顕現
目が覚めるとそこには、心配そうに俺を見つめるフィスタが居た。
「ダ、ダリアさんっ!大丈夫ですか!?」
ひどく焦っている様子で、フィスタは目に見えて動転していた。
「……ここは?」
「精霊の神殿の外ですよ!忘れちゃったんですか?」
俺はフィスタの両手で頬を挟まれ、口をとがらせる形になった。
「とにかく、無事でよかったです……」
そんなフィスタの顔は安堵に包まれていた。俺はそれくらい心配をかけるほど眠っていたのだろうか。
「いつまで寝とったんやボケナス」
そう言いながら、ベルちゃんは不満そうに腕を組んで俺を睨みつける。何故かその体はボロボロだ。
「……その怪我は?」
「ホンマに何も覚えてないんやな。これだけ乙女に傷つけといて……。その件についてはうちよりも姉貴に聞いた方が早いわ」
そう言ってベルちゃんはゼルちゃんの方を見る。ゼルちゃんはベルちゃんと同様に傷だらけであり、服もボロボロである。
「改めての確認ですが、つい先程まで起きていたこと、ダリア様は全く覚えていらっしゃらないということでよろしいですね?」
ゼルちゃんの顔は、少し怒りを孕んだような、そんな風に見えた。
「……何の、話……?」
「……それならば今回の件は不問とします。加護の暴走は例が無いわけでもありません。しかし、精霊の神殿から出てきた後の貴方は、とても正常とは思えない様子でした」
ー数十分前ー
「……あ、ダリアさん!」
フィスタが顔を向けた先には、精霊の神殿から出てくるダリアの姿があった。
「遅せぇじゃねえか、全く……」
そう言って木陰に腰を下ろしていたシンもゆっくりと立ち上がる。
その時だった。
ゾワッ
体を支配する強烈な寒気に、フィスタら4人は襲われた。それは生物が本能的に持つ防御反応であり、正常な思考である「恐怖」と呼ばれる感情。
その発生元は、目の前に居る視線を落としたダリアであった。4人はそれを本能的に察していた。
「おい、何やあのバケモノは……!」
ベルは冷や汗を流しながら、フィスタとシンに尋ねる。フィスタは自分は知らないと言った様子で顔を左右に振るが、シンはダリアを見つめたまま硬直していた。
「シン様、心当たりが?」
ゼルの問いかけにシンは重い口を開く。
「……ミスティアでも、あいつはああなった。ザバンでもだ。あの状態のダリアは、別の何かに支配されてる……」
シンがそう言葉を発した瞬間、ダリアの影が4人の視界の先で静かに揺らめいた。
ブォンッ
4人が気がついた時には既に、全員が遥か後方に吹き飛ばされていた。体が、頭が理解するのに、明らかなタイムラグが生じていた。
「フィスタ、大丈夫か!」
シンはすぐに、4人の中で最も脆いであろうフィスタの身を案じた。しかしフィスタは、水の膜のような物に覆われており、外傷などは無さそうに見えた。
「私は無事です!」
「なら良い!おい聖騎士!」
シンは力の限りベルとゼルを呼びつける。
「あいつを止められるのは俺達だけだ。少なくとも水帝並の力はあると思えよ!」
ー速度特化100%ー
シンは目にも止まらぬ早さでダリアの元へ近づき、拳を振りかざす。しかし、シンの手が触れる直前でダリアと目が合った。
「貴様は仲間だろう」
そう言ってダリアは、シンの鳩尾に強烈な一撃を見舞った。
そのままシンはダリアに体重を預けるようにして意識を失った。
「シンさんっ!」
フィスタは泣きそうになりながらダリアの方を見つめる。ダリアはシンを地面に横たわらせてから言った。
「主の仲間にこれ以上手は出さない。私が実力を見たいのはそこの2人だ」
そう言ってダリアは視線を2人の少女に移す。そこには、臨戦態勢に入ったベルとゼルが居た。
「何が仲間や……。ドス黒い気配しよるくせに……」
「敵意、とみなしてよろしいのですね、ダリア様」
2人の目は最早、獲物を狩る狩人の目をしていた。冷たく、それで居て強かであった。
「今はダリアでは無い。私の事はラグドゥルと呼んでくれ」
そう言ってラグドゥルは髪をかきあげ、黄色く透き通った眼を露にした。
「ラグドゥル……?」
ゼルはその名前に微かに反応する。
「それより来ないのか?私は強い者と戦いたいのだ」
そう言ってラグドゥルは2人を挑発するように手招きした。
「ぶち殺したる」
「……手加減は要らないでしょうね。名前の通りならば」
ベルは両手を組み、目を閉じる。それに合わせるようにして、ベルの周囲の地面が地鳴りのような音を立てて動き始める。
「『土葬の加護』なんぼでも味合わせたる」
土弾
ベルが手を前方に突き出すと、その周囲には土の塊が鋭利な形となって集まり、ラグドゥルの方向を照準に合わせていた。
「ぶっ飛べや」
ベルの声に合わせるようにして、鋭い土の弾丸がラグドゥルを襲う。
しかし、ラグドゥルはその土を、軽く右手の手で払った。その瞬間に、凝縮されて硬度を増した土の塊は、呆気なく弾け飛ぶ。
「なっ……!」
「土遊びですか?幼稚なものですね」
「……全力なんて言ってないやろ」
多土弾
額に血管を浮かべたベルは、先程の数倍の大きさはあろうかという巨大な土の弾丸を、数十個周囲に浮べる。
「数や大きさが変わっただけではないのですか……?」
ラグドゥルはやれやれといった様子で呆れているが、ベルはそれに対して不敵な笑みを浮かべた。
「うち1人やったらな」
その瞬間、ラグドゥルは無数の鎖によってその四肢を捕縛された。どこからともなく、謎の空間から現れたその鎖は、ラグドゥルに身動きを取らせまいとがんじがらめになっている。
「私の『怨鎖の加護』、貴方の一瞬なら奪えますでしょうか」
ゼルはラグドゥルに向かって鎖を仕向けていた。それによって生まれた隙を、ベルは逃さなかった。
「デカい顔するなら、受け止めてみいや」
多土弾・増殖
ベルの周囲だけでなく、ラグドゥルを覆い囲むようにして、巨大な土の弾丸は彼女を捉えていた。
ドゴオオオンッ
そしてその無数の塊は、一瞬のうちに爆ぜるようにして一斉にラグドゥルへと襲いかかった。
立ち上がる煙の中に、ベルとゼルは気を抜くまいと目を凝らす。
「……しぶとい、ですね」
ゼルが見る先には、翼でその身を覆ったラグドゥルの姿があった。
ゆっくりとその翼が開かれると、ラグドゥルの白く鋭い牙が露になる。
「面白い」
ラグドゥルはニヤリと笑みを零した。




