白猫のキャッツ
夜に佇む獣の戦士は、逆立てた毛を下ろし俺達に向き直った。
「夜間にエルドバへの道を通るのはあまり推奨しないな。ここ最近は盗賊の輩が増えてきて、この道も安全とは言いがたくなっている」
そう言ってトルーグと名乗った騎士は手馴れた様子で盗賊達を捕縛していった。
「こちら側から来たということは、サドムからの客人ということで間違いないか?」
トルーグはそう言って剣を鞘に収める。明らかに襲われていた俺たちとはいえ、緊張をとく訳には行かないのだろう。
「そうです。エルドバで少し、調べ物をしたいと思いまして……」
俺は古代悪魔の内容は伏せて、端的にそう答えた。古代悪魔の支配の歴史が、エルドバにとってどのような感情を持たれているか分からない以上、下手にその名前を出すことは出来ない。
「そうか。ならばこの先の案内は我らが務めよう」
トルーグさんがそう言ったと思うと、森の中から数名の人影が俺たちの前に颯爽と現れた。皆フードを被っていたが、盗賊団のようなボロボロの身なりではなく、統一された、格式を感じる衣装だった。
「私は先に戻り、報告を行う。後のことは頼んだぞ」
「承知しました」
フードを被った人影はそう言うと、全員フードを脱ぎその姿を顕にした。
その誰もが動物の体つきのまま人間のように二足歩行になったような姿をしており、猫やフクロウなど、陸上の動物だけにとらわれない容姿だった。
「私はキャッツ、こちらの者はオウロと申します。ここからのエルドバまでの護衛、トルーグ様の命によって承りました」
そう言って2人は急に膝をついたかと思うと、トーグルさんともう一人の獣騎士は、10人ほどの盗賊達をいとも簡単に担いで夜の闇に消えていった。
「あれが、獣人……」
俺の声に、キャッツと名乗った獣人は反応する。
「私達は気にしませんが、エルドバ国内でその発言は命取りになります。以降はお気をつけ下さい」
その目は、今にも俺を殺しそうな勢いを孕んだ静かなものだった。
「その話は馬車の中で。エルドバへと向かいましょう。外の警戒は頼んだぞ、オウロ」
「はい」
オウロと呼ばれたフクロウの姿をした騎士は、背中から大きな翼をはためかせ、上空へと飛び去って行った。
キャッツさんと俺達は馬車に乗り込み、馬車は先程までのように進み始めた。
「あの、キャッツさん……」
沈黙が馬車の中を支配する中、フィスタが口を開いた。
「さっき仰ってた、獣人ってエルドバでどういう認識なんでしょう」
フィスタの声は震えており、恐る恐る聞いたことが分かる。
「貴方達は、この付近の出身では無いとお見受けしますね」
「はい」
「古くよりこの地に根付く、『獣人差別』。獣人は人間でないとされ、虐げられ迫害されてきた歴史があります。奴隷になった先祖たちや無惨な殺され方をした親族は、数えることも出来ません」
その言葉に、俺達3人は黙ってしまう。たしかに、俺は少なくとも見た目が動物に近いというだけで偏見を持っていたかもしれないと、図星だったからだ。
「今はもう、解決した問題です。現エルドバ国王や、友好国の助力もあり、私達獣王国エルドバは既に世界連邦の加盟国として平等に認められています。ただ、歴史は簡単に精算できるものではない、ということだけ覚えておいて頂けると幸いです」
そう言ってキャッツさんは頭を下げた。俺たちのまだ知らない歴史の中に、きっと深い傷や因縁があるのだろう。それらを全て押し殺して頭を下げた相手に、俺達が礼儀を欠く訳にはいかない。
「あの、キャッツさん。もう一つだけいいですか……?」
「なんでしょう」
「もふもふさせてもらってもいいですか?」
その言葉を聞いて、キャッツさんの翡翠色の美しい目は、キョトンとなっていた。
「いや、勿論エルドバの事は私なりに理解したつもりです!ただ、私の中のもふもふ欲求が抑えられなくて……」
そう真剣に語るフィスタの言葉に、キャッツさんは声を上げて笑った。
