精霊の棲む島
「恩寵と……忘却……?」
フィスタは首を傾げてその言葉の意味を汲み取ろうとしているようだ。そもそも言葉が理解出来ていない可能性はあるが……。
「まあ、実際に行かれた方が早いと思います。既に準備は出来ておりますので、向かうとしましょう」
ゼルちゃんはそう言って、波止場に停泊している船の方へと向かって歩き始めた。
「そ、そういう訳やからはよ行くことやな!」
ベルちゃんは相変わらずシンに怯えながら走ってゼルちゃんの後に続いた。
「シンさん……」
「なんだよ、その顔は!」
フィスタの蔑むような顔を見て、シンは何やら怒っていたが、シンの気持ちもまあ分からなくはない。
「とりあえず落ち着いて、ね」
「なんなら力で認めさせた方が楽だったはずだぜ?」
「シンさん……」
フィスタのシンへの好感度はしばらく戻ることが無さそうだ。
波止場に行くと、船に既に乗り込んだベルちゃんとゼルちゃんがいた。
「さあ行きましょう、客人方」
「はよ乗らんかいっ!」
二人の声に従って、俺達は船へと乗り込んだ。
波止場を出て1時間ほど経っただろうか。一面海に囲まれている変わり映えのない景色の中に、一つの島がようやく見えてきた。
「あれが、精霊の神殿のある島……」
その島には、空から光が降っていた。そう形容出来るほどに美しい光景が俺の目には入ってきた。
さほど大きいようには見えない島だが、その島から放たれる気配は、背筋が凍るような強いものだった。
「久しぶりだな、ここに来るのも」
精霊の神殿で加護を受け取ったと話していたシンは、島のその先を見つめるようにして神妙な面持ちをしている。
「もうそろそろで着きます。上陸のご準備を」
ゼルちゃんの声で、俺達は立ち上がって精霊の神殿に足を踏み入れる準備をした。
新緑の木々を照らす光。特別な気配が漂うその島は、まるで一つの場所に誘うために俺達のことを誘っているようだった。
「不思議な、感じがしますね……」
フィスタは周りにある木々に手を触れながら、人の踏み慣らした道を歩いていく。
「この島には精霊が宿る、という言い伝えがあります。サドムに生まれた子供達は皆聞くことになる昔話ですが、精霊の神殿とは精霊と人々の意志を繋ぐ場所だと、私達はそう教えられてきました」
「せや。サドム出身のあんたなら分かると思うけど、加護には意思がやどる。正確に言えば意思あるところに加護が寄り添うってイメージやな。あんたらは自覚したことないか?」
ベルちゃんのその言葉に、俺は思い当たる節があった。
ー目覚めろ、闇の使者よー
ー我が主よー
俺の中から、俺に喋りかけてくるあの声。記憶に微かに残る仮面をつけた女……。
だが、あの声の主は俺にこうも言った。
ー加護のようなものと我を同じにするなー
その話を聞いてゴーシュさんは、加護のような力であり、だがその本質は異なる、と俺に教えてくれた。その謎を解くためにも、俺はこの場所で色々なことをはっきりさせなければならない。
「見えたぞ、神殿が」
シンの声に反応して顔を上げると、そこは島の中央部。木々の隙間を抜けた先のぽっかりと空いた空間に、それはあった。
木々に囲まれた青緑色の建造物。壁には蔓が伸び、その建物を照らすかのように天から光が降り注いでいる。
「中に入ることが出来るのは1名のみです。1度誰かが入れば、他の方は外で待つことになります。どなたが行かれますか?」
ゼルちゃんは淡々とそう話した。俺とシン、フィスタは3人で顔を見合せたが、シンは俺達に背を向け、神殿の方へと歩き出した。
「俺は1度入ってる。危険がないことは知ってるが、念の為確認してくるよ」
そう言って俺達に手をヒラヒラ振って、やがてシンの姿は神殿の中へと消えていった。
「大丈夫ですかね、シンさん……」
フィスタは分かりやすく顔が青ざめており、中に入ったシンのことを心配している。
「何かあったら助けでも呼ぶさ、あいつなら」
俺はそう答えたが、ゼルちゃんからは厳しい言葉が飛んできた。
「精霊の神殿の別称についてはお話しましたね。ここは加護を受け取るに値するか選別される『恩寵』の受け取り場所であると同時に、加護への適性を見られる『忘却』のための場所でもあるのです」
「それって……」
フィスタは両手を重ねて握り、ゼルちゃんの方を見つめる。
「精霊の神殿では加護を失うこともある、ということです」
その言葉に俺はゾッとする。俺が今までザバンやミスティアでのことを乗り越えられたのは、間違いなく俺の中に宿る力の主のおかげだ。
それとの繋がりが切れれば俺は……。二人の隣に、今までのように立っていられるのだろうか。
「じゃあ、精霊の神殿にもう一度入るメリットって何なんだ?『恩寵』にも『忘却』にも当てはまらないだろ」
「ええ、ですが私は申し上げました。意思あるところに加護は宿ると。つまり、本人の成長に合わせて、加護も成長する、ということです」
「それって……」
「精霊の神殿は、使い手と加護を繋ぐ場所。選別者にはより強い『恩寵』が与えられるか、全てを『忘却』するかしか選択はありません」
「加護自体の、進化ってことか……?」
「そう捉えられても正しいでしょう」
ゼルちゃんとそのような話をしていると、神殿の方から歩いてくるシンの姿が見えた。
「お早いのですね」
「まあ、俺は1回見てるからな。話が通じる加護で良かったぜ」
シンはそう言って自分の手を開いたり閉じたりしている。
「前よりも、俺の中に強い存在感を感じる……。これが『恩寵』ってやつか。悪くねぇ」
戻ってきたシンに対して、フィスタは不安げな表情を浮かべながら何やら質問をしている。
「ううぅ……。ダリアさん、先に行ってもらって良いですか……?」
「何だよお前、ビビってんのか?」
「当たり前ですっ!」
シンとフィスタのいつもと変わらぬやり取りに俺は少し笑って、神殿の方へと向き直る。
「お気をつけて」
「無事に戻ってくるんやな」
ゼルちゃんとベルちゃんはそう言って俺の事を見送ってくれた。
神殿の内部は、地下へと続く階段のようなものによって導かれていた。壁には燭台のようなものがあるが、ロウソクなどはなく、目を凝らさないと先が見えないほど暗く感じる。
階段を下りた先には、広い空間が広がっていた。そこにあったのは、二つの石像だけが置かれた無機質な部屋だった。
「これは、魔法陣……?」
地面には古くなってかすれているようにも見える魔法陣のようなものが描かれていた。
っ!
その瞬間、俺の頭に直接響くような強い衝撃が走った。気が付けば俺は、悪魔のような禍々しい見た目をした石像に無意識に触れていた。
そこで、俺の意識は途絶えた。
「ご機嫌麗しゅう。我が主」
目の前には、覆面の女が立っていた。
「お会い出来るのを待っておりました。数百年もの間」
作者のぜいろです!
次回の話は近日中に出しますが、この物語の根幹に関わってくる特に重要な話です!
ここまで読んでくださった方も、既にブクマ済みの方も、是非是非見逃すことが無いように……。
次回 五大英雄と殺戮の少年
「過去との邂逅」
(アニメ風にしたかっただけです。タイトルをあとから考える時は出来ないかもです)




