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五大英雄と殺戮の少年  作者: ぜいろ
第3章 水の帝国編 序章 ー顕現する過去の禁忌ー
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水神兵

目の前に現れた生物は、この世のものとは思えない禍々しい雰囲気を纏っていた。


ミスティアで見た聖獣アルケミオンも、神々しい雰囲気からこの世の生物とは思えない存在感があったが、それとはまた異質なものだった。




混沌竜(カオスドラゴン)は、元々1匹の竜である。竜の寿命は人間のそれを遥かに凌駕し、本来人前に姿を現すことも少ない。それ故に竜という存在は人間の間で神格化され、聖獣として崇められることも少なくない。


しかし、竜の死に際には大きな選択肢が与えられる。善のエネルギーを取り込み聖獣と呼ばれる存在になるものと、悪のエネルギーを取り込み魔獣と呼ばれる存在になる。


混沌竜(カオスドラゴン)は、その死に際に多くの生物の負の感情を取り込み、身体も奪うことによって凶悪化した竜の成れの果てである。





「どれだけ悪しき存在とはいえ、元々は神格化された種族。それだけに竜を討伐するのには名誉と共に罵声が浴びせられることも少なくないわ」


ハピナスさんはそう俺たちに教えてくれた。


「……それが、人に害をなす生物でも、か?」


シンの態度は、水帝という存在を相手にしても変わらないらしい。敬語を使う気はやはり無いようだ。


「あらシンちゃん、貴方の元上司に向かってすごい言葉遣いね」


ハピナスさんもその事は分かっているらしい。


「元だろ。今は違う」


「嫌いじゃないわ、そういう所」



ハピナスさんは混沌竜(カオスドラゴン)の話に方向を戻した。


「あの竜を倒すには、並大抵の力では及ばない。小さな傷など直ぐに再生するわ。だから……」



ハピナスさん、いや、水帝は右手に持った杖を前に突き出し、目を閉じた。



魔法のような力があることは、加護の存在で知っていたが、俺達の目の前に現れた光景はそれの比にはならないものだった。





上空に巨大な水の輪が突如現れたかと思うと、そこから巨大な生物の足のようなものが徐々に姿を現す。



「なんだよ、これ……」


「……馬鹿げてる」


「私、こんなに大きな水は操れません……」



俺達の目の前には、巨大な水の兵隊と思われる物体が仁王立ちしていた。右手には大剣、左手には荘厳な盾を構えたその物体は、ゆうに30メートルは超えていることだろう。



「……命をあげるわ、水神兵(アクア・ヴァルキリア)



ハピナスさんがそう呟くと、眩い光が杖の先端から放たれ、巨大な水の兵士へと向かっていった。






「……お呼びですか(マスター)





水の兵士はその場に膝を着くような動作をして見せ、ハピナスさんに敬意を示しているようだった。


「サドムに悪竜を立ち入らせる訳にはいかないわ。その討伐を」


御意(ウィル)



水神兵(アクア・ヴァルキリア)と呼ばれた物体は、東の空から向かってきている混沌竜(カオスドラゴン)の方を向くと、左手の盾を構え、攻撃を受けるような姿勢をとった。



排除(リジェクト)開始(スタート)





ゴアアアアアアッ!






カオスドラゴンが雄叫びを上げたかと思うと、その口から紫色の炎のようなものを吐き出し、周囲の森を焼いていく。


「……なんだよ、あの絶対に触れちゃいけなさそうな見た目の炎は……」


「カオスドラゴンの炎は生命の炎。簡単に水などで消火出来るものではありません」



ハピナスさんはそう言いながらも、冷静だった。まるでこの後に怒ることを知っているかのような、そんな雰囲気だった。




そしてその通り、勝負は一瞬で決した。




攻撃(アタック)




アクア・ヴァルキリアからそんな機械音声にも近い声が聞こえたかと思うと、その巨体は大きく1歩を踏み出し、カオスドラゴンの真下へと入り込む。


そして右手に構えた剣を、上空に向かって振った。ただ、それだけだった。




ドシュッ




鈍い音が周囲に響き渡った。その音の出処はカオスドラゴンの方のようで、先程まで雄叫びを上げていたとは思えない静止を見せていた。



直後、カオスドラゴンの首が綺麗な切断面をもって地上に叩きつけられた。それに遅れるようにして、血を吹き出しながら、胴体も墜落した。




「一撃……」


俺は、自分達が倒せるかも分からない魔獣を、自分の力さえ使わずに倒した目の前の少女の実力を改めて実感することになった。


「水帝さんよぉ、まさかあれ複数体出せるとか言わないよな……?」


シンも強気に見せているが、顔が強ばっているのが分かる。その言葉を聞いてハピナスさんはにっこりと笑う。




「同時だと10体ほどよ。今、見てみたいかしら?」


「……いや、結構だ」


ハピナスさんがあまりにも余裕そうに言うので、シンは引き下がることを決めたらしい。


「流石水帝様ですね……!」


「何を言っているのよ。()()()()()()()




ハピナスさんの言葉に、加護の力を褒めたフィスタは硬直する。


「……え?」


「そう、何も聞いていないのね。だから私に会った時に気づかない訳だわ」




ハピナスさんがそう言ってフィスタに近づこうとしたその時だった。


「ラハン様ぁ!」


カオスドラゴンが飛来した方角から、大きな声の持ち主が現れたようだった。


「あら、珍客が来たものね」





そこに居たのは、銀色の装備に身を包んだ金髪の男。今までに色々な敵と会ってきたからこそ、その男の強さはこれだけ離れていても察することが出来る。


「……強い」


「そうよダリアちゃん。手を出してはダメ。少なくとも()()()()じゃ彼の足元にも及ばない」


額に冷や汗を浮かべる俺を見て、ハピナスさんはそう言う。




「何をしに来たの?セイ坊」


「何って……。あれ、もしかして世界連邦からの文書はお着きになってないでしょうか……?」


「さあ?私、そういうの自分で読まない主義だから。ボルザークなら知っているかもしれないけどね」


「そんなあ……。文書を送ったのはもう1ヶ月も前の話ですよ!五大皇帝の方々の中でラハン様だけ連絡が取れずに困ってたんですから……」



男の態度を見るに、ハピナスさんよりも身分が下だということは分かった。強さからして五大英雄関連かとも思ったが、そうでは無いらしい。


ただ、俺にとって看過できない単語は聞こえてきた。



()()()()





ザバンとミスティアの件はあるとはいえ、俺は未だに指名手配中の身だ。世界連邦に追われている立場として、ここはなんとか姿を隠したい所だ。



「あ、そうそうセイ坊。紹介するわ。貴方達が1年ほど前に追ってた手配犯のダリアちゃんよ」



そう言ってハピナスさんは、なんの悪気もなく俺の事を指さした。



「……」


「……」



俺と、セイ坊と呼ばれた男性は無言で目を合わせる。






「ええええぇっっ!?」




その時のセイ坊さんの顔は、生涯忘れることが出来ないだろう。

作者のぜいろです!


またまた久しぶりの投稿になってしまったことをお詫びします……。


アイデア自体は頭にあるんですが、なかなか文章にしようとすると大変ですね

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