「はははっ!本能ですか。私の前でそれを言われては、かないませんな」
そう言ってキャッツさんは自身の白く長い、シルクのような尻尾をフィスタの方に差し出した。
「エルドバに着くまでの間で良ければ、触っていただいても構いませんよ」
「ありがとうございますっ!」
そう言うや否や、フィスタは数十分に渡ってキャッツさんの尻尾を撫で回していた。
「俺も聞きたいことがあるな」
シンは尻尾に夢中のフィスタを横目に、キャッツさんに尋ねる。
「エルドバってのは随分と上下関係が厳しいみたいだが、それも本能って奴か?」
その質問に、キャッツさんは笑う。
「それは一部否定できませんが、少なくとも私がトルーグ様に従っているのは、本能故ではありませんよ」
そう言うとキャッツさんは、身に羽織っている服の襟元をシンに見せるようにしてくれた。
「エルドバは厳格な位階性が敷かれています。と言っても騎士の間だけですが。今夜サドム方面の護衛の長にあたられていたのが、位階9位、『黒豹のトルーグ』様。そして私は位階16位の『白猫のキャッツ』。外で警戒しているオウロは24位ですね。簡単に言うならば、位階が下の者は上の者に従う義務がある、と理解していただければ概ね合っています」
「あの強さで、9位なのかよ……」
トルーグさんの強さ、技を1番間近で見ていたからこそ、シンはその事実に驚いていた。キャッツさんの話からすれば、少なくともトーグルさんよりも強い人がエルドバには8人も存在していることになる。
「位階が一桁の方々の強さは、それ以下とは明らかに異なります。更に、4位から6位の方々は近衛騎士と呼ばれ、王の最も側で護衛を行うエリートなのです」
キャッツさんはそう言って胸を張る。エルドバ人にとって、強さこそが恐らく尊敬や発言力の分かりやすい指標になっているのだろう。
「1位から3位はどうしたんだよ」
だが、シンには納得のいっていない部分があるらしい。確かに、実力が高い者が王の護衛をするならば、その方が効率的にも思えるが……。
「エルドバにおける位階1位は、獣王そのものものです。位階2位の方は、我々国内のみの騎士とは異なり、聖騎士として正式に認められており、殆ど国内にはおりません。ただ、3位に関して言うならば、少々訳ありでして……」
そう言ってキャッツさんは言葉を詰まらせる。
「位階3位『銀狼のシルバー』様は現在、大使殺しの罪にてエルドバ国内で幽閉されております」
キャッツさんの目は、今まで見た中で一番鋭く、冷ややかなものとなった。
はじめましての方もここまで読んできてくださった方もこんにちは、こんばんは、作者のぜいろです!
この章は元々この小説を書き始める時点で構想の中に入ってたものなんですよね(もちろん他の章を適当に思いつきで書いてるわけではありませんが)……。
作者は獣人というキャラクターに対して、色々な作品に出てきた際にはテンションが上がってしまうタイプです。なので気づいたんです。
獣の王国編を作ってしまえば良いんだと。
そうすれば今まで手の届かなかった、獣人のかっこよさ、美しさ、可愛さが書けるのではないか……、と。
そういう意味で、随分前からこの章については絶対書く。この章までは頑張って話を前に進めるという意気込みで突き進んで参りました!
更新ペースが早いと感じたら、多分それは作者のテンションのせいですね、はい。
長々なりましたが、今後はこの後書きの部分で色々なことを書いていこうと思ってます。
キャラクターの裏設定だったり、キャラの登場秘話など、作品の中では語れない部分、作者の心境など綴っていく予定ですので、是非ブクマ等をして経過を追って頂けると助かります!
勿論、感想・いいね・レビュー・評価等も無限にお待ちしております。評価ポイントが更新されて増えていくのを見るだけで、なろうの作者というのは嬉しいものなのです(皆さんご経験あるかと思います)。
それでは次回の話でお会いしましょう!




