水帝 ハピナス・ラハン
俺達3人は、西方聖騎士団統帥のボルザークさんに連れられて、エルゴール城の中へと足を踏み入れた。
入った瞬間に城の内部を埋め尽くす豪華な置物の数々、天井を彩るシャンデリア、使用人と思われる正装を身にまとった大勢の人々が、俺達を迎え入れた。
「すごい……」
幼い頃にサドムに居たというフィスタもエルゴール城に入るのは初めてなのか、まるで子供のように目を輝かせている。
ボルザークさんは入口正面にある巨大な階段を登っていき、俺達は後に続く。
大人でも見上げるほどの巨大な城であるエルゴール城の上を目指して、俺達は進んで行った。
入口の前にある巨大な階段と同じような階段を5回ほど上がった先には、聖騎士と思われる甲冑を着た2人の男が立っていた。
「お疲れ様です、ボルザークさん」
「うむ」
2人の内、金色の髪をしている男は俺達の方を見やると、近くに駆け寄ってきた。
「お前、もしかしてシンか……?」
「……ファンドさん!」
シンはその人物の顔を見ると、抱擁を交わした。その目は少し潤んでいるように見える。
「大きくなったな、心配したぞ。顔もしばらく見せないで」
「その節は迷惑をかけました……」
俺は、何気にシンが敬語を使っているのを初めて見た。それ程までに親交のある人物なのだろうか。
「水帝様に謁見する前に、2人を紹介しておく」
ボルザークさんは二人の間に立ち、それぞれを紹介した。
「君達から見て左の男は、私の息子であり現『水帝の盾』ジェイク・ムタファ」
「よろしく」
ジェイクと呼ばれた人物は、爽やかな笑顔を見せる。ボルザークさんの息子というだけあって、目の色や髪の色、顔立ちなどはそっくりだ。
「君達の右に立っているのが、現『水帝の矛』ファンド・シャリオット」
ファンドと呼ばれた、シンの知り合いと思われる人物は軽く頭を下げた。
「初代水帝の頃からムタファ家とシャリオット家の選ばれた者達は、直轄の護衛隊長としての役割を担ってきた。今の世代は彼らの役割ということだ」
改めてジェイクさんとファンドさんを見ると、ノエルさんと同じかそれ以上の雰囲気を漂わせていることが分かる。恐らくサドムの選ばれし聖騎士「八騎聖」の一員なのではないだろうか。
「まあ、こいつらと会う機会はまたあるだろう、それより今は、水帝様への謁見が最優先だ」
ボルザークさんがそう言うと、ジェイクさんとファンドさんは、豪華な装飾がなされた大きな扉を両手で押した。
ゴゴゴゴ……
重厚な音を響かせながら、その先の景色が俺達の目に飛び込んできた。
ゾワッ
その瞬間、得体の知れない寒気が俺の体を襲い、身体中に恐怖が伝播する。
否が応でも俺は、その気配を発する人物から目を離すことが出来なかった。
巨大な扉の先には、たった一人の少女がその丈に見合わない椅子に座っているだけだった。しかし、その少女が放つ殺気にも似た気配は、俺の体を突き刺すような激しいものだった。
「……いらっしゃい、サドムへ」
その声を聞いただけで、目の前にいる人物が五大英雄の子孫であるということに、明らかな確証を持つことが出来るほど、俺の体の全細胞が目の前の人物の強さをひしひしと伝えていた。
それはシンとフィスタも例外では無いようで、2人の表情はボルザークさんに会った時以上に青ざめ、冷や汗を流しているようにも見える。
「……待っていたわ、あなた達のこと。ミスティアのことはありがとう。今日はそれも含めて私がここに呼んだの」
そう言ってその少女は座っている椅子を離れ、俺達に一歩ずつ近づいてくる。俺達から見れば、とてつもないオーラを放つ人間が近づいてきているようなものだ。
「……水帝様、彼らには些か圧が強すぎるかと」
その時、後ろにいたボルザークさんが、目の前の少女にそう諭してくれた。
「あら、そうなの……?ごめんなさいね」
ボルザークさんの声掛けがあったからか、俺達を襲っていた水帝の圧力は嘘のように消えてしまった。
「これなら大丈夫かしら」
「はい、ご配慮頂き感謝します」
水帝と呼ばれた少女は、改めて俺達3人の前に立つ。その場にボルザークさんが膝をついたのを見様見真似で再現する。
「……旅の子達、サドムまでよく来たわね。私が『大いなる意志』を受け継いだ者、現水帝ハピナス・ラハンよ」
透き通るような水色の髪、出会っただけで卒倒するかのような膨大な圧力、目の前にいる少女がこの世界の頂点に君臨する為政者だということに最早疑いようはなかった。
「教えてあげるわ、貴方達がまだ知らないこの世界の話と、これからの事を」
そう言って水帝は優しく微笑んだ。
ーサドム近郊の地ー
「じきにサドムに到着します。そろそろ起きてください、セイバ連邦長」
連邦長に仕える秘書であるリッパーは、隣で爆睡をかましている男にそう言った。
「んあ……。もうそんな時間か」
眠そうにしている男は目を擦り、両手を上にあげて体を伸ばした。
「リッパーちゃん、ありがとう」
「連邦長のどこでも眠る癖は知ってますので」
「はは、言ってくれるねぇ」
セイバとリッパーを乗せた馬車は、サドムの国境付近へとさしかかろうとしていた。
「それにしても、あの少年が長い期間を空けてまた動き出すとは……。対応する方の身にもなって欲しいもんだ」
セイバはやれやれといった表情を見せるが、その瞬間にリッパーに頭を小突かれる。
「この件の細部の作業をやったのは私です。手柄を横取りしないでください」
「そんなこと言って、なんだかんだいつも頼んだことはやってくれるんだから」
そう言ったセイバのウインクに対して、リッパーは真顔を貫く。
「仕事ですから」
冷たい一言に、そのウインクはリッパーを通り抜けてどこか遠くへと飛んで行ったらしい。
「連邦長!サドム側の空に謎の飛行生物を確認しました!」
そんなやり取りをしていた2人の元に、馬車を運転する連邦員から急ぎの知らせが入る。
セイバは馬車にある窓から顔を覗かせ、報告された飛行生物を確認する。
「あれは……混沌竜……!?この辺には居ないはずだろう」
「サドム王都の方向へ向かっているように見えますね」
邪悪な龍は、静かに水の帝国を目指していた。
作者のぜいろです!
遂に物語の根幹に関わってくる超重要人物の一人、水帝が登場しました!
今の世界が出来た過去、その鍵を握っている一人であり、今後も活躍を予定しているキャラですので是非ご期待ください!




