉を開け放ち、シンに外に出るように首で促した。
「シン……」
俺に対してシンは肩に手を置き、言った。
「すまねぇな、ダリア。ただ、これは俺だけの問題だ。少なくとも俺はお前の隣に立つために、もっと強い奴と戦わなきゃいけないんだよ」
シンのその目は、気持ちが暴走しただけには見えなかった。本気で、全力で目の前の強大な相手に立ち向かおうとしていた目だった。
ーサドム、精霊の神殿ー
「シンさん、大丈夫ですか!?」
駆け寄るフィスタを静止し、シンは立ち上がる。そしてラグドゥルに殴られたみぞおちの部分を手で抑える。
「……仲間とは言ってたが、容赦ねえな」
「なんであんな無茶するんですか!ベルさんやゼルさんでも結局適わなかったんですよ!」
フィスタはそう言ってシンの頬を叩く。しかしシンは、それに対して言葉を発することは無かった。
「……次は、殺されちゃうかもしれないんですよ?」
フィスタの目は涙ぐみ、シンを見つめていた。
「あの状態のあいつは、確かに強えよ。でもな、あいつの心は誰より弱い。自分のした事を、今でも責任感じて苦しんでんだ。これ以上あいつに、いやあいつの中に居るやつにも、ダリア自身を傷つけさせないために、俺が強くなるんだよ……」
そう言ってシンは立ち上がる。
「隣に立つ奴が、いつでも自分を止めてくれるって分かったら、あいつも安心できんだろ」
シンは、サドムの精霊の神殿での一件の後、心に決めていたことがある。
もうダリアを、1人で歩かせない。
もう、1人で苦しませない。
辛い時、苦しい時、泣きそうな時に側に居て、いつでも救ってあげられるような、そんな存在になるために……。
「……俺さ、なんのためにあいつと一緒にいるんだろうって考えてたんだ」
そう言ってシンはフィスタの方を向き直る。
「俺は、あいつの苦しみが理解出来る人間になりてえ。それで居て、あいつの進む道を隣で歩きてえ。あいつは世間で言われてるような罪人じゃないってことを、俺も一緒に証明するんだよ」
その時、シンは心に誓った。
どれだけ強大な敵、心を打ち砕かされそうな相手に出会っても、自分は1歩も引かないと。
仲間の隣を、歩く。そう決めたのだ。
「死んでも恨むなよ、客人」
「上等だ、やってみろや獣野郎」
シンは目の前の相手に対して、過去の自分を精算することを決めた。
皆様こんにちは、こんばんは!作者のぜいろです!
今回のあとがきはズバリ、シンの加護である「特化の加護」大説明会を行いたいと思います!
本編でもちょうど、シンが何やら一触即発の雰囲気ですが、ここで改めてシンの加護について皆様に知っていただきたいと思い、あとがきの場を借りて説明をさせていただきます!
シンの加護、「特化の加護」は、簡単に言うと「自身の能力を向上させるもの」と解釈していただければと思います。ここで言う能力、というのは身体能力はもちろんのこと、シンが扱うことの出来る能力、つまり剣能などにもこれが当てはまるんですね!
現在のところ本編で出てきているシンの特化は以下の通りです!
・速度特化(青)
・攻撃特化(赤)
・防御特化(黄)
・武器特化(紫)
シンはこれらの様々な能力を、合計が100%になるようにして調節して向上させることができます!そのタイミングでなんの能力を向上させているかは、シンのその時の目の色に現れます!
作者としても、この目の色に関しては度々描写として書かせていただいているので、理解されている方ももしかしたらいらっしゃるかもしれませんね!
さて、シンはダリア達と共に精霊の神殿に向かった訳ですが、当然加護の力はレベルアップしております!成長したシンの加護についてはこれからの話で書いていこうと思いますので、ぜひ楽しみにしていてください!
次回からはもう1人の仲間であるフィスタに関する裏設定等をあとがきにしていきたいと思います!
では、ぜひブクマ、いいね、感想、評価等、作者の執筆の励みになりますのでお待ちしております!
作者のぜいろでした!




