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五大英雄と殺戮の少年  作者: ぜいろ
第1章 砂の王国編 ー国の夜明けを待つ者達ー
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カルマ・ロリック

シンと自分を名乗ったバンダナの男は、馬車に乗り合わせた子供の首にナイフを突きつけていた。



「やめるんだ……。今すぐその手を放せ!」


馬車に乗り合わせた護衛のうち、身長の高い男はそう諭した。武器を取り出さないのは、この場においてその行動が危険なものだと分かっているからだろう。




「はあ……。言ってるだろ、お前らが金目の物を差し出せばいいって。話も分からないのか?」


シンは淡々とそう口にする。この場において誰もが、そのことはわかっていた。




「まあ、落ち着きたまえよ」




緊張状態の中、言葉を発したのはアンバーセンさんだった。目を閉じたまま、シンに語りかける。


「金になるかは分からないが、私の本で良ければ持って行ってくれ。子供に手を出すのは大人のすることではないよ」




そう言ってアンバーセンさんはゆっくりと目を開く。そこにあったのは、先程までの興奮気味の彼女とは違う、冷静で見透かしているような目だった。



「ただ、それでこの件はお終いだ。君もこの馬車に乗り合わせていたなら聞いていたろう?私は世界連邦の者だ。君のことを、知らない訳じゃない」



アンバーセンさんの言葉に、シンと名乗った男は一瞬顔を曇らせた。



「俺の何を知ってるか分からないが、世界連邦の役人様の所有物とあれば高値がつくだろう。この場はそれに免じて引いてやる」


シンと名乗った男は、乱暴に子供を親の方へと投げた。子供は泣き始め、母親はそれを強く抱き締めている。


「君の事、覚えたからね」


アンバーセンさんの威圧に物怖じたのか、それとももう用が無くなったのか、シンと名乗った男は、アンバーセンさんが持っていた本を肩に担いで馬車の外へと消えていった。







しばらくして、馬車は再び動き始めた。馬車の中は先程までの騒動が嘘のように静まり返っていた。



「……皆さん、心配をかけて申し訳ない。それに世界連邦の考古学者殿、アンバーセンさんと言ったか、我々の力不足だった」


気まずい空気をやぶったのは、護衛のうち先程シンと名乗った男を諭していた方だった。



アンバーセンさんは、さっきまでの優しい表情に戻り、言った。


「いえいえ、私の力では無いですよ。世界連邦という名前はこういう時に役に立ちますね!」


彼女の明るさで、いくらか馬車の中の空気は和んだ。所有物を取られたはずの彼女が1番の損害を受けているというのに、だ。






それから15分ほどして、馬車は再び止まった。シンという男が言っていた通り、馬車は既にザバンの領土内に入っていたようで、外に出るとそこにはボゴレの街とは異なる異国の風景が広がっていた。



遠くを見渡しても砂漠しか広がっていない。そんな砂漠の途中に、堅固に作られた城壁がそびえ立っていた。




「さて、君はこの国で身寄りがあるのかい?」


俺と共に馬車を降りたアンバーセンさんは、ザバンに来る時とは違って少なくなった荷物を抱えて、そう言った。


「あ、知人がこの国にいるので、大丈夫です」


「そうかい。私はこの後色々調べ物をしなくちゃいけなくてね。それに、さっきの件を上に伝える義務がある」



先程の襲撃を思い起こしているのか、アンバーセンさんの表情は冷静を装いながらも気迫に満ちていた。俺は一年前、このような人達に追われていたと考えるとゾッとした。


「ところで、君、名前はなんて言うんだい?」


「……あ、セリアです!」


事前に、世界連邦の人間と接してしまった時のため、俺はゴーシュさんと嘘の人間の設定を作りあげていた。こうなることは、ゴーシュさんは予測していたらしい。



「そうかい、セリア君。私はまだこの国にしばらくいると思うから、また会った時は是非声をかけてくれ」


そう言い残してアンバーセンさんは城壁の中へと消えていった。とりあえずは疑われずに済んだらしい。






()()()()()()





ザバンへと入った俺は、その国の繁栄ぶりに驚いた。ここ数年、鉱石業で力をつけている国とはゴーシュさんから聞いていたが、とても砂漠の中にある国とは思えなかった。


ザバンはサドムに近い国としても知られているので、様々な目的を持った人が行き交っている。俺のように精霊の神殿を目指している者も多いと、ゴーシュさんは言っていた。




「とりあえず、探さなくちゃな」


俺はゴーシュさんから貰った地図を広げて、尋ね人を探すことにした。





人伝てに広い国内を探し回る頃には、とっくに夜になってしまっていた。賑やかな国内はそれでもまだ眠る気配は無いらしい。



国の至る所で踊り子のような女性が踊り、それを見ながら酒を酌み交わす人達で溢れていた。




ゴーシュさんの友人だという人物は、そんな国のボゴレの街に近い城壁から、最も離れた民家に住んでいるようだった。話を聞く限りでは、寡黙な人だがザバン王国の軍隊で有名な軍人だったらしい。


傭兵をやっていたゴーシュさんと戦場で会っていても不思議ではない。




案内された場所に行くと、そこは周りの家と随分離れた距離にあり、きらびやかな街とは対象的な木造の家があった。


立てられた看板には、ゴーシュさんから聞いていた、「カルマ・ロリック」の名前が記されていたため、俺は確信をもって家の扉をノックした。




「すいません、ゴーシュさんに紹介されてきました」



しかし、家の中から反応はない。窓からは明かりがついているのが分かるので、居ないはずは無いのだが。


「すいませーん!」


俺はもう少し大きな声でカルマさんが居ないか尋ねた。しかし、やはり返事は無い。


「おかしいな……」


そう思ってドアノブを触ると、扉に鍵がかかってないことが分かった。不用心なのか分からないが、開けるということは入ってもいいということだろうか。


「お邪魔します……」


そう言って家の扉を開けると、中からなにか音がした。




カチッ




その瞬間、俺の目の前には三本の矢が飛んできていた。気がついた時には眼前まで近づいており、俺はあまりの出来事に躱すことが出来ないと思った。


「ああああっ!」


咄嗟に、俺は自分の能力を発動させていた。ゴーシュさんとの訓練で突然の事態に対する対処を学んでいて正解だった。


俺は自分の手から黒色の痣を伸ばし、半ば反射的に矢を掴んでいた。ただ、仰け反った体は元に戻すことが出来ず、そのまま尻もちをついてしまう。



「なんだぁ、ゴーシュは手ぇ抜いて育てたのか?」



家の中から、金髪で筋骨隆々な大男が現れた。その人物はそのまましゃがみ、俺の手に触れる。



「なかなか物騒な力持ってるじゃないか。だが、儂の家を壊さなかったことは褒めよう」



そう言って彼は、俺の手を握り、立たせてくれた。この人物が、ゴーシュさんに聞いていたカルマさんだということに気がつくまで、そう時間はかからなかった。


「入って、とりあえず美味い飯でも食べようか」


カルマさんはニッコリと笑った。

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