実力
ハピナスさんの(半ば強引な)提案によって、俺達とセイバさん、リッパーさんはエルゴール城内で夜を明かす事になった。
俺とシンが同じ部屋に通され、フィスタは何やら話があると言ってハピナスさんに呼ばれていった。まあ元々性別の問題で同じ部屋に泊まることは無いとは思っていたが。
「あれが、連邦長ねぇ」
「どうしたの?」
「いや強いとは思ったけどよ、思ったよりも大したこと無さそうだとも感じてさ。水帝の方が圧倒的に強いだろ、あれは」
シンがそう言ってきたことは、俺も少し感じていた。
世界連邦。世界中にある大小様々な国々が加盟しており、国際情勢や国際協力などにおける最高決定権を持っている、正に世界の中枢機関である。
ボルザークさんがセイバさん達との会話の後に教えてくれたが、連邦長というポストは「推薦合議制」。つまり、数多の国々による合意を受けた上でのポジションらしい。
「でも、連邦長になる位だからやっぱりかなり強いんだと思うよ。俺もそれは何となく気配で分かったし、ハピナスさんも俺の事止めたくらいだから」
ー手を出してはダメ。少なくとも今の貴方じゃ彼の足元にも及ばないー
「……俺は自分がやられてみねぇと納得いかないけどな」
「それは、やめときなよ」
俺が苦笑いを浮べる中、シンはセイバさんの強さに興味があるらしかった。
「そういう話をコソコソされると気持ちがいいものじゃないな」
後ろのドアの方から声がしてそちらを振り向くと、そこにはセイバさんが立っていた。
「セ、セイバさん……」
「君に話があって来たんだが、聞き捨てならないことが聞こえたものでね」
そう言ってセイバさんは、ベッドの上に寝転がっているシンのことを見つめた。
シンはベッドから起き上がり、セイバさんの目の前まで近づいていく。
「水帝からはダリアが止められたみたいだが、世界を治める組織の長としては役不足なんじゃないのか?」
「言ってくれるじゃないか、青年。だが、水帝様のことをそのように呼び扱うのは止めろ」
シンよりも背が高く、体つきもしっかりしているセイバさんは、シンの肩を抑えるようにして手を乗せた。
ガクッ
その瞬間、シンの体が突然地面に崩れ落ちた。俺は目の前の出来事に反応が遅れ、何が起きたのかを理解するのにも時間がかかってしまった。
「……は?」
「……ってぇな!」
その場に膝をついていたシンは地面を踏み鳴らして立ち上がり、セイバさんに殴り掛かる。
「未熟だな」
セイバさんは少しだけ後ろに体を動かした。それだけのことだったが、シンの伸ばした右腕はセイバさんの顔面の数ミリ手前で完全に停止してしまった。
「ほらな、届かねぇ」
「くそっ!」
シンの目は青く光り、俺にはそれがシンが加護を使う瞬間だということを理解し、逃げるようにしてその場から離れた。
ー速度特化40%ー!
パンッ!
元の何倍にも速度が増したシンの拳を、セイバさんは1歩たりとも動くことなく受け止めた。
「……食ってかかってくるもんだから、ちょっとは期待したんだがな」
セイバさんはそう言って静かにシンの拳を下に下ろさせた。
「……っ!」
「思ったよりはやれるだろ?水帝様に比べたら、弱く見えるのも当然だが」
そう言ってセイバさんは、俺達の部屋を出ていこうとした。
「所詮、罪人の仲間だな」
その言葉が、俺の心に引っかかった。
俺の仲間だから、なんだ……。それがシンのことを馬鹿にする理由になるのか?
気が付いた時には、俺はセイバさんの後ろで叫んでいた。
「シンを、馬鹿にするな」
俺の後ろで、とてつもない気配が動いた気がした。今までに出会ったどんな強者からも感じ取ることのなかった、恐ろしい雰囲気を察した。
世界連邦長という立場上、幾らでも強者に出会う機会はある。かつての英雄たちの血を引く五人の皇帝、そして各地に散らばる彼らに並ぶ化物達。
だが、今感じている気配はそんな分かりきったものじゃない。もっと異質な何か……。
「……何者だ、君は」
「ただの、ダリア・ローレンスですよ」
「あら、もう帰っちゃうのねセイ坊」
「昨日も言いましたが、私の要件はもう解決しましたので」
「……そう。次に会うのは会議の時になるかしらね」
「はい、そうですね。……それと、水帝様」
「なあに?」
「彼の件、私からはこれ以上の追及は避けますが、上には報告させていただきます」
「良いわよ、別に。最初から話が通じるとは思ってないもの。私じゃないと納得させることも無理でしょうね」
サドムで迎えた朝、俺達が目を覚ました頃には、セイバさん達は既にサドムを去った後らしかった。
「……」
シンは自分の手を見つめて黙っている。昨日のセイバさんとの数回の手合わせで、シンは自分の今の強さについて理解したのかもしれない。
結局あれ以来、シンは俺と話をしてくれることも無く眠りについたのだった。
「ダリアさん、シンさん、おはようございます!」
そんな中でもフィスタは明るくやってきた。そして押し黙っているシンを見て呟く。
「……置物?」
「違う」
フィスタの純粋な問いかけに、黙っていたシンは冷静に答えた。
「なんでそんなに元気ないんですか?」
「あー、フィスタ。実は昨日な……」
「なんだ、そんな事ですか」
「そんなことって……」
俺はチラッとシンの方を見たが、俺と同じような感情を抱いていることは間違いないだろう。
「そんな事言ったら、水帝様は私の加護の完全上位互換じゃないですか。でも、私は落ち込みませんよ。伸びしろがあるって事ですからね!」
その言葉に、俺とシンはハッとさせられた。圧倒的な実力差を見せられたのは何もシンだけではない。水帝の能力を見て、1番その差を実感したのは紛れもなくフィスタのはずだった。
「……伸びしろ、か」
シンは手を握り、真っ直ぐ見つめていた。
「じゃあ、伸びしろを育てに行きましょうか」
その時、部屋の入口にハピナスさんが突然現れた。
「す、水帝様ぁっ!?」
驚きのあまり、フィスタはモノクロの世界に飛び込んだかのように白黒になっていると錯覚する程だった。
「ふふ、折角サドムに来たんですもの、当然行くわよね?精霊の神殿」
そう言ってハピナスさんは優しく笑った。
作者のぜいろです!
戦闘シーンを久しく書いてないので、自分の戦闘描写について見直してました。
表現がわかりにくい所もあったので、推敲ってやっぱり大事ですね




