仲間の存在
精霊の神殿での一件はすぐにサドム本土に報告されることになった。
俺の後に控えていたフィスタの儀式については問題なく終了し、傷だらけになった状態のベルちゃんとゼルちゃんは、エルゴール城へと報告に行くことになった。
「姉貴がああ言うのは分かるけど、神殿の番人として仕事はせんといかん。やから大人しく待っとけ」
「水帝様も、きっと分かってくれますから」
そう言って俺達3人は番人の2人を城の外で見送った。
「全く、お前の中に居る奴は何者なんだよ」
シンは俺の肩に腕を乗せると、グイッと自分の方に引き寄せて尋ねる。
「だからそれは古代悪魔……」
「その話はあのガキンチョから散々聞いたさ。問題はなんでそんな過去のヤバい奴が、お前の体の中にいるのかって話だ」
「それは……俺にも分からない」
「シンさん、ダリアさんだって今色々悩んでるんです!センシティブな時期にそんなにぶっきらぼうに接さないでください!」
そう言ってフィスタはシンから俺を奪い取るようにして自分の方に抱き寄せる。
「でもまあ、現時点でその悪魔に関して分かってることが2つあるけどな」
シンはそう言って城の生垣の近くに腰を下ろし、二本指を立てて見せた。
「なんですか、それって」
「お前もあの一部始終を見てたなら感じたと思うけどな。1つは、あいつはダリアのことを主と呼んでいた。つまり、主従関係が少なからずあるってことだ。もう1つは、あの状態においてもあいつは俺達のことを味方だと認識していたってことだ。俺は手を出しかけたから反撃をくらったが、話を聞く限りじゃお前は何もされてないんだろ?」
そう言ってシンはフィスタの方を見る。
「たしかに。全体に向けての爆発みたいなのはありましたけど、私個人には何もしてきてなかったです……」
「つまりだ。あいつはダリアの状態、普段の時の事を知ってるってことだろ?そうじゃなきゃ、それこそ見境なく人を攻撃するバケモノってことになっちまう」
それを聞いて、シンが俺に何を言いたいのか俺は理解することが出来た。
「俺の家族を殺したのは、あの悪魔じゃないってことか……?」
「まあ、俺はその可能性もあるって思ってる、ってだけだ。今この時もあの悪魔が意識を共有してるってなら、仲間である俺達に手を出さない以上、それこそ自分の家族なんて手にかけねぇだろ」
シンの話は、俺に一縷の希望を持たせてくれるような話だった。あの何も無い空間でラグドゥルが話していたこと。アーバの街での出来事は、俺がやったと言っていたこと。でもそれは、俺の意識も共有していたあいつには出来ない事だったのではないのか。
あの悪魔に、俺は騙されただけではないのか。
そんな、希望的観測を持つのには、十分すぎる回答だった。
「まあ、あの時のダリアの殴りは中々効いたが」
「うっ……。ごめん」
「それでも、俺達のことをちゃんと仲間だと思ってくれてる事の方が、俺は嬉しかったよ」
そう言ってシンは無邪気に笑った。俺がしてしまった事をこうやって笑って流してくれるのは、シン以外にいないだろう、とつくづく思う。
そうやって3人で話していると、エルゴール城からベルちゃんとゼルちゃんが出てきた。
「水帝様からのお達しや。今回の件は不問とする、ただし次の十帝会議で古代悪魔についての検討を行うってな」
「首の皮は繋がりましたね」
2人はいつの間にかボロボロだった服から綺麗な服へと着替えている。ハピナスさんの好意だろうか。
「ただ、古代悪魔を宿しとるっちゅう業はそれでも大きい。そこでや、水帝様はお前のために進むべき道を示してくださったんや」
ベルちゃんは得意げに腕を組んで胸を張る。
「サドムより東に100km程の所に、エルドバという国があります。そこはかつて古代悪魔が支配していた領域で、今は獣王と呼ばれる王によって統治されている国です。そこであれば、貴方の中にいるラグドゥルという存在についてより深く知ることが出来るかもしれない、との事です」
ベルちゃんに代わって、ゼルちゃんが詳しい説明をしてくれる。なんにせよ、俺はこのままハピナスさんの好意に甘え続ける訳には行かない。
俺には、俺のやるべきことがあるはずだ。
「ちゅうわけで、出立は今日の夜。水帝様も十帝会議に向けてこの国を離れることになるから、お前らを隠しとくのも無理なるタイミングや。まあ、いつまでも世間では罪人として扱われとる奴を置いとけんからな」
ベルちゃんはそう厳しく言ったが、それは俺も弁えている。むしろタイミングを示してくれるのは願ったり叶ったりだ。
「エルドバまではサドムの水馬車をお貸しします。明日の昼にでも到着出来るでしょう」
そう言ってゼルちゃんは、水馬車の手配先を記した地図を渡してくれた。
「これから先、幾多の困難が貴方を待ち受けるかもしれません。しかし、サドムはいつでも貴方達の味方です」
そう言って笑うゼルちゃんに、俺は感謝の言葉しか無かった。
「色々してくれてありがとう。迷惑かけてごめんね」
「大変なのはこれからですよ、ダリア様」
3人はエルゴール城を離れていった。
「あいつらも大変やな。水帝様の試練ってとこか」
「そうですね。行先がエルドバとは、辛い旅路になるかもしれません」
「まあ、乙女の肌に傷をつけた罰やな」
「ですね」
2人の少女は、笑い合った。
ーエルドバ国内、とある地下室ー
「……匂うな」
両手を鎖で壁に繋げられた男は、そう言って口角を上げる。鎖は血で濡れ、既に乾いて黒く変色している。
水の滴り落ちる音だけが、周囲に響いていた。
「黙っていろ。自由に話す権利を与えた覚えはないぞ。自分の起こした罪を分かっているのか」
「……へいへい」
近くにいる見張りの注意に、男は大人しく従った。欠伸を一つ。牢の窓から見える月を見て、男は口笛を吹く。
(強い奴が、近づいてんな。背筋が凍るような、そんな気配が……)
「……ハハッ」
乾いた笑いが、地下牢に響いた。
作者のぜいろです!
水の帝国編序章で戦闘シーンは書かないと言っていましたが、ついつい手が出てしまった作者です…。
この話でサドムでの「始まりの物語」は1度完結になります。次からの章についても既に構成等考えておりますので、お楽しみに!




