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五大英雄と殺戮の少年  作者: ぜいろ
第1章 砂の王国編 ー国の夜明けを待つ者達ー
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シン・ネオラルド

ゴーシュさんと別れたアラポネラの神林から、俺は2日ほど経ったボゴレの街にいた。ゴーシュさんの古い友人がいるという場所までは、ここから馬車で1日ほどらしい。


当面の生活に困らないようにと、ゴーシュさんがかなりの大金を俺に渡してくれたおかげで、宿屋にもすんなり泊まることが出来た。


ゴーシュさんから聞いた話では、俺は一時期全世界に指名手配が行われ、捜索隊なども派遣されたようだが、アラポネラの神林の特性上見つけることが困難だったようで、比較的早い段階で指名手配の熱は冷めたらしい。


ただ、世界連邦の上層部は依然として俺の事を追跡する構えだそうで、今でも情報提供を求めていることには変わりは無いのだそう。


元々俺のことを広めるだけの情報がなかったこと、アラポネラの神林で大規模な捜索隊が消えたこと、一年という月日の間完全に姿を隠していたことが幸いしたようだった。


「ありがとうございました」


「はいよー。またボゴレに寄ることがあったら贔屓にしておくれよ」


宿屋の主人は優しく俺を見送ってくれた。俺は、自分が奪ったアーバの人達の顔と彼らの顔を重ねてしまい、少し暗い気持ちになった。





「ザバン行きの馬車を探してるんです」


「それならここだね。子供1人30ベル貰うよ」


俺は街の人達に道を聞き、馬車が出発する場所へとやってきた。俺の他にもザバンへと向かう人々は多いようで、見渡す限り6~7人程の人が馬車を待っているようだった。



ゴーシュさんの知り合いがいるという国は、アラポネラの神林からサドム方面に進んだ場所にある「ザバン」という国で、砂の国とも呼ばれているらしい。



国土の大半に砂漠が広がっているが、そこから取ることが出来る貴重な鉱石などがこの国の資源になっており、貿易の面で重宝されることも多いのだとか。



「ただ、君一人で大丈夫かい?」


馬車へと案内してくれた男性は、俺に突然聞いてきた。お金はもう払っているし、何を心配されているのだろうか。



「どうかしたんですか?」


「いやー、近頃ザバンにある盗賊団が活発になってきてね。馬車にも護衛はつけているんだけど、確実に安全とは言いきれないからねぇ」



ザバンにいる盗賊団については、ボゴレの街でも話を聞くことがあった。


砂漠の上を滑走することが出来る生物である「サンドシャーク」を手なずけており、移動者を乗せた馬車や金品目当てで行商人の荷物を襲うことがあるのだとか。


確かに、馬車の近くにいた人達の中には屈強な体をした人が何人かいた。彼らがその護衛なのだろうか。


「心配してくれてありがとうございます。ただ、俺も自分の身は自分で守れるので安心してください」


「そうかいそうかい。まるで五大英雄様みたいだねぇ。ただ、本当に危なくなったら大人をちゃんと頼るんだよ」



この世界では、子供の憧れる対象として()()()()の名前が挙げられる。世界の中枢でもある五大帝国を建国した彼らは、人々にとって信仰の対象でもあるのだ。





「そろそろ時間だ。盗賊団に気をつけながら行くとしようか」


「よろしくお願いします」


馬車の中には結局、俺を含めて7人が乗り込んだ。護衛と思われるガタイのいい2人の男性と、母親と息子の親子2人、バンダナのようなもので顔を隠している男性と、熱心に本を読んでいる女性、そして俺だった。


「では、出発しますね」


馬車の運転手は中にいる俺たちにそう声をかけ、馬車はザバンへの道を走り出した。




ザバンまではおよそ1日。途中他の街にも寄りながら、少し長い道のりとなる。俺はあまり人と接して来なかったため、隣に座っている人達と何も話さない空気感に耐えられそうになかった。



だが、先程まで熱心に本を読んでいた女性が、かけているメガネをクイッと上げて、俺の顔を覗き込んできた。あまりに突然の出来事に俺はギョッとしてしまう。



「君、珍しい目をしてますね」



肌と肌が触れてしまいそうな距離感の中、女性は俺の返答を待っていた。


「そ、そうですね……」


焦った俺はそれしか返すことが出来なかった。


「あ、これは失敬。名前も知らない他人から容姿のことを口出しされても反応に困りますよね!分かります!」


女性は随分とお喋りでマイペースなのか、あまり広いとは言えない馬車の中で人目をはばからず大きな声を出してくる。


「私、世界連邦直属の考古学者をやっております、ネルト・アンバーセンと申します。ザバンへは新しい遺跡が見つかったとの情報を受けて調査に行く次第です!」




俺は世界連邦という言葉に内心ドキッとしてしまったが、平静を装って答える。



「そうなんですか……。凄いですね、考古学者なんて……」


「分かりますか!分かりますかこの学問の素晴らしさが!なかなか分かって貰えないのですよ、他の人には!」


それは考古学のせいではなくそのテンションのせいではないか、という言葉を俺は必死に飲み込んだ。



「左右の目で色が違うオッドアイは、この世界では()()()という意味合いがあります!君と私が出会えた事も、私のことを君が導いてくれているのかもしれませんね!」


アンバーセンさんは、俺の返答に困った顔など意に介さずにマシンガントークを続けてきた。




今まで見てきた遺跡の謎、未だに解明されていない古文書、未発見の生物についてなど、そのテンションには慣れなかったものの、アンバーセンさんの話はどれも世間知らずだった俺の知識を埋めてくれているようで、面白かった。



「それでですね、本題のザバンについて……」


アンバーセンさんがそこまで言った時、馬車に大きな衝撃が伝わった。



ドオオオオンッ!


馬車の中に砂漠の砂が空気に紛れて入ってきたため、馬車の中は視界が塞がれてしまった。


馬車は急停止し、乗り合わせた人々は困惑の表情を浮かべる。





「俺達は蜃気楼(ミラージュ)。この国で盗賊団をやっている。痛い目を見たくなかったら、大人しく金目の物を渡すことだな」


俺の向かいに座っていた口元にバンダナを巻いた男が、いきなりそう話し始めた。彼の蒼い目だけが、睨みをきかせるように剥き出しになっている。周りの人々は恐怖の顔を浮かべ、固まってしまっている。


それに、その言葉が本当ならば、最初からこの馬車は狙われていたことになる。


気がつけば俺が乗った馬車は、いつの間にかザバンの領土内へと入っていたようだ。それで示し合わせたタイミングで爆発が起こったのだろう。



「護衛なんか関係ねぇ。最初からこうして中に乗り込んじまえば俺は人質も簡単に捕まえられるってわけさ」



馬車の中の空気が段々と澄み、バンダナの男の素顔が見えた。男は、褐色の肌に白い頭髪、透き通った水色の目をしていた。身長は座っていたため分からなかったが、かなりの高さがあるようだった。



男は馬車に乗っていた親子のうち、子供の首に手を回し、ナイフを突きつけていた。


「なに、簡単な話だ。お前らが自分の身銭を払うことで貴重な命が助かる。馬鹿でもわかるだろ?」


男は乗り合わせた乗客たちの一人一人の顔を見ながらゆっくりと話した。護衛の2人も人質を取られては簡単には動けない。



「俺は蜃気楼(ミラージュ)の首領をやってるシン・ネオラルド。俺は加護持ちだ。生半可な気持ちで抵抗しない方がいいぜ?」


男の一言で、馬車に緊張が走った。

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