【世界連邦長】 セイバ・オリバー
「あら、何をそんなに驚いているのかしら?」
ハピナスさんは相も変わらず、あっけらかんとした顔を浮かべている。
「お……」
「なあに?」
「驚くに決まってんでしょうがあ!」
セイ坊と呼ばれた男の人は、ハピナスさんにものすごい勢いでツッコミをいれていた。その表情たるや、今までの俺の人生で1番かと思うほどだった。
「あら、言っちゃいけないことだったかしら」
「それはっ!」
セイ坊さんは言葉が詰まっているようだった。
俺の事を言わないのは、世界連邦に背くことになってハピナスさんにとってもマイナスだろう。
しかし、世界連邦側としてもいきなりそんな事を告げられても対応に困るというものだろう。
「ちょうど今から、彼らとお話しようと思ってたの。良かったら貴方も一緒にどう?」
「……分かり、ました」
言いたいことを全て飲み込んだ大人の対応を見た気がした。
エルゴール城 客室の間
「混沌竜の討伐ならば私が引き受けたものを……」
「ごめんなさいねボルザーク。貴方の事完全に忘れてたわ」
ハピナスさんに連れられてエルゴール城へと戻った俺たちを待っていたのは、1人でせっせと客間の準備をしていたボルザークさんだった。
ハピナスさんは随分と慌ててボルザークさんを慰めていたが、ボルザークさんは遠い目をしていた。
「それと、随分とした客人が増えたようで」
「お久しぶりです、ボルザーク様」
「はは。そう畏まらなくても大丈夫だよ、セイバ君。戦争以来だから10年程時間が空いたかね」
「いえ、1年前の会議でもお会いしたはずですが……」
「そうだったかな」
不憫なのはセイバと呼ばれた男の人の方かもしれないと俺は思った。
客室の間には、ハピナスさんが1番奥に、そしてその隣にはボルザークさんが立って控えている。
ハピナスさんから見て右側には俺とシン、フィスタが座った。
そして目の前には、世界連邦の関係者であり俺よりも強いとハピナスさんが言っていたセイバさんとその秘書らしい人が座った。
客室の間には、なんとも言えない緊張感が走っていた。
「……水帝様、いきなりで申し訳ありませんが、彼が本当にあのダリア・ローレンスだと仰るのですか?」
「そうよ」
ハピナスさんはセイバさんの問いかけに対して、少しも表情を変えずにそう返した。
「それを私に伝えて、水帝様に何の得があるというのですか?私の立場上言うべきではないと思いますが、黙っていた方が水帝様にとっては都合がいいのではないですか?」
セイバさんの目は鋭く光り、水帝を前にしても微塵も臆していないように見えた。それに、セイバさんの言葉も少し引っかかるものがあるのは気のせいだろうか。
「セイバ」
その瞬間、全身の毛が逆立つような寒気に襲われた。最初にハピナスさんと対面した時にも感じた、強烈な殺気。
「私は損得勘定では動かない。貴方もよく知っているでしょう?彼のことを教えたのは、教えても問題ないと私が判断したからよ」
「……そう、ですか……」
セイバさんは額に冷や汗を浮かべながら、渋々納得したようだった。
「まあ、それはそれとして。君達にも一応俺の事を知っておいてもらおう。俺は現世界連邦長セイバ・オリバー、こっちは秘書のリッパーだ」
そう言ってセイバさんは俺の方に向き直る。隣にいるリッパーと呼ばれた女性も頭を下げる。
世界連邦長……。今の世界における中枢期間の長とこんなに早く出くわすことになるとは思いもしなかった。
「……俺は、ハピナスさんも言っていた通り、ダリア・ローレンスです」
「シン・ネオラルドだ」
「フィスタ・アンドレアと申します」
俺に続いて、シンとフィスタも自己紹介をした。それを聞いたセイバさんは、何か考え事をしているようだった。
「まさか本当にあの少年だとは……。水帝様、本当に彼の肩を持つおつもりですか。彼が何をしたのかはご存知の上で、私に彼の正体を打ち明けたという解釈でよろしいのですか?」
セイバさんは一時の思考時間の後、ハピナスさんに向かってそう言った。
「ええ、そうよ」
「……アーバの街の件、サドムの手の届く範囲のことですから勿論ご存知ですよね」
「聞いたわ、1年ほど前にね」
「ではどうして!」
セイバさんは立ち上がり、ハピナスさんに圧をかける。ハピナスさんの横に控えるボルザークさんが睨みを効かせるが、ハピナスさんはそれを制止した。
「セイ坊、私はね、過去よりも未来が大事だと思ってるの。彼、ダリアちゃんが何をしたのかは耳にタコが出来るほど報告を受けたわ。でもここ最近、彼がいくつかの国を救ったのも知ってる。きっと彼は、彼なりに罪を償おうとしている。自分が救えなかった人の分まで、それらを背負って生きようとしている。私はそれの手助けをしたいだけ。でも、ダリアちゃんのことをよく知らない人はきっと彼のことを悪く言い、嫌うのでしょう。だから、ダリアちゃんが世界からどんな目で見られても、私だけは味方で居てあげるの。それが私の正直な気持ちよ」
「彼が、また同じことを起こさないという証拠は無いでしょう……」
「ええ、私にだってそれは分からないわ。でも、その時は私が止めるもの。五大英雄の名にかけて、ね」
「それは……」
そこまで言って、セイバさんは黙ってしまった。
俺は少し前まで、この世界における五大英雄というものの存在の強さを認識していなかった。しかし、五大英雄の子孫が直々に、名をかけてまでそう言い放ったのだ。ここまで来ては恐らく誰にも言い返せないだろう。
「……他の十帝の方々は黙っていませんよ」
「あら、脅してるのかしら?」
「忠告は、しましたからね」
そう言うとセイバさんは立ち上がり、部屋を出ていこうとする。
「あらセイ坊、もう帰っちゃうの?」
「私は十帝会議の案内をしに来ただけです。要件はボルザーク殿にリッパーの方から既に伝えてあります」
「泊まっていけばいいのに。夜道は危ないわよ?」
「ご心配なく」
「危ないわよ?」
「だから、大丈夫ですので……」
「危ない、わよ?」
「……」
セイバさんは静かに椅子に座り直した。
「連邦長……。情けないですね」
「もう少し優しい言葉をかけてくれてもいいんだよ、リッパー」
リッパーさんの言葉に、セイバさんはトドメを刺されたようだった。
作者のぜいろです!
今週は出来るだけ毎日出せるように頑張ります(今までの埋め合わせではないですが……)!
みんな大好きセイバさんがサブタイトルに!覚えてる人少ないですかね?




