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五大英雄と殺戮の少年  作者: ぜいろ
第3章 水の帝国編 序章 ー顕現する過去の禁忌ー
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八騎聖 vs. 古代悪魔

ラグドゥルは不敵に笑った。四方八方からの殺意を持った凶弾を跳ね返すように、笑ったのだった。


「……無傷かい」


「そのようですね」


その現実を突きつけられてなお、2人の目は死んではいなかった。選ばれた聖騎士としての誇りか、この場を死守するものとしての使命か、とにかく2人は目の前の強大な敵に立ち向かうことを決意していた。


「なあ、ゼル」


「なんですか、ベル」


「こんな状況、八騎聖(ウィットシュバリエ)になって初めてやな」


「そうですね」


そして2人の騎士は笑う。





「ここからが全力や」


「ここからが全力です」





ゼルはラグドゥルに向かって掌を向けると、その手を強く握り締める。


「今度は、逃がしません」


反逆の鎖(アンチ・チェイン)



再びラグドゥル付近の空間から突如として現れた鎖は、彼女の四肢を固定する。


「こんなもので時間稼ぎをしようとは……。学習出来ないんですか?」


「今のうちに高を括っているといいのです」


ゼルは不敵に笑う。





堅土槍(ファングニール)・跋扈


身動きを封じられたラグドゥルの上には、片手に土の槍を構えたベルが浮かび上がっていた。


「ぶちかます」


ベルは強く手を握り込むと、それに合わせるようにしてラグドゥルの足元の地面が捲りあがり、ラグドゥルの体を這うようにしてせりあがってくる。



砂蛇締め(サーペントロック)



四肢だけでなく首の方向を変えることすら封じられたラグドゥルは、それでも尚余裕を持って待っていた。


「さあ、全力でおいで」


「黙っとかんかい」




ズドオオオオンッ!




ベルとラグドゥル、2人を包むその場所は猛烈な砂埃に包まれた。ベルの技の威力故か、能力による砂の飛散故かは分からないが、とにかく強烈な暴風が周囲を襲った事だけが確かだった。






スタッ、スタッ



その悪魔は、まるで何も起きなかったような平静な態度で、それでいて満たされたかのような恍惚な表情に満ち、砂埃の中から現れた。


「やはり、主を選んで正解だった……。このような強い者と戦えるのは、飽きないな」


その悪魔の前には、ベルが倒れ込んでいた。最大火力にも近い一撃をもってしても、悪魔にはその力は届かなかった。


「中々、良い」


その悪魔の笑みを、その場に居合わせた人間は今までのどんな恐怖の象徴よりも強く認識した。


「ベルッ!」


そう言ってゼルは飛び出し、鎖の切っ先をラグドゥルに向かって投げ飛ばす。


しかしそれは、ラグドゥルの目の前で時間が止まったかのようにピタッと停止してしまう。



沈黙する従者(マーキュリー)



「なんでっ……!」


「貴方の力も中々です。私の身動きを制する事が出来る人間、いや、()()()()()()そう居ないのだから」


「うるさいっ!」


ゼルはそう言って胸に手を当て、呪文のようなものを唱え始める。





闇より出でし黒き力


契約に則り


今こそその力を……



「姉貴っ!」




その言葉に割って入るようにして、ラグドゥルの下で倒れ込むベルは、ゼルを静止した。


「……それを使うのは今やない。うちなんかのためにそれを使わんといてくれ」


「……でもっ!」


ベルはそう言って涙ぐむゼルに笑いかけ、ゆっくりと立ち上がる。


「おい、いつまでこのバケモノに操られてんねんクソガキ。()()()()()()


そう言ってベルは、残された力を精一杯振り絞ってラグドゥルの胸を殴りつけた。





ドクンッ





その心臓の鼓動は、ベルやゼル、フィスタにまで聞こえる大きなものだった。


音の主であるラグドゥルは、いきなり自分の首を締めるような形をとる。


「……それが貴方の選択なのですね、我が主よ」


そう言って不敵に笑ったラグドゥルは、スっと腕を下ろし3人に向き直った。



「来るべき時に、また会うことになるでしょう。強き乙女達」


そう言ってラグドゥルは静かに微笑み、そのまま倒れ込む。その場には、何にも言い換え難い静寂だけが残された。









「……俺は、また……」


俺は起き上がり、頭を抱えた。あの何も無い空間で出会った俺の中にいる「悪魔」。それがまた、現れてしまった。


「ラグドゥル。その名前を、古い文献で見た事があります」


気が滅入っていた俺の隣に座ったのは、ゼルちゃんだった。


「私達が仕える水帝様。その遥か祖先にあたる初代水帝の時代に生きたと言われる伝説上の4人の悪魔。その中の一人が、ラグドゥルという名前でした」


「……古代悪魔」


「そうです。彼らは文献上、五大英雄に仇なす者達として書かれた強者。現水帝様の強さを知る私ですら、その歴史を疑っていましたが、直接会ってそれが真実であると確信しました」


「……」


言葉も出ない。これだけ2人をボロボロにした俺に、これ以上慰めの言葉をかける権利などあるはずがない。





「ダリア様」


そうやって伏せ目がちになった俺の目の前に、ゼルちゃんは顔を突き出して近づいてきていた。


「……っ!……どうしたの?」


「水帝様は、こう仰られていました。近い未来、その身に業を背負った『運命の子』が生まれてくる、と。災いの渦中に棲む彼らを止めるのは、自分達の役割だ、とも」


「それって……」


「ダリア様だけの問題ではありません。水帝様はとっくに気がついておいででしょう。少なくとも五大英雄の子孫の方々には、この話はすぐに伝わるかと思います」


「……」


「ですが私達は、サドムの民はダリア様の味方です」


その言葉は、俺にとって意外なものだった。かつて五大英雄に逆らった悪魔を身に宿し、それでいて自分たちを傷つけられて尚、なぜこの子はこんなことが言えるのだろうか。



「……なんで、そんなこと言えるんだよ……」


「水帝様を、信じていますから」


そう言うゼルちゃんの瞳は、ただ真っ直ぐ俺のことを見つめていた。その目に、曇りはないように見える。


「水帝様が信じると言われたのです。私達はその運命に従います」


「でも、俺は……!」






「一人じゃないんです、私達は」




そう言ってゼルちゃんは俺の手を優しく握り締めた。俺は、これまでどれだけの人に救われてきたかを改めて感じることになった。


それが例え、全てを失う道だったとしても。














「ようやく目覚めたか、ラグドゥル」

